表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

118/120

国家陰陽師資格試験6

「かかってこいや!」


 斧を構えた真田さんは、全く動く気配がない。


 これは私が仕掛けなければ、何も始まらないって事みたい。


 真田さんの戦いは見たことがない。

 こちらから仕掛けるのは無謀なんだよね。


 でも、そんなこと言ってられない。


 私は深呼吸して覚悟を決めた。


 力を通し、美しい姿を顕にした天の美月を構え、走り出した。


「えい!」


 掛け声と共に、天の美月を真横に振れば、ガキンと大きな音が辺りに響いた。


 斧が上段から振り下ろされ、天の美月の攻撃を防いだ。


「いたたっ」


 凄い力!

 手と腕に衝撃が走り、痺れて扇を落としそうになった。


 危なかった。


 やっぱり、真田さんは予想通りパワータイプだ。


 力対力で普通に戦ったら絶対に勝てない。


 私の持ち味はスピードだ。


 速さで翻弄して、相手のスタミナ切れを誘う作戦で行こう。


「何か考えてるみたいだが、無駄な事は止めておけ」


 そう言って、真田さんは斧をブンと横に振った。


 サッと後退し身をかわしたんだけど、真田さんが斧を振る度に風が巻き起こる。

 凄い圧だ。

 これは法具の+SPの効果に違いない。


 思ったよりも間隔を開けないと、風に巻き込まれる。


 私は一定の距離を確保しつつ、攻撃に入ると見せかけては、サッと身を引く戦法を繰り返した。


「ちっ!ちょこまかと動き回るのはもう止めねえか。スタミナが切れるぞ」


「全然平気だけど」


 真田さんの眉間にしわがよる。

 ゼイゼイと息を吐いては額の汗を拭っている。

 息が上がってきているから、もう少し攻めれば勝機が出てくるかも。


 そうして戦い続け、かれこれ一時間は攻防を繰り返している。


 ぐったりしている真田さんは、荒く息を吐き、こちらを見た。


「嬢ちゃん、お前さんの体力は底なしか?」


 私はぴょんぴょんと跳ねながら答えた。


「まだまだ余裕で行けます」


 そう。

 私は今までの戦いのお陰で大幅に体力が付いた。

 ちょっとやそっとの事では、やられないのだ。


 真田さんは「化け物かっ!」と呟きながら、頭を抱えた。


「あー、このままじゃまずいぞ。こうなったら一か八か、あの手を使うしかないか」


「?」


 暫く独り言を口にしたかと思えば、真田さんはため息をついた。


「おい、棄権するなら今のうちだぞ」


 ええっ?!

 何いってんの?


「私が有利な状況で、以前棄権するわけないでしょ」


「···だよなあ、仕方がない。ちゃんと忠告したからな。後で文句言うなよ」


 一体何が始まるというのか?


 ピタリと動きを止めた真田さんは、斧を目の前に掲げ力を送っている。

 斧が次第に輝き出した。


 何かする気だ。


 真田さんの全身の筋肉は盛り上がり、額や首には青筋が見える。


 ピリピリと小刻みに震えたかと思うと、髪が逆立ち始めた。


 なにこれ?

 周りの空気が真田さんに引き寄せられるようだ。


 ヤバい!


 間合いを開けなきゃ危険だ。


 突き刺さるような空気を肌に感じ、私は慌てて数歩後退し、扇を構えた。


「うぅ、うがああ!」


 真田さんは獣のように叫んだ。

 両腕はだらりと下がり、目は焦点が合っていない。

 今までの真田さんとは違い過ぎる。

 でも、確実に力が増していってるのを感じる。


 これ、まずいよ。


「深月!」


「ツクヨミ?!」


 振り向けば、ツクヨミが直ぐ側まで来ており、その目つきは鋭く真田さんを追っている。


「気をつけろ!あれは狂戦士化だ」


「狂戦士化?」


 ツクヨミは頷くと話し始めた。


「狂戦士化とは、攻撃力やスピードなど、通常ではあり得ないほどの力を得ると同時に、痛みを感じないほどのトランス状態に陥る。理性が保てないため、誰彼構わず攻撃するというのが狂戦士の特徴だ」


「ええっ!それってかなりまずいんじゃないの」


 今でさえとんでもないパワーなのに、更に力が上がってスピードまでも上がったんじゃ、どう考えても太刀打ち出来ないよ!


「ツクヨミ、何か対抗策はないの?」


 ツクヨミは私を庇いながら話しを続けた。


「対抗策か?そうだな、ひたすら逃げることだ」


「ええっ!逃げるの?」


「そう。間違っても正面切って戦おうとしない事だ」


 逃げる事が対抗策になるなんて、どういう事だろう?


「戦うとどうなるの?」


 ツクヨミはその顔に薄っすらと笑みを浮かべた。


「今の深月ではまず負ける。圧倒的なパワーに神器も無事では済まないだろうな」


 そんなっ!

 神器まで破壊される危険があるんなら、絶対に手を出しちゃダメってことじゃない。


「でもホントに逃げるだけでいいの?」


「そうだ。あの男の状態から見るに、後、三分逃げ切れば勝てる。あの狂戦士化状態、かなり身体に負担がかかる。持って三分だろう。狂戦士化が解除されれば、奴は動けなくなる。そこをつけ!」


「分かった」


 そうか!

 三分ひたすら逃げればいいんだね。

 それなら、なんとかなりそう。


 よし!行こう。


「ツクヨミ。私、できる限り一人で頑張りたいんだ。暫く様子を見てて」


 ツクヨミはやっぱりか、と言うようにため息をついた。


「大丈夫なんだろうな?」


「うん!やってみる」


「分かった。気をつけて行って来い」


 そう言うと、ツクヨミはふわりと上空へ浮かび上がった。


 天の美月を構えた私は、真田さんの正面にいる。


 目の焦点は合っていないものの、耳や鼻はピクピクと動き、まるで野生の猛獣のようだ。


 うぅぅっと唸りをあげた真田さんは、私めがけて駆け出した。


 は、速い!!


 私は真横に飛んだ。


 わずかに飛ぶのが遅れ、真田さんの斧が私の右足をかすっていった。


 うわっ!

 危なかった。


 結界石のブレスレットのお陰で傷や痛みは無かったものの、結界石にわずかにヒビが入ってしまった。


 このブレスレットが破壊されれば、負けと言うことを、忘れてはいけない。


 ヒュンヒュンと斧が続けざまに振り下ろされる。

 必死に避けてはいるけれど、武器の圧と風圧とで、結界石のヒビは大きくなるばかりだ。


 一分は経っただろうか?


 三分って、短いから楽勝だと思っていたけど、狂戦士化した真田さんから逃げるのって、物凄く難しいことだった。


 予想より遥かにパワーとスピードがアップしており、後一回でも攻撃を受けたら終わりだ。


 何か方法は無いの?


 冷たい汗が額を流れ落ちた。


 私はゆっくりと呼吸を繰り返し、真田さんをじっくり観察した。

 その時、ふとある考えが頭をよぎった。


 あっ!


 あの方法ならなんとかなるかもしれない!


 私は両頬を軽く叩いて気合を入れ直した。


 そして私は真田からできる限り距離を取り、集中する。


 胸の中から力が溢れ出し、天の美月を通じ、舞台を超えて広がってゆく。


 その力はセンサーとなって、真田さんのどんな小さな動きでも拾い上げる。


 私は呼吸を真田さんに同調させた。


 私には彼の動きの一つ一つが手に取るように分かる。


 そして、息遣いがわずかに止まる瞬間を待っていた。


 これは次の攻撃に移るときの合図だ。


 来る!


 真田さんの攻撃の軌道を読み、私は左側へと走る。


 上段から振り下ろされた斧は、そのまま舞台の床に突き刺さった。


 「う、うがあ」


 真田さんの咆哮が辺りに響いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ