国家陰陽師資格試験5
「雪村深月さん!試験を開始します」
Aグループから呼び出しがかかった。
いけない!
私の出番だ、急がなきゃ!
拓斗さんと真尋に頑張ってとエールを送り、私は慌ててAグループの舞台へと移動した。
これから真田さんとの戦いになるんだけど、式神は誰を連れて行こう?
「深月、私が出るわ」
そう言って前に出たのは、アマテラスだ。
彼女は目を細めて微笑みながら、真田さんの式神·タヂカラオを眺めている。
「あの子とは、相性がいいから負けはしないわよ」
へぇ。
アマテラスったら自信満々だね。
それなら、彼女に出てもらおうかな。
「分かった。アマテラスがそこまで言うんなら、ぜひ戦ってみて」
「任せなさい」
美しく笑ったアマテラスは、私の手を取った。
並んで舞台に上れば、真田さんは嬉しそうに話しかけてきた。
「嬢ちゃん、待っていたぞ。ようやく戦えるな」
「真田さん。私、負けませんから」
私の言葉に、真田さんは目を見開き、にっと笑った。
「ほう、強気だな。よし、それじゃあ手合わせと行くか!まずは式神の力競べだ。タヂカラオ、お前の強さを見せてやれ」
『うぉー』と、雄叫びを上げたタヂカラオは、全身に力を漲らせて襲いかかってきた。
「アマテラス、好きに戦っていいよ!」
「分かった。それじゃ行くわよ!光武装」
アマテラスが言葉を発した途端、全身が輝き出した。
白いワンピースはシュルルと音を立て、その形状を変化させる。
金の冠が現れ、すっと額に嵌った。
衣装は輝きと共に、光を発する布地に変化した。
それは金色の糸で細かく刺繍を施され、光沢があり角度によっては虹色に見える大変美しい布地だ。
その形状は舞姫の衣装を短めにし帯で結んでおり、動きやすさを追求しているようだ。
この生地は柔らかい布のように見えるけれど、金属以上の強度をほこる。
手に持っていた神楽鈴は、光り輝く細身の太刀に変化した。
うわぁっ!
可憐な上に、非常にカッコいい!
あまりにもカッコよく変身するので、ついつい見とれて目が釘付けになってしまった!
まさに光の戦士である。
タヂカラオは両腕を振り上げ、力を込めて振り下ろした。
アマテラスはバックステップを踏んでタヂカラオの攻撃を躱すと、タヂカラオの拳は舞台に大穴を開けた。
アマテラスは舞台大穴にちらっと目をやりフッと笑った。
「あなたは何時でも力押しよね。もう少し戦略を練ってみたら?」
アマテラスの声に、タヂカラオは顔を真っ赤に染めて、身震いしだした。
どうやら怒り心頭のようだ。
襲いかかってきたタヂカラオの攻撃を左へ飛んで躱したアマテラスは、トンと軽く大地を蹴った。
軽く見えたジャンプは優に三メートルは超えている。
見た目は可愛い女の子なのに、物凄い身体能力である。
頭上に光の太刀を振り上げ、タヂカラオ目指し落下する。
落下の加速を剣に乗せ振り下ろせば、タヂカラオは反撃の間もなく地に伏した。
「タヂカラオがやられただと?!くっ、式神交代。出でよハチマン」
タヂカラオは消え去る間際に斧の宝玉に戻り、輝いた斧からは式神のハチマンが現れた。
輝く武具を纏ったハチマンは、右手に持つ剣を高く掲げている。
戦いに特化した武神のようだ。
「ハチマン、剣で攻撃」
ハチマンの剣攻撃を光の太刀で軽々と受け流しながら、アマテラスは大声を上げた。
「深月。私、むさ苦しいのと戦うの、飽きちゃった!私の代わりに他の式神を出してくれる?」
「ええっ!!?」
飽きたから他の式神を出してって言ってるし!
うわぁ!
どうする?
絶好調のアマテラスに引き続き戦ってもらうつもりだったから、他の式神の事は全く考えていなかった。
アマテラスは戦いながらも辺りを見回し、目をキラリと光らせた。
「ツクヨミ、あんた出なさい」
「は?」
あ、あれ?
式神同士で勝手に話が進んでいるけど?
「あんたなら、この程度の敵余裕で倒せるでしょ?」
「まあな」
「じゃ、決まりね。深月、そういう訳だから私、降りる。後は頼んだわ」
「ええっ?!」
後は頼んだって言われても···。
って、アマテラスってばホントにツクヨミと交代してるし。
私、何も指示出してないんだけど。
これ、いいのかな?
なんて考えているうちに、ツクヨミはハチマンと戦闘を開始してしまった。
ああ、もういいや。
これ以上考えたって、交代の枠は使ってしまったんだから、どうにもならない。
ツクヨミに頑張ってもらうしか無いよね。
「二十六夜の月!」
そう叫んだツクヨミの周りは、闇に包まれた。
そして、ツクヨミ本人はポウッと光を発し、三人に分身した。
手に持っていた武器の双月輪は日本刀に形を変えた。
その姿は夜明け前の月のように美しく見える。
ツクヨミはハチマンを三方向から取り囲み、一気に攻撃を仕掛ける。
「まずい!ハチマン、防御!!」
真田さんの指示が飛び、ハチマンはすぐさま防御の態勢を取るが、三人のツクヨミの攻撃を防ぐ事は不可能と言って良い。
一人だけでも強すぎるのに、三人のツクヨミが別々の動きで襲いかかってくるのだから、よほどの手練でも防ぎようがないのだ。
ものの数秒でハチマンは姿を消した。
「ツクヨミ、凄かったね」
「まあ、こんな物だろう」
へぇ。
凄い。
アマテラスが言った通り、余裕の戦いだった。
真田さんは唖然とし、呟いた。
「あー、瞬殺だったな。嬢ちゃんの式神はとんでもねえ···」
真田さんはふうっとため息をついた。
そして、下がった眼鏡を指で押し上げ、口角を上げた。
あれ、雰囲気が変わった。
なんだか、ヤバい気がする。
「嬢ちゃん、久しぶりに俺と遊ばないか?」
そう言った真田さんから、殺気が襲いかかってきた。
うわっ!!
これは威圧だ。
初めて真田さんに会った時も、この威圧をぶつけて来たんだよね。
遊ばないか、とか言って。
···でも。
私は目をしっかりと開いて、真田さんに向き合った。
この位の威圧なら、どうって事ない。
ツクヨミは余裕の表情で腕を組んだ。
「ちっ!やっぱ、効かないか」
真田さんは威圧を解くと、斧を構えて戦闘態勢に入った。
ツクヨミが私を守るように前に立った。
「ツクヨミ、私が戦う」
ツクヨミは神妙な顔で振り返った。
「深月、俺の助力は必要ないのか?」
「うん。私一人でやってみたいんだ」
そう、今の私なら結構いい線まで行けると思うんだよね。
だから、正々堂々、一対一で戦ってみたいんだ。
「危なくなったら助けに入る。それでいいか?」
「それでいいよ。ツクヨミ、ありがとう」
ツクヨミは頷いて、私の後ろに控えた。