国家陰陽師資格試験3
「これより国家陰陽師資格試験、実技試験の一次審査を開始いたします」
試験官が声高に試験開始の宣言をした。
ざわざわと講堂内はざわめき、受験生たちは試験官を取り囲むように移動した。
「受験生の皆様、まず所持武器と式神を確認させていただきます。受験生は法具もしくは神器を装備して、試験官の指示に従って下さい」
試験内容が発表され、辺りは更にざわめいた。
試験内容は毎年異なるため、対策を立てるのが難しいんだ。
神器と式神の確認って言うけれど、それだけだったら凄く簡単な試験だよね。
神器や式神の強さが、得点になったりするのかな?
試験官は咳払いして、話しを続けた。
「その後、陰陽師連盟が選出した試験官と戦い、勝利すること。この試験で高得点を得た受験生の上位八名が二次審査へと進出します」
戦闘があるのか。
やっぱりそう簡単にはいかないようだ。
でも、負ける気がしないんだよね。
「それでは、受験生の皆様、武器の装備をお願いします」
私は神器を取り出し、胸の前に掲げた。
胸の中から力が溢れ出し、天の美月はぱらりぱらりと開き、美しい姿を現した。
「雪村深月さん、奥の部屋へどうぞ」
いきなり私から呼ばれた!
受験番号と試験の順番は全く関係ないみたい。
少しドキドキしながら、私は試験官の指示に従い、講堂の奥にある扉の前に立った。
「奥の部屋にて所持武器と式神の確認をさせていただきます」
試験官はそう言うと、ゆっくりと扉を開いた。
私はふうっと軽く息を吐き、一歩進み出た。
奥の部屋に入った途端、サッと空気が変わるのを感じた。
あっ!
この部屋、たった今結界が張られた。
薄水色の膜が部屋全体を覆っている。
私が辺りを見回していると、コホンと軽い咳払いが聞こえた。
広い部屋の奥には試験官が六人並んでおり、それぞれが記録用紙を手にしている。
「雪村さん、武器と式神を確認します。まずは武器を見せてください」
そう言うと、試験官たちは私の神器に触れた。
その途端、バチバチバチっと、天の美月から黒い電撃が走った。
うわっ!
何これ?!
なんで勝手に試験官に攻撃してんの?!
あれ、この黒い電撃って、まさか!!
天の美月はほのかに光り、黒い勾玉がひときわ輝いた。
「我に断りもなく、勝手に神器に触れたのは誰?」
神器からクラミツハが現れ、死神の鎌を試験官たちに突きつけると叫んだ。
試験官たちは、驚き過ぎて尻もちをつき、口をパクパクさせている。
あわわ!
大変だ。
「ちょっ、クラミツハ!何やってんの?」
「ん、深月。我は天の美月に祝福を施したでしょう?だから、我は深月のために働くの。悪い奴らは我が成敗してあげる」
うわっ!
これって絶対不可侵の効果ってことなの!?
ありがたいけど、今はダメ!
「クラミツハ、この人たちは悪い人じゃないからね。今は試験で神器を見てもらわなければならないの。誰も天の美月を狙ってないから安心して」
クラミツハは首を傾げて試験官たちを見ると、死神の鎌を床に下ろした。
「ふぅん···そうなの?」
「そうだよ!」
クラミツハはもう一度死神の鎌を試験官の前で真横にブンと振り、凄んで見せた。
「それでは、警告しておこう。何人たりともこの扇に災いをもたらす事は出来ない。もしも、危害を加える輩がいたら、その時は我が地の果てまでもその者を追いかけ、我が鎌の錆にしてくれよう」
あわわっ!
クラミツハったら、もういいよ。
「クラミツハ、分かったからもう下がって」
クラミツハは死神の鎌を消し去り、私の手を握った。
「深月!我の勇姿をしっかり見てくれた?」
「うんうん!見たよ。凄かった、ありがとう」
クラミツハは満面の笑みを浮かべ、私の後ろに控えたんだけど、なんだかもの凄く疲れるのは気のせいなのか。
それよりも、試験官たちは大丈夫だろうか。
クラミツハに脅されて、座り込んでいた試験官たちは、お互いに顔を見合わせやっとのことで立ち上がると言った。
「今のが絶対不可侵の効果でしょうか?」
「えっ?あ、はい。そうです」
「す、凄いです!これが神器の力、祝福の効果ですか!」
「えっ?は、はい···」
あ、あれ?
試験官たちは怖がっていたはずよね。
なんだか喜んでるように見えるんだけど。
全員が目をキラキラさせて、神器の鑑定書控えを取り出し、天の美月に群がると、ぐいぐいと迫って来た。
「この可愛らしい方がもしや祝福の主、闇御津羽神!?」
「神器を触ると、闇御津羽神は怒りませんかねー」
「おお!これが噂の我が国唯一の神器ですか?!」
「神器を鞭に変形させて下さい」
「写真を撮る許可を下さい」
矢継ぎ早に質問され、私はタジタジとなり後ずさった。
「うわっ!ちょっと待って下さい。質問は1人ずつでお願いします」
私は深呼吸しながら、試験官の質問に答えた。
クラミツハの対応に不安を感じたものの、その影響は全く無かった。
というか、逆に試験官はノリノリになって、質問を浴びせてくるんだけど。
なんとか私は全ての質問に答えきった。
「では次に、全ての式神を呼び出してください」
黒いスーツ姿の試験官は、記録用紙と私を見比べながら言った。
「えっ?!式神全員を一気に呼び出すんですか?」
私の問いに、試験官は不思議そうな顔をした。
「そうです。何か不都合でもありますか?」
「いいえ、そう言う訳ではありませんが···」
私の式神たちは大勢だから、試験官たちがまた驚くんじゃないかと心配になったんだけど、まあ、いいか。
私は天の美月を眼前に掲げ、力を通して叫んだ。
「式神のみんな!出番よ。全員出てきて!」
天の美月はぱあっと輝き、四方に光を放った。
「「な、なんだ?!」」
眩い光に包まれ、目が眩んだ試験官たちの間にざわめきが広がった。
式神のみんなが現れ、私を守るように並び立った。
「なっ!式神が···じゅ、十二神も!」
試験官たちは式神の多さに圧倒され、呼吸をする事を忘れたのでは、と言う程長い時間沈黙していた。
「ま、まさかこんなに多くの式神を従えているとは···ええと、すみません。式神を紹介して下さい」
試験官はやっと落ち着きを取り戻したようだ。
「は、はい!えーと、四神の白虎、玄武、朱雀、青龍」
「なっ?!四神が全て揃っているんですか!!」
「はぁ、そうです」
試験官たちは目の色を変え、四神のみんなを取り囲み、それぞれに質問をしている。
四神が揃うのがそんなに珍しい事なのかな?
「次に、天狐、狛犬二匹、酒呑童子、麒麟、闇御津羽神、月読命、天照大御神」
「「おお~!!日本神界の最高位神まで従えるとは、凄い、凄すぎます」」
試験官たちは最早、冷静になる事を諦めたらしい。
興奮して、式神にサインまで求めていたのは、内緒にしておこう。