成長
悠也さんは、さっきの緊張は何処へやら、堂々とした態度で解説をしている。
「アイツ、緊張はしていないようね···」
京香さんが私の横に立ち、不安そうに見守っている。
悠也さんの前では絶対に見せない顔をしてるんだよね。
なんだかんだ言っても、弟の事を心配する良いお姉さんなんだ。
「京香さん、心配しなくても、悠也さんは大丈夫です。あんなに素晴らしい神器を作り上げたんですから、きっとうまく行きます」
「そ、そうよね···」
悠也さんの話しは続く。
とても落ち着いて話しているように見えるんだけど、何故か会場はざわめき出した。
「えっ!?嘘でしょ!!アイツ、何喋ってるの?」
京香さんは悠也さんの話しを聞き、驚愕して慌てふためいた。
「どうしたんですか?」
「今の悠也の話し、ちゃんと聞いた?」
「は、はい。えーと、神器の作り方を詳しく話されてましたけど···」
京香さんはふうっと大きく息を吐き、落ち着きを取り戻そうと必死になっている。
「本来、法具師は法具作製の方法を公開しないものなのよ。伝統的な技は師匠から弟子へと引き継がれるもの。法具師の家それぞれに特有の技術があって、その技は決して他者に知られてはならないの。そうして、火室家も今まで守られてきた。それがこの世界の常識なのよ。なのに、アイツったら神器作製の全てを公開してしまうなんて」
「それって、どういう事なんですか?」
京香さんは腕を組んで目を閉じた。
「自分の利益を全て放棄したことになるわね」
「ええっ!」
利益を放棄って、そんな事をして大丈夫なんだろうか?
会場がこんなにざわめいているのは、悠也さんが神器の作製方法を公開したためだったようだ。
「アイツはバカなのか、それとも何か考えがあっての事なのか···」
そう言ったっきり、京香さんは押し黙ってしまった。
こちらの思いを知らぬ悠也さんは、終始にこやかだ。
役員からの質問にも難なく答え、アマテラスやツクヨミのフォローもあり、無事に役目を終えた。
ホントに凄かった!
いつもの優しくて、少し気弱な悠也さんとは全然違う人みたいだった。
京香さんの話しは気になるところだけど、悠也さんの見事な解説に感動した私は、手が痛くなるまで拍手を送ってしまった。
悠也さんはホッとした表情でこちらへ戻ってきた。
「あんた!一体どう言うつもりか、説明してもらいましょうか」
京香さんは悠也さんの元へ詰め寄った。
「な、なんだよっ」
「なんだよも何も無いわよ!あんた、どういうつもりで神器の作製方法を公開したの?それがどんな意味を持つか、わかってるんでしょうね?」
悠也さんの目は真っ直ぐ京香さんを見る。
なんの迷いも無いその眼差しに、彼女はぐっと拳を握った。
「大会での陰陽師たちの戦いを見て、姉貴はどう思った?」
「···そうね。全体的に力不足だわ。敵が強すぎたら、法具じゃ歯が立たない。深月がいなかったらと思うと、ゾッとするわね」
悠也さんは頷いた。
「そうだろ?神器持ちであれだけ苦戦したんだ。法具が一般的な世の中では、有事に対応しきれない。だから神器の作製方法を公開した。俺は自分の利益より、この世に神器が生み出される可能性にかけることにしたんだ」
京香さんは目を見開き、しばらく悠也さんを見つめていた。
「そう、よく分かったわ」
一言呟いて、京香さんは踵を返した。
その背中が、なぜか寂しそうに見えて、私は思わず声をかけた。
「京香さん?」
振り返った京香さんの瞳には、わずかに涙が浮かんでいた。
びっくりした。
一体どうしたんだろう?
「ああ、ごめんなさいね。こんなところを見せるつもりじゃ無かったんだけどね」
そう言って、京香さんは慌てて涙をぬぐった。
「あの···大丈夫ですか?」
京香さんはコクコクと頷き、部屋の隅まで私を引っ張って来ると言った。
「アイツ、私が思っていたよりも成長していて、柄にもなく感動しちゃったわ」
ああ、京香さんは嬉し涙を流していたんだ。
弟の成長に喜びを感じているようだ。
「悠也さん、とても立派でした」
「そう。アイツは、陰陽師と法具師の新たな道を切り拓いたの。···私も負けてられないわね」
「はい!」
「そうそう。私が褒めてたこと、悠也には絶対に内緒よ」
「えっ?!どうしてですか?」
「だって、なんだか私がアイツに負けたみたいで悔しいじゃない」
「······」
京香さんは、悠也さんのことをちゃんと認めているのに、素直に表現できないみたい。
姉弟の形も色々あるんだなと思い、二人のことは二人に任せることにした。
「これから会議があってね。そこで神器と神器師の登録の可否が決定するの。先程の様子なら、先ず大丈夫でしょう。もう少しだけ待っていてね」
「分かりました。よろしくお願いします」
私たちは会議の間、別室で待機することになった。
程なくして、真田さんと京香さんが書類を持って現れた。
会議の結果、天の美月は満場一致で神器認定されたそうだ。
もちろん、悠也さんも文句無しに神器師の登録がなされた。
「嬢ちゃん、これを渡しておこう」
真田さんから手渡されたのは、天の美月の鑑定書と登録証だ。
「わあっ!ありがとうございます」
「法具とは鑑定方法が異なってるから、よく確認してくれ。国家陰陽師試験にも、この神器で受験可能だからな」
「はい!」
私は早速、鑑定書を確認することにした。
☆☆☆☆☆
神器 天の美月
神々の勾玉 33個
祝福 天照大御神
月読命
闇御津羽神
攻撃力 ★★★★★
耐久性 ★★★★
外観美 ★★★★★
総合評価 ★★★★★
+SP
☆輪廻流転
☆四神演義
玄武 金色の守護結界
朱雀 紅蓮炎舞
青龍 聖花乱舞
白虎 夢幻演舞
☆魅了
☆変形 鞭
☆絶対不可侵
☆全能力値 +10
☆☆☆☆☆
うーん。
改めて鑑定書を見ると、この扇って、ホントに優れものだよね。
それに神器の特性上、+SPはまだまだ増える可能性があるとのこと。
この先が楽しみである。
「まだ知らせがあるぞ。先日の大会の功労により、国家陰陽師試験の一部が免除された」
「えっ?!本当ですか?」
「おう!免除されたのは、筆記試験の戦闘に関する項目だ。筆記の三分の一が免除になったのはでかいぞ」
「うわぁ!」
やった!
なんてついてるんだろう!
と言うことは、残す筆記は法律関係と知識に関する項目だ。
勉強が苦手な私にとって、これはかなりの朗報だ。
難関の国家陰陽師試験。
もしかして、なんとかなるかもしれない!