目覚めてみれば
ぐっすりと良く寝たなあ。
私は温かい寝具に包まれ、ふかふかのベッドに横たわっている。
あまりに気持ちが良くて、このまま動きたくないなあなんて思ってしまった。
でも、昨日私は倒れたんだよね。
そのままここで寝かされていたようで。
あれからどうなったんだろうか?
それに、ここはどこだっけ?
見覚えのない白い天井をぼんやりと眺めて、繋がらない記憶をなんとか繋げようと私は周りを見回す。
「うわぁ!!」
私は思わず声を上げた。
なぜなら、ベッドのすぐ脇でユキちゃんとヤトが二人して私を覗き込んでいたからだ。
ちょっと!驚くでしょう。
「ねえ、何やってんの?」
私は起き上がり、ベッドに腰掛けた。
機嫌の悪い私の目つきに、二人とも不敵に微笑む。
ユキちゃんとヤトは私の不機嫌さなど、全く意に介さず、小さい子を見守るような目で見つめている。
「·····」
「···深月、主が倒れたら誰だって心配するに決まっているだろう」
腕を組んで話すユキちゃんの言葉に相槌を打つヤト。
うん、心配する気持ちはわかるよ。
「あの、もしかして私が倒れてから、あなた達はずうっとそのままの姿勢で、ここで私を見ていたのかな?」
私の言葉にヤトは何を今更というように、目を細めて言った。
「それは当たり前のこと。千年もお前を待ち続けた私にとって、こんな時間など瞬きするような短き時よ」
そうですか。
その気持ちは嬉しいし、ありがたいと思う。
でもさ、私にプライバシーはないわけ?
寝ている間、ずっと見られていたと思うと怖くておちおち眠っていられないじゃない。
今後、式神が増えると考える。
その式神たちが心配だからという理由で、皆してベッドの周りで私を覗き込んでいるとしよう。
そんな状態で心安らかに眠れるのだろうか?
いや。
安眠できるはずがない!
それに、式神たちだって休めるときに休んでおいたほうがいいと思う。
これは対策を立てねばなるまい。
······
よし、決めた!
「二人とも、よく聞いて」
私は立ち上がり二人を見上げた。
二人は、これから一体何が始まるのかと、小首を傾げる。
「二人とも、私のことを気遣ってくれてありがとう。でもね、寝ている間くらいそっとしておいてほしいんだ。だから夜は別の部屋で休んでいてくれる?」
「ちょっと待て深月、それは承服しかねる。その間に何かあったらどうする?」
へっ?寝てる間ってまさかあ!そんなに危険なはずないよね?
「いや、寝てる間くらい大丈夫でしょう?」
私の言葉を聞いたユキちゃんとヤトは、目を見開いて首を大きく横に振った。
「甘い甘い!私だったら油断している夜に襲う」
「そうだな。一番警戒しなくてはならない時間帯だ。それに、お前は霊格が高いが故に魑魅魍魎に狙われやすいということを、もっと自覚するべきだ」
えっ!そうなの?
知らなかった。
うーん、今の話しぶりからすると、そっとしておいてもらうという線はなくなった。
私が安眠が出き、尚且安全に暮らす為にはこれしかないな。
「二人ともお願い、夜の間はこの姿でいて。もふもふ!!」
「「!!」」
私の叫びと共に、二人はもふもふに变化した。
うわぁ!
やっぱり可愛い。
はじめからこうすれば良かったよ。
こんなにも可愛いもふもふならば、すぐ傍にいたとしても全く問題がない。
いや、逆に近くにいて欲しい。
この愛くるしいもふもふたちを抱きしめて眠れば、良い夢が見られる。
そんな気がしてならない。
もふもふの中身がユキちゃんとヤトだとしても、もはや気にすまい。
可愛い猫と可愛いちびギツネは私の胸に飛び込んで来た。
ああ、幸せだ。
二匹の柔らかな毛並みに顔を埋め、にんまりと笑みを浮かべていると、『トントン』とドアをノックする音が部屋に響いた。
「はーい」
返事をすると、ドアはそっと開いて、くりっとした目をした男性が顔を出した。
弓削さんだ。
「雪村さん、目は覚めた?って、何その愛玩動物たちは?!」
弓削さんは一瞬驚いた顔をし、すぐに目を輝かせた。
そうか、人の姿のユキちゃんとヤトを紹介しただけだったからね。
弓削さんはもふもふたちに目が釘付だ。
触りたくてうずうずしているのが伝わってくる。
「えっと、白虎のユキちゃんと天狐のヤトです」
「はあ?それも白虎と天狐?!」
弓削さんは私の前まで来るとキラキラした目で言った。
「なあ、触ってもいいかな?」
「さ、さあ?どうだろう。私は止めた方がいいと思うけど」
自尊心の高いこの人たちが、そう簡単に触らせてくれるとは思えない···。
私の言葉が聞こえているのか、弓削さんはもふもふ達に手を伸ばした。
「「フーッ!」」
「おわっ!」
ユキちゃんとヤトはそれぞれ尻尾で、弓削さんの手をバシッバシッと叩いた。
「おい、お前。勝手に触るな」
「そうだ。許しもなく手を触れるなど言語道断」
もふもふ達の行動に、弓削さんは涙目になりながら叩かれた手をさすった。
「喋った!この状態でも話せるのか」
「うん。でも、ギャップが凄いよね」
「ああ、そうだな。でも俺、動物に目がないんだよ。あ、厳密には動物じゃないか。うーん、なんとか触る方法はないものか?」
うわ!
あれだけ忠告されてもまだ諦めてないんだ。
「弓削さん、諦めたほうがいいよ」
「···いいや、俺は諦めないから。きっといつか俺の願いは叶う」
ポジティブというか、なんというか。
凄い執念を感じるんだけど。
果たしてそんな日は来るのだろうか。
「あっ!忘れてた。お前、腹減ってるだろう?」
弓削さんにそう言われて、急に空腹を自覚した。
ああ、そういえば昨日の晩から何も食べてないんだった。
私は「はい」と返事をしたけれど、どこで食事をとるの?
ていうか、そもそもここはどこなんだろう?