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戦いの後

 体に力が入らなくて、起き上がれない日々が続いた。


 かれこれ、一週間はベッドの上での生活を余儀なくされた。


 それほど、あの時の度重なる戦闘は過酷で、更にはアイテムの副作用で、体力と霊力をごっそり持っていかれたのが原因なんだけどね。


 ひたすら眠り、やっと調子が戻ってきた感じだ。


 ベッドの上で伸びをして、手を動かしたリ、足を動かして、不調が無いかを確かめる。


 やっと、普通に身体を動かせるようになって、健康の有難さが身にしみてわかった。


 私の手元にある天の美月は、淡い輝きを放っている。


 私の霊力の低下により、式神たちはユキちゃんを除いて、みな扇の中へと戻っている。


 私に負担をかけないように、式神自らが扇へと戻ったそうだ。


 そんな中、ユキちゃんは私に付きっきりで看病してくれた。


「深月、起き上がっても平気か?」


 心配したユキちゃんが、ベッドの傍に寄り、私の顔をのぞき込んだ。


「ん、大丈夫よ。心配かけてゴメンね」


 上目遣いで彼の顔を見れば、微笑みながらユキちゃんは私の頭を優しく撫でた。


「良かった。食事が取れそうなら、すぐに準備してこよう」


 食事という言葉を聞いたら、私のお腹がくぅっと鳴った。


 赤面しつつ頷くと、ユキちゃんは「待っていろ」と言って、部屋から出ていった。


 ここ最近、私の食事はユキちゃんが準備してくれている。


 ユキちゃんがあんなに器用だなんて、知らなかった。


 彼の作るものは何でも美味しくて、とても優しい味がして、私の心と身体を健康にしてくれる。


 そんな彼の心遣いには、本当に感謝している。


 動けない時なんて、食べさせてもらっていたからね。

 なんだか、小さな子供になったようで、恥ずかしかったけれど、その気持ちはとても嬉しかったんだ。


「深月、待たせたな」


 ユキちゃんはトレーを手に持ち、戻って来た。


 サイドテーブルに置かれたトレーを見れば、美味しそうな料理が並んでいる。

 ご飯にお味噌汁。卵焼きに、焼き魚。漬物まで付いている。


「うわぁ!美味しそう。いただきます」


 温かいうちにお料理をいただこう。


 あむっとご飯を口にする。

 ん~~、美味しい。


 あまりの美味しさに、あっという間に完食してしまった。


 ああ。


 なんて幸せなんだろう。

 

 そう思って目を細めていると、ユキちゃんは大変いい笑顔で言った。


「美味かったか?」


「うん、とても美味しかったよ。ご馳走様でした。ユキちゃん、ありがとう。ところで、事務所のみんなはどうしてる?」


 自分がずっと伏せっていたので、みんながどんな状態か、知らないんだよね。

 特に、伶さんには怪我をさせてしまったから、その後の様子はとても気になっていた。


「皆息災だ。所長は検査のために入院したが、特に問題がなかったようで、翌日には戻ってきた」


「そう、良かった」


 伶さんが無事で安心した。

 私の身代わりになった事がずっと気にかかっていたから、ほっと胸を撫で下ろした。

 アマテラスとツクヨミが力を尽くしてくれたお陰だ。


 気分が楽になったら、なんだか動きたくなってきた。


 ちょっと、事務所に顔を出してみようかな。


「深月、これから事務所に行くつもりか?」


「あれ、よく分かったね」


 ユキちゃんに考えを読まれて驚いていると、彼は心配そうな表情で言った。


「お前の心は分かっている。だが、今まで起き上がる事すら出来なかったんだ。本調子では無いのだから、決して無茶はするな」


「うう、わかったよ。無茶はしないから。少しだけならいいでしょ?」


 ユキちゃんはじいっと私の目を見つめた。


 なんだろう。

 このむず痒い感じ。


 またしても、小さな子供になったような気がして、つい、目を逸らしてしまうんだけど。


「深月、今日は私と共に歩くんだ。そうでなければ、外出は許可できないな」 


 許可できないって···。


 厳しいな。


 これじゃあ、どっちが(あるじ)か分かんないよ。


 まあ、確かに足元がふらつくから危ないと言えば、危ないのかもしれない。


 ユキちゃんにはお世話になりっぱなしで申し訳ないけれど、今日は一緒に歩いてもらおう。


 身支度を整えた私は、ゆっくりと立ち上がりユキちゃんの前に立った。


「お願いします」


 そう言うと私は、ユキちゃんが差し出した手にそっと触れた。


 たちまち包みこまれた手。


 とても温かくて、その温もりは私の心も温かくしてくれる。


「気を付けて歩くんだ」


「うん」


 ドキドキしながらユキちゃんと手を繋いで事務所へ入ると、机に向かっていた皆が一斉に振り向き、立ち上がった。


「深月、身体は大丈夫か?」


 伶さんが歩み寄り、気遣いながら様子を聞かれた。


「はい。お陰さまで、ゆっくり休ませてもらい回復しました。それよりも、伶さんに怪我を負わせてしまい、申し訳ありませんでした」


 深々と頭を下げると、伶さんは首を横に振った。


「いや。私の傷は深月の式神が治療してくれただろう。もう傷痕も残っていないんだ。こちらこそ、世話になった。ありがとう」


「そうですか。良かった」


 ユキちゃんに事の次第は聞いていたけど、彼の無事を直接確認することができて、とても安心した。

 心が軽くなったように思う。


「ところで、これから陰陽師連盟総本部の真田さんが見えるんだ。深月に会いたいそうだが、どうする?無理なようなら断りを入れるが?」


 真田さんか。


 彼にはとてもお世話になったんだよね。


「大丈夫です。私もお礼を言いたいと思っていました。ちょうど良かったです」


 体調は万全ではないけれど、話をする分には問題ないからね。

 せっかく来てくれると言うことだし、特に断る理由もないので、そのまま事務所で待つことになったんだけど。


 気がつけば私は、事務所の面々に取り囲まれていた。


「深月、無事に回復して良かったな」


「心配してたんだ。ホントに大丈夫か?」


「無理するなよ。お前は危なっかしいからな」


 うう。


 拓斗さんも、真尋も、悠也さんも。

 心配してくれるのは有り難いんだけどね。


 一斉に話し始めたら、どう反応して良いのか分からないじゃない。


「みんな、心配かけてゴメンね」


 やっと返事をしたものの、三人は間合いを詰めて迫ってくる。


 焦って後ずさったんだけど、少しふらついた私の前にユキちゃんが割って入った。


「深月は病み上がりだ。これ以上は遠慮してもらおう」


 確かに私は病み上がりだけど、みんなが心配してくれる気持ちも無碍にはできないし。


 むむ、困ったな。


 両手を広げ私を庇うユキちゃんと事務所の面々の間に、火花が散った様に見えた。


 急に室内の温度が五度くらい下がったんじゃないかな。


 そんな折、事務所の呼び鈴が鳴った。


「おう、邪魔するぞ」


 あっ、この声は!


 事務所の入り口に視線を向ければ、陰陽師連盟総本部の真田さんと京香さんが書類を片手に入ってくる所だった。

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