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第二話

「そろそろどっか出掛けに行きたいな~」

 三日だった。

 三日もの間、毎日、映画を観たり、ゲームをしたり、無駄に広い家の中を探検がてらかくれんぼしたり……シロハとの遊びがつまらなかったわけではなかったが、寝て遊んで寝ることに慣れてしまうと、外にも遊びに行きたくなってくるのだった。

「監視ってことは一緒に居ればどこにいてもいいんでしょ? どっかお出掛けしたいよ~」

 駄々をこねるような言い方をしてみると、シロハは存外あっさりと「そうですね」と納得した声を出した。

「天使になられた衝撃で記憶が無くなって不安定かとも思いましたが……そこまで慣れてしまったのでしたらどこかに出かけましょうか」

「ほんと!? やたー!」

 十歳の少女相応の喜び方を見せた東雲に、シロハは優しい視線を投げかける。

「どこに行きましょうか。外が良いのでしたら近くに遊べそうな河原がありますよ。少し遠くにはなりますが商店街もあります」

「川行こう川! 友達作りたいな~!」

「寒いですからあまり人が居ないかもしれませんよ」

「そんなことないよ~」

 天使になったので気温に鈍くなったのか、それとも十歳の頃なんてものは気温を気にしなかったのか。

 シロハは少し気にかかったが、ともかく出かけたい意向を汲んで、東雲に着込むよう準備させた。シロハ自身も、出掛けるために衣服を着込む準備をする。

 あの日の出会いの後に服装こそは普通のものに替わったが、シロハが頭につけているまじない道具は外されなかった。なんでも天使さまのお世話をするものは必ずつけていなくてはならないらしい。

 最初こそ東雲は顔を見せてとせがんだが、低めの声で「駄目ですよ」と言われてからは大人しく放置していた。まあ、顔が見えなくても声で感情は十分に伝わるから、別に問題はなかった。

 羽の力で宙を飛びながら玄関に向かった東雲に、シロハは「靴を履いてください」と声を掛けた。

「なんで? 飛んでるんだし裸足でもいいじゃん」

「缶蹴りとかできないですよ」

「履く~」

 いったん床に降りて、靴を履く。せっかくだから自分の足で歩いてみてもいいかもしれないと思いながら地上に立った。

「しばらく歩きますか?」

「うん」

「では、はぐれないように手を」

 優しく持ち上げるように手を包まれて、東雲は少しご機嫌になった。なんだかレディーみたいな扱われ方だ。

「じゃ、しゅっぱーつ!」

「はい」

 河原までは歩いて十五分のつもりだったが、案の定東雲があっちこっちふらふらするので三十分かかってしまった。

「あ、人が居る! あそぼー!」

 河原の堤防に着いて早々に、手を振りほどいて飛んでいく。

「ああ、結局飛んでってしまうんですね」

 シロハは一瞬冷汗をかいたが、周りに危険がないことを確認すると安堵して息を吐く。

「それ凧揚げ? あたしもやりたーい!」

「いいよー」

 数名の少年たちの持参した道具を見て、すぐに打ち解ける。

「えっ飛んでる? 天使さまじゃん? 大丈夫なの遊んだりして」

「大丈夫だよー、シロハが居るから」

「あ、シロハじゃん。シロハのとこの天使さまなの?」

「うん、わたしと一緒に居るのがその子のお仕事なんだ」

「変な仕事だな~。ねーどこまで飛べるの? 見てみたい」

「あんまり高く飛ばせてはいけないよ。危ないから」

「ええー」

 一通り遊びつくして、辺りが夕暮れの色に染まって。少年たちは「また明日ねー!」と言いながら去っていった。

「そういえば、あの子たちシロハのこと知ってたね。友達なの?」

「子ども会でうちの施設を使うことがありますから。顔見知りです」

「ふーん」

 あたしにはシロハしか居ないのに、シロハにはあたし以外の思い出があるんだな……。

 ちょっぴりの嫉妬と寂しさを覚えたが、それを口にすることはなかった。だって思い出はこれからたくさん作っていけばいいのだから。

「明日も川行こうね!」

「はい」

 手を繋いで仲良く並んだ影が二つ、ぼんやりと冬の夕暮れに伸びていた。


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