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◆◆◆
──数年後。
戦争は終結していた。
帝国は後退し、神子の一族は国を興した。セドリックも忙しいが穏やかな日々を過ごしていた。
セドリックは穴から出るとシャベルを置いて月を眺めながら過去を思い返す。
ローレンスが持って来たサンドイッチと紅茶を飲みながら二人並んで穴の縁に座った。
「──で、約束通り庭園を作ってたんだね」
深く掘られた穴と高く積み上げれた土を見ながらローレンスが苦笑いを浮かべる。
「考え事をしながら掘ってたら掘り過ぎたんだ」
「考え事ってどんな?」
「エヴェリーナならどんな庭にするか」
ローレンスは悪戯っぽく笑うと「そうだなぁ」と考える素振りをする。
「小精霊達の庭園だから、狭過ぎず、広過ぎず、隠れ家みたいな庭にすると思う」
「へぇ?」
やけにきっぱりというローレンスをセドリックが不思議そうに見た。その表情が面白かったのか、ローレンスはぷっと吹き出した。
「エヴェリーナが言ってたんだよ。こう、ちっさいガゼボがあって、近くに噴水があったらいいなって。あ、噴水は僕の案ね」
セドリック視線に耐えかねてローレンスが自白する。
『──どんな庭にするの?』
『そうね! 私は小さな隠れ家みたいな庭がいいわね。小さなガゼボでみんなでお茶をするの!』
『そっか。僕は噴水もあるといいな』
『それいいわね!』
セドリックはその光景を思い浮かべ、目を細めた。想像の中の彼女は楽しそうに笑っていた。
『──我等の住処は出来そうか?』
不意に声を掛けられセドリック達はそちらを振り向いた。気付けば、セドリック達の近くに黒い兎がちょこんと座っている。
『出来そうか?』
小さい鼻をひくひく動かしながら、黒兎が言った。
──小精霊か!
プーカとは小精霊の一種で変身能力を持つ精霊である。黒兎や黒山羊な土に変身する事ができ、悪戯好きだが、気にいった人間の手助けをする精霊である。
セドリックは黒兎を凝視する。
セドリックが穴を掘っている間も近くにいた事を思い出し、この黒兎は小精霊だったかと漸く気付いた。
先程からセドリックの近くを行ったり来たりしていたのは住処が出来ているか確認する為だったらしい。
『出来そうか?』
返事をしないセドリックに痺れを切らしたプーカが更に言葉を重ねた。
「ああ、心配するなちゃんと造る。ただ、俺は庭園なんて造った事が無いから時間がかかるがいいか?」
『…………分かった。待つ』
セドリックの返答に渋々だがプーカは納得した様だった。背を向けて何処かに行ってしまった。
──出来るだけ早く造ってやらないとな。
そう意気込んだもののセドリックは自身が掘り進めた穴を見て早々に肩を落とすのだった。
◇◇◇
──数ヶ月後。
新しく出来た王都で国王の即位式が行われていた。赤い絨毯の上を一人の青年が歩く。
その髪は太陽の様な金髪、顔立ちは美しく、その輝く瞳は宝玉の様な青色をしている。
彼──ローレンスが初代国王として即位したのだ。
此処にエヴェリーナはいない。彼女は戦争の終結と共に命を落としたのだ。
「国王陛下の治世に栄光の幸あらんことを」
臣下となる者達が膝を付き臣下の礼をとった。その中にはセドリックもいた。
手には《精霊の槍》を持ち、深緑の正装を着ていた。彼は姓を槍を示すガルシアと定め、初代ガルシア侯爵として国の南部を治める事となった。
この国の名はフォーサイス。
──これがフォーサイス王国の始まりである。