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◇◇◇
「──国を建ましょう。我々の国を」
真っ直ぐな緑の瞳でエヴェリーナが皆に告げた。その瞳には強い意志を感じさせた。
「帝国と戦うつもりか!?」
「これ以上は逃げれないなら戦うしかない」
「負ければ後が無いんだぞ!」
その発言に驚愕して人々は口々に言った。反対する者もいたが、大多数の者は賛成の意を示した。
結局その時のセドリック達には戦うの一択しかなかった。自分達の居場所を得る為には、どんな茨の道でも帝国に戦って勝つしかなかったのだ。
それからは、只管戦いの日々だった。
戦闘経験の乏しい者達を鍛え、戦場に送り出す。
彼等を補助する為に多くの精霊使いが大魔法を駆使して戦った。
セドリックは槍を持ち、エヴェリーナとローレンスの姉弟も剣を持った。中でもこの姉弟の能力は精霊姫と呼ばれるだけ凄まじかった。
苦戦すると思われていた戦争は思いの外、順調に勝ち進み相手の戦力を奪う事に成功していた。
各地で内乱が起き、帝国は神子の一族だけにかまっていられなくなったのだろう。帝国の軍も鍛えられた兵士ではなく、徐々に徴兵によって集められた貧しい農民一般市民や奴隷達になっていた。
酷い戦いだった。
神子の一族としてぬくぬくと育って来たセドリック達には全線に出て戦うのは何より苦しい事だった。
敵も味方も多くが命を落とす。帝国に滅ぼされた小国の者たちも集まり、神子を中心にして、対帝国軍は更に大きくなっていった。
けれど、全てが順調だった訳ではない。時折、セドリック達も危機を感じる事があった。しかし、その都度、セドリックは何の幸運か惨事を免れたのだ。
幾つかの戦いを経て、帝国の力は削がれていた。セドリック達は南から少しずつまた北上し、彼等の領地を手に入れていた。
「──どうしたの?」
考え込むセドリックにエヴェリーナが言った。ローレンスも心配そうに見ている。
「いや、俺達は幾つも危機を運良く免れただろう? それが不思議で……」
そこまで言って、エヴェリーナが胡乱げな目でセドリックを睨んだ。理由が分からずセドリックはたじろいだ。
「セドリック、私の話聞いてなかったでしょう?」
「何をだよ」
セドリックは視線を反らしながら、急いで記憶をひっくり返した。しかし、これといって何も思い出せない。
「セドリック、本当にわからないの?」
ローレンスにまで同じ顔をされてしまうが、セドリック自身は理由がわからない。
「──悪い」
二人に同じ目をされて、居心地が悪くなったセドリックが謝ると、エヴェリーナは溜息を吐いた。
「大陸の南に行った時の事覚えてる?」
「ああ、庭園がどうとかの……? それが何の関係があるんだ?」
セドリックの言葉を聞いて、エヴェリーナは心底呆れたという顔をした。
「セドリック、本当に聞いていなかったのね。まぁいいわ。あの子達と約束したの」
「約束?」
「私達を手助けする代わりに、居場所──庭を造って上げるって」
流石にそこまで言われればセドリックにもわかった。
「!! じゃあ、あの精霊達が俺たちをたすけてくれてたのか?」
目を見開いて驚くと、エヴェリーナとローレンスは呆れたと言わんばかりの顔をした。
「そうよ」
「ひどいよセドリック、小精霊達が可哀想だよ」
「わ、悪かった」
二人に避難されながら、セドリックは謝るしかなかった。