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「──セドリック?」
セドリックが顔を上げると彼の目の前から少女と同じ顔の少年がやって来た。
彼は青い宝玉の様な瞳を瞬かせて、セドリックを不思議そうに見ている。その表情がセドリックには彼を責めているように見えて更に気不味くなった。
──最悪な日だ!!
「セドリック、どうしたの? エヴェリーナは?」
セドリックは歩みを止めず、そのまま彼の様子に困惑する少年からも離れた。
一人集団から離れたセドリックは小高い丘の上に座っていた。周囲は焼け野原でかなり遠くに煙が上がっているのが見えた。また何処かで小競り合いが起こっているのだろう。
──ここもまた移動しなければならないか……。
セドリックは手に持った槍を抱きしめた。この槍は精霊女王から与えられた槍だ。一族を護る為に与えられた物だ。
セドリックは一族の中でも当主家に近い血筋の分家だった。精霊姫とは近い間柄だった。
つまり、彼自身も帝国の中では温室育ちで、こんなに各地を放浪する生活に慣れてはおらず、辟易していた。
──早く何処かに落ち着きたい。こんな生活終わらせたい。
そんな思いが日々大きくなっていた。
それでも彼は最も精霊姫に近く、彼等に親しく彼等よりも年上の彼は自身がしっかりしなければならないと心の何処かで気負っていたのかもしれない。
精霊女王から与えられた《精霊の槍》がその思いをより強くし、彼を縛っていた。
当時の彼自身気付いてはいなかった。
◇◇◇
──その夜
赤く燃えさかる炎が遠くで上がった。何処かが襲撃を受けたらしい。その報せは瞬く間に大陸中に伝わった。
不滅の国と唄われた《魔女の国》が滅んだ日だった。《魔女の国》滅ぼした炎は七日七晩燃え続け周囲の森まで焼いた。
「──魔女の国が襲撃を受けたらしい」
「被害は?」
「不明だが、周囲の森は酷い状況だ。だが、前日に魔女達が何処かに去るのを目撃した者がいる」
「奴等自分達の国を捨てたのか!?」
赤毛の男──イグニスが言った。彼等は先住民族で上位精霊の加護を受ける一族だった。神子の一族が南下したのはこの一族に助けを求める為だった。
イグニスは赤毛の一族の長だ。
彼等は神子の一族を受け入れたが、完全ではない。いざとなれば、神子の一族を見捨てるという。
「魔女の国が無くなったら防波堤が完全になくなりましたね」
金髪の碧眼の男が落胆した様に言う。
帝国と赤毛の一族が住まう土地の間には魔女の国が存在していた。その為、被害を防げていたが、今後は難しくなるだろう。
セドリックは掌を握り締めることしか出来なかった。