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──ザクッザク……
夏の日差しが照りつける中、一人の青年がシャベル片手に浸すら穴を掘っていた。その動きに合わせて、一つに纏めた白に近い銀の髪が揺れる。
服が汚れようと、靴が泥だらけになろうと彼は気にせず穴を掘り進める。
──ザクッザク……
周囲には誰も居らず、時折何処からともなく現れた黒い兎が横切っていくだけだ。青年は無言で只管穴を掘り続ける。その掘り進める音だけが周囲に木霊していた。
「──掘り過ぎじゃないか? セドリック」
穴を掘り始めてどれくらい経っただろうか。頭上から声が降ってきて、セドリックと呼ばれた青年は漸く手を止めて顔を上げた。
太陽は完全に沈み、空には既に月が顔を出し、星が瞬いていた。
セドリックが目を凝らすと、月の光に照らされ、夜の闇の中でも輝く太陽の様な金髪と宝玉の様な青い瞳をした青年の姿が浮かび上がった。
「ローレンス?」
セドリックは自分を見下ろす人影に向かって声をかけた。その顔によく似た人の面影が重なり、セドリックは翡翠色の瞳を細めた。
「何をしてるの?」
ローレンスと呼ばれた青年が穴の縁からセドリックに向って尋ねた。
「庭を作ろうと思って」
「………………庭!? 僕はてっきり君が落とし穴でも作ろうとしてるのかと思ったよ!」
十分な間を置いてローレンスが叫んだ。その大絶叫にセドリックがシャベルを放り出し両手で耳を塞いだ。
「相っ変わらず煩い奴だな。何の為に落とし穴なんて作るんだよ」
「失礼だな!! 一日中穴掘りしてる体力馬鹿に言われたくないね!」
ふんっとローレンスは子供の様に顔を背けた。彼ももう18歳になるが、7歳上のセドリックの前では未だに子供の様な素振りをする。その様子にセドリックの頬がついつい緩んでしまう。
──穏やかだな。
こんな風にくだらない事を言い合える日常がセドリックは堪らなく愛おしかった。
けれど、その日々を最も望んでいた人はもういないのだという事実が頭を掠めると急に胸が苦しくなった。