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WITHUOOM HSASTE -ウィトゥーム ハズアステ-  作者: KIKP
東北 芸術の国
65/68

64 晩餐

会場からの拍手の音が、狭い廊下に鳴り響く。

用意された待機室へと歩いていると、セネリアの前に三つの影が現れる。


「御機嫌よう。素晴らしき演奏者、セネリア殿。事前の挨拶も約束も無しに、君の前に現れた非礼を許してくれ」

「…別に私は貴方達のような重役…偉い立場の人間じゃないから別に構わないわ。まぁ比例と言うのなら、まず先に名乗りなさいよ」

「ああ、それもそうですね。私は帝都の五老の一人。名前は無いのでお許しください」

「そう…。それで、帝都の五老様が一体、私になんの用かしら」

「公式な面談でもないので手短に。単刀直入に申し上げさせてもらいましょう。貴方様に——」

怪しいその男の申し出に、眉を顰める。


—————————————————————————


セネリアの演奏を終え、五分の休憩の後に授賞式が終わり、観客達が満足して劇場を出て宿等に戻る中、セネリアと合流し、クロト達はセネリアの関係者として別室に用意された、演奏者達を労う為のパーティ会場へと向かっていた。


「あの、本当にいいのですか?私達無関係なのに」

「いいのよ。私とメアが友人関係で、そのメアが貴方達と仲間であるのなら、それだけで十分よ。それに、来てもらった方が無駄にならなくて済むもの」

「無駄に?」


回廊を進んでいると、セネリアの姿を見て扉の両脇にいる給仕らしき男二人が扉を開く。


すると、何とも言えない美味しそうな匂い達が漂い来ると共に、見た事のないオシャレな盛りつけをされたお肉に魚の豪華そうな料理に、宝石のようなスイーツ等が、ビュッフェ形式で並んでいた。


「やぁ、遅かったねセネリア」


その声がした方を見ると、三人が席に座って先に食べていた。

その様子を見て、小さい三人をネルモネアの二人に任せ、先に楽しんでいてもらう。


「あんた達が子供なだけでしょう」

「あはは。それで後ろの子達は君のお弟子さんか何かかい?」

「友人と、その仲間たちよ」

「セネリアのご友人か。なら自己紹介はちゃんとしないとね」

「じゃあ、私も」

そう、二人は口を拭いて立ち上がる。

「どうも、こんにちは。僕の名前はサンビア」

「私はフェヴェル・シュントモニスと申します」

「メア・フラスルトです」

「クロト」

「シルスです」

「フラスルト…。ああメウリカの…」

「何?知ってるの?」

「ほら、彼女らは小さい時に留学があるって言ってたろ。その時、セネリアが行ったのがメウリカ。そしてフラスルトっていうのはその国の王の名だよ」

「へぇ〜つまりお姫様か」

「それで。お前は何していたんだ?ヴァン」


クロト達の姿を見るなり、他所を向いて隠れていたつもりだったヴァンが、声を掛けられて観念し、気まずそうにこちらを向く。


「ん?知り合い?」

「ああ。さっき話してた…」

「この人達がそうなのかい?いや〜ごめんね。彼に手伝ってもらったお礼と僕が無理言って連れてきたんだ」

「劇場で見ていたから何となく分かっていた。問題は一言くらい誰かに報告をしろということだ。心配する奴もいるんだからな」

「それは、悪かった…」

「まあ、それよりも聞きたいのは、お前たち二人こそ知り合いなのか?」

「ううん。今日出会った仲だよ」

「早朝の移動中に、たまたま森の中を無防備に大きな荷物を運ぶ姿が見えたから、声をかけて手伝っていたんだ」

「まあ、いいじゃないか。何か問題があった訳じゃないんだろう?せっかく美味しい料理が並んでいるんだ。話すのは食べながらでも構わないんじゃないかな?」


これ以上、この二人だけお預けさせるのも可哀想か。

そう、奥でいっぱいいっぱい美味しそうに頬張るイブとノア達の方をチラチラと見るメアと、見ないように平静を装って我慢するシルス。


「まあ…そうだな。このままこう話しているのもあれだし。お言葉通り、俺達も食事を楽しませてもらうか」

「じゃあ僕も、少なくなってきてたし。追加追加〜」


それぞれに会話をしながらお皿を盛り付けて、先の机に戻る。

すると、メアとシルスが不思議そうにクロトの皿を自分たち達のものと見比べていた。


「どうした?何か変か」

「いえ…随分と少ない盛り付けだと」


それは、皆がお皿に様々な料理を一杯一杯に盛り付けて二皿三皿と持って来ているのに対し、スプーン一口サイズの二種類のパスタにお肉、そしてサラダ。そして小皿にサイコロの様な四角いケーキが一つ。


「そうか?このくらいで十分だろ」

「いやまあ、そうだけど。あの調子を見ると、話しているうちに、食べたいものは無くなるかもしれないわよ」


そう指差す先は、山の様に盛り付けたれたパスタやお肉などの料理を、飲み物の様にイブとノアが食べ続けていた。


確かにあれは、ここにある全ての料理を食べ尽くしそうな勢いだな。

「まあ、俺は元々少食だからな。これだけ食べられれば十分」

「クロがそれでいいならいいけど…」


二人は再び、自分達で盛り付けたその皿見る。クロトの皿に盛りつけられた量が少ないため、一般的な盛りつけに対して三倍から四倍程の量がある。


「因みに…。よく食べる女性のことをどう思いますか…?」

「…どういう質問だ?」

「そのままの意味です」

「よく分からんが…。こんな量しか食べてないから説得力はないが、食事は体の資本なんだし、いい事じゃないか?と言っても偏った食事と過食は問題だな。色々な病気の原因となるものだし、それが癖になると体系の変化が起きやすい。動きにくい体になるのも良く無い。だから、食べている分、動きやすい肉体スタイルの維持さえ徹底できていれば何も問題ない。何事も重要なのはバランスだな」


本来聞きたかった事とは少し違うが、その言葉にホッとする。


「何と無くクロの価値観は分かりましたけど…。あの二人は放っておいていいのですか?」

「イブとノアは他と体の本質が違う。だから、何の問題も心配する必要もない」

「いえ、話の流れからそうなのですが…。そうではなくて…」


そうだけど、そうじゃない…。何を言ってるんだろうか、と周りを見渡して理解する。


「そう言えば、この食事会は演奏者を労うものって言っていたが。これだけなのか?」

そう、ここにはまだサンビアとフェヴェル、セネリア、クロト達のみ。シルスが心配しているのは、このままでは、他に来るであろう演奏者達の分が無くなってしまうという事だろう。

「ええ。他の人は皆、既に帰っているから、来ないわ」

「帰ったの?何で?」

「何でって…。まあ、全部そこで吞気に涼しい顔して食べてる、男のせいね」


自分の事を話していると、フェヴェルが確かに涼しげな笑顔を見せて手を振る。


「フェヴェルさんが?」

「私たち二人には無い。彼から五人目までの演奏に、ある共通点がなかった?」


共通点…。


そう、二人はこれまでの演奏の景色を思い出し、探し。そして…思い浮かんだソレを同時に答える。


「「妖精…?」」

「フェヴェル・シュントモニス。彼の演奏を見て分かる通り、妖精の姿が見える事から≪妖精と奏でる者≫という二つ名を与えられているけれど、彼の本職は演奏家じゃない。調律師よ」

「調律師…?」

「調律師っていうのは、基本的な音程を作る文字通りの「調律」。より良い状態で音を発生させるための整備をする「整調」。そして演奏者のイメージ通りのデリケートな音色を作る「整音」の三つを行う者よ」

「 その他に演奏室の防音や、温度・湿度の管理についてもピアノ使用者にアドバイスをすることもあるよ」

「音楽の優劣は詳しくないのだけれど…。それってつまり、本職でない人の演奏に劣等感を感じたって事?」

「この際、ハッキリと言っておくと。彼に比べたら後の四人の実力は足元にも及ばないわ」

「そうなの!?あんなにも綺麗な演奏をしていたのに」

「その綺麗な演奏が、その男の手によって出来上がっていたとしたら?」

「…?」


それは、その四人がフェヴェルに使用する楽器を調律してもらった様に捉えられるが、恐らく違う。だったら何をしたの…?見当も付かない。


「そこの男は自分の演奏をしながら、会場の魔素を調律したのよ。後続者が演奏しやすいようにね」

「…それに何か問題があるの?」

「コンクールは演奏者の技術力を披露する場であるのに、他者に援助され、自分が表現したい世界に入り込まれる。言ってしまえば、己には援助をはねのける実力が無く、本来の演奏が出来ていないと自己紹介をしている様なモノ。当然、審査員からの評価は最悪よ」

「セネリア。一つ訂正しておくと、私のせいじゃなくて、お陰と言って欲しいな。これだけの大舞台で、お客人たちには恥をかかずに済んだし、これまでに無い素晴らしい演奏ができたのだから。そもそもだよ?彼らも他の皆のように辞退すればよかったのさ。私程度の演奏に左右されるような実力だったのなら」


優しいげな声と表情とは裏腹に出る、容赦ないその毒発言に、二人は引き気味に心の中で「うわぁ…」と声がこぼれる。


「だが、それでも。皆いい演奏には変わりなかった。初めての体験だったよ。音楽でこんな風に楽しめたのは」

「そうね。楽しい世界ばかりだったわ」

「改めてお三方。今回は素晴らしい演奏を有難うございました」


「こちらこそ。楽しんでいただけたようで良かったよ」

「そうね。私達こそ、こんなにも新鮮な感想は久しくて嬉しいわ」

「さて、サンビア。食べるのもその辺に、君から彼らに話があったんじゃないかい?」


話を振られて、口へと食べ物を運ぶ手が止まり思考する。そして思い出し。「んんむ!すおうんっん!」と口に含んだまま喋る。


「何を言っているか分からないし、汚いから。ちゃんと飲み込んでから喋りなさいよ」

「ごめんごめん。そうだった、料理がおいしくて、すっかり忘れていたよ。君達、今回のコンクールの主催者。帝都の人たちの目的が知りたいんだったよね」

「何でそれを?」

「いやまあ、ヴァンにお礼代わりにそのことを聞かれて話そうしたんだけど、君たちと会って、僕自身の言葉で直接話してほしいと言われてね」

そうか。そういう事なら、ヴァンは本当によくやったな。

「それで、一体何を知っているんだ?」

「簡潔に言えば、演奏者の引き抜きだろうね。実際に演奏後に僕に会いに来て、『帝都で、楽器を弾いてくれないか?』って」

「それなら、私の所にも来たわね。色々と待遇するって」

「やっぱり君にも来てたのか」

「私の所には来なかったよ。仲間はずれは寂しぃなぁ〜」

「それで、二人はなんて答えたんだ?」

「当然、遠慮しておくよって断ったよ。待遇どうこうよりも、今はここでの目標を果たすのが優先だからね」

「私も同じよ。それに比べたら、並べられた待遇なんて、つまらないものばかりだったわ」


帝都からの待遇と考えれば、俺たちでは考えも付かないようないいモノだと思うが、それを簡単に断るほど、その目標が大切なんだな。


「わざわざ来国してコンクールの主催までしたんだし。そう簡単に引き下がらなかったんじゃないの?」

「それが、そうでも無いわ」


『残念だけれど、私には私の目標があるから、貴方達のお願いも、待遇にが興味ないわ』

『そうですか…。それは残念です』

『残念?とても、その口ぶりからは残念な感じは無いけれど。それに、随分と簡単に引き下がるのね』

『いえ、残念ですよ?ですが、構わないのです。運命は必ず、奏者の方から導かれ、訪れ来ると仰っていたので』

『相手から来てくれるのなら、なんでわざわざ私に会いに来て、こんな話をしているのよ。時間の無駄じゃないのかしら?それに、口止めもする気無いみたいだし』

『ふむ…。確かに貴方の仰る通りです。ですが、コレも必要な事。何でしたっけ…。乱数調整…?いえ、運命調整と言うんでしょうかねぇ。だから、誰かに知られようと構わないのです』

『あっそ』

『それで、貴方の方から何かありますか?』

『…何も無いわ』

『そうですか。では、お時間頂きありがとうございました。私達はこれで』


「ってな感じで帰ってたわね」

「僕の所も似た様なこと言ってたな」


乱数調整…。この世界には無いような用語を聞くに…ベンジャミン・ルイスの(たぐい)が、関わってる可能性が高いな。だが、あいつは少し前にユーラクストで不完全のメイザスを顕現させているから、あいつの事は警戒はしなくていいか。


「まぁ、彼らからしたら、僕達は本命の為の鍵。いや、動力源でしか無いからね。そんな焦る必要が無いんでしょ」

「本命?本命って何だ?」

「それは——」


すると、会場の扉が開かれる音が聞こえ、皆の視線が集まる。

そこに現れたのは少し、疲れ気味のロメルの姿だった。

そして、辺りを見渡してこちらへと向かって歩いて来る。


「いやぁ、遅くなって済まない。コレいつものだよ」


そう、幾つかのサイコロの様に小さな箱を渡す。


「ありがとうございます」

「悪いね。本当ならもっといい物を受け取ってもらいたいのだが…」

「いえいえ。これでも充分ありがたく、助かってます」

「そう言ってくれると、助かるよ」

「それじゃあ、ここからここまで貰っていいかい?」


そう一列の長い机を示し尋ねる。


「ええ。いいわよ」

「もちろん」


と、続けてこちらを見る。

受け取っていた箱は、セネリア達がピアノを出し入れしていたやつによく似ている似ている。食べ物を尋ねてきた事を考えるに、食べ物用に保存機能の付いた収納魔道具なんだろう。


「まだまだいっぱいあるようだし、それだけじゃなく、もっと持っていっていいんじゃないか?」

「そうかい?なら、遠慮なく貰っていくよ」


そう言って、何か魔道具を設定して起動すると、二列半の食べ物が一瞬で消えた。


「それじゃあ、家に待たせてる子がいるから、僕はそろそろ帰るね」

「いや、ちょっと待てよ」

「もう貰ったご飯は、流石に返せないよ」

「いや、そうじゃなくて。その前の話が途中だろ…」

「え、何だっけ…?」


珍しくクロが焦ってる…。

何かいいわね…。


「帝都の奴らの目的。お前たちが本命の鍵やら原動力やら言ってた。その本命についてだよ」

「ああ!そうだったね。その件何だけど、君達はどのくらいここに滞在するつもりなんだい?」

「どのくらいって今日合わせて三日間。明明後日の昼前には出る予定だ」

「そっか。なら、その日にこの国を出て東に真っ直ぐ行くと、森の中に開けた道があるから、そこを真っ直ぐ行ってくれるかな」

「そこに何があるんだ?」

「ん?僕が住んでるところさ」

「お前の住処なんて聞いてないんだが」

「焦らない焦らない」


話すのに疲れたようにこぼす。


「僕もね、ソレを一目見てみたいんだ」

「…何が言いたいんだ?」

「だから本命のモノがあるだろう場所まで案内するから、僕もそこまで連れて行って欲しいんだ」

「…在処を知っているのに、協力を求めるってことは、危険な場所って事か」

「そういう事。君達も冒険者なら護衛の仕事くらい知っているだろう?」

「…別に構わないが、身の完全な安全は保証できないぞ」

「ああ。そこまで理不尽でわがままな頼み事はしないよ」

「なら、いい。それでいいよ」

「なら、待ってるよ」

「お前こそ、忘れるなよ」

「もちろん」


自信満々に返事をするがさっきの事もあり、心配が拭えない。


「何時になるかも分からないけど、次の演奏も楽しみにしているよ」

「ああ。楽しみにしといて」

「毎回聞いててあれだけれど、私からの提案…。気が変わったら遠慮なく、何時でも言いに来なさいよ」

「気持ちは嬉しいけど…。僕はまだ全然諦める気は無いよ」

「そう…。なら頑張んなさい」

「ああ。セネリアもね。君の演奏はいつも楽しみだから」

「簡単に言ってくれるわね…」

「君ならできるだろう」


無邪気にニッと笑みを浮かべるその顔に、少し困り顔で返す。


「それじゃあね、皆。僕のことは気にせず、この後も楽しんでね」




サンビアが会場を出た後も、皆は今回の演奏会の感想や音楽についてを語り合いながら食事を楽しみ。いつの間にか会場にあった食べ物は無くなって給仕の人達と後片付けを手伝い、イブとノアが眠り、サナはウトウトとし、皆は給仕の方々からお礼と提供された食後酒やお茶での会話を楽しんでいた。


ロメルは給仕の人と何かを話し、その終わりにクロトが歩み寄る。


「いかがでしたかなか?今回の演奏会は」

「気分転換として、大満足だよ」

「では、彼の演奏はどうでしたか」

「凄かった…。いや、その程度では言い表せない。それ程に頭一つ、二つとびぬけていた。あんたが推すのも分かる」

「そうですか。それは、良かったです」

「それで、どういうことなんだあの受賞式は。なぜ、あれ程の実力者が賞に選ばれない」


受賞式はセネリア、フェヴェルが一、二位を受賞。そして『主よ、人の望みの喜びよ』を演奏した者から二演奏者までの順番通りの順位を与えられていたが、サンビア何も与えられることは無かった。

まるで、いない者として扱う様に。


「それは———」

「外の人間だからか?」

「いえ、外の人であろうとも厳正なる審査のもと、正しく評価されます。実際、四番目に演奏した彼女は、北の大陸からの演奏者ですからね」

「なら、なぜあの男だけ。あんなにも嫌われているんだ?」

「…この国では、各分野で最も優秀である者が評議員として選ばれます。それは、最も名誉なこと。当然、名家は何としても、その座を得ようとします。さて、彼らはその為に何をすると思いますか」


安直に考えれば、賄賂だが…。それは無いな。実力主義なこの国では、反感を買い認められないだろうし、自ら実力が無いと陥れるようなものだ。そう考えるとなると…。単純に確率を上げる。無難な方法。


「…子供という手札の枚数を増やすと言ったところか?」

「よく分かっていらっしゃる」


悪い考えが直ぐに思い浮かぶ。簡単に言えば、彼らと同じ思考を持っているということでもあるから、褒められている気がしないな。


「優秀な子供が多ければ、その分評議員の座に選ばれる可能性は増える。選ばれなくとも、子供たちが評価を出せば、家の立場はより良くなるでしょう」


あらゆる逸材を出す家。確かにそれも名誉とも言えるだろう。だが、そんなにも上手く行くなんてことはそう無い。いや、可能にする方法は確かにあるか。


「十年ほど前の事です。各家の者達がその考えにいたり、子供を多く迎えました。ですが、当然多くの子供を育成するということは、その分費用が掛かってしまう。ですから、産まれて直ぐに、適正の検査を行うのです」

「検査?」

「この国の民の肉体に宿る魔力には、時にその芸術を見て感じた際に、あらゆる反応を起こす事があります。魔術師が適正属性を見るのを応用したものですね」

「芸術の国。その長い歴史の血に宿った特性とも言えるものか…。だが、世界には魔術を使えない人、魔力を持たない者もいるだろう。当然同じような者も出たはずだ。その場合どうするんだ?」


その問い、ロメルは一息着こうとお茶を飲んで、揺らぎが止む様子を見つめる。


「あらゆる芸術で秀でた者は魔力に恵まれた者が殆どです。それは、魔力を使う事であらゆる芸術を作り出すことが出来るから。今回の演奏会、見ることの出来る音楽がいい例ですね。つまり、魔力が無い者はそれを再現する事すら出来ない、時代遅れの技術。名家の者達にとって、魔力を持たない者は夢も希望も無い。家の評価を落とす汚点でしか無いという考えに落ちてしまった。だから彼らは存在しないモノとして、東の森の奥深くにある、この国から出されるゴミと一緒に捨てられたのです」


魔力の有無が、才能の有無に直結した感じか。


「だが、サンビアは魔力を持たずして、彼ら以上の芸術を見せたが、その点はどうなんだ?」

「一度否定してしまった存在故に、そう簡単には認められない。改める事が出来ないのですよ。いつかはメッキのように、捲れ消え失せてしまうとね。だけど、彼のお陰でそれ以降は、捨てられる子が居なくなったのは救いですね」


認める事は出来なくとも、利を見つけたら止める。子供を捨てる事自体問題である事だろうに、難癖つけて正当化したんだろうな。何とも都合のいい思考回路だな…。


「それで、一体あの二人の演奏はなんだったんだ?他とは全く違うモノだったが」

「そうですね。一般的に我々演奏者が調和する音の魔力を奏で、大気の魔素に干渉して世界を見せる演奏に対し、二人の演奏は会場を外郭として、この世界の中に一時的に新たな世界を作ったという事です」


世界の中に世界を作る…。結界術の類か。


「まぁセネリアは分かるが、魔力の無いサンビアが何故それが出来る」

「残念ながら私にも詳しい事は分かりません。ただ言えるとしたら、彼は奇跡とも言える音を奏で、直接的に魔素に干渉している。いや、魔素達が自ら干渉しに行っていると言った所でしょうか」


奇跡の音ね…。まぁ、そう表現するしか無いか。

つまり、コンクールという出来栄えと技術力を競う場において、魔力操作をしない演奏は審査不可能。嫌われている理由は、その努力無しに作り出せるという事に対する嫉妬か。


「さて、もうそろそろいい時間ですし、お開きにしましょうか。後のことは他者である私よりも本人から聞くといいでしょう」

「それもそうだな…。今回は色々とありがとう」

「いえ、こちらこそ楽しかったですよ。では、またいずれ」

「ああ」


眠そうにする彼女らに声を掛けて、二人に挨拶をして宿へと戻り、明日を迎える為に、久々に感じられた平和で充実した、少し長く感じられた今日という日を終える。


—————————————————————————


夜も遅く、深い森の中は真っ暗。木々の隙間から薄明かりが射す。

ただの森で当然、整備などされておらず、凸凹と足元が悪いが、彼は慣れた足運びで歩み進む。


頬を撫でる、その風に立ち止まり空を見上げる。

深い闇の空の海に月と星々が煌びやかに輝く。とても綺麗な空だが北東の方は少し雲が多い。それに森の中をすり抜ける空気が冷たい。


「なんだか雨が降りそうだなぁ。せっかく美味しい料理を持て帰っているというのに…。まあ、しょうがないか…。自然の事だし。早く帰って、静かに雨に備えての準備でもしておこうかな」


行きしはピアノを運んでいた為に、かなり時間がかかったが、ピアノは知人に任せており、料理も箱にしまってポケットの中。帰りは手ぶらだ。だから、ここから走て一時間も掛からない。


ロメルさんのお陰で、子供達に頼まれていた物も十分もらえたし、喜ぶだろーなぁ。

子供達が笑顔に遊ぶ様子を思い浮かべるが、直ぐにその顔が曇り、進む足が徐々に遅く立ち止まってしまう。


…今回もダメだったなぁ。いや、まあしょうがない。諦めなければ、いずれ次があるんだ。だから次こそは認めてもらえるように頑張らないと。みんなの為にも。


曇った表情は既に晴れて、やる気に満ち走り出す。


そう走っていると、奥の方から穏やかな明かりが見えてくる。

それは恐らく、サンビアたちが住んでいる家の明かりだろう。サンビアの帰りを出迎えようと、お昼に寝て、夜遅くまで起きていたことが前にもあった。

まあ、その後にテンションが上がって勢い余って皿を何枚か割ってしまって、一緒にルミに軽く怒られたんだけど。たぶん今日も…。

思い出に頬が緩んでしまう。


全く、しょうがないな。


ようやく、ボロボロのベニヤ板で造られた門の入口が見えてきて、ゆっくりと歩きだす。


「ただいま~。帰ったよ~」

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