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WITHUOOM HSASTE -ウィトゥーム ハズアステ-  作者: KIKP
東北 芸術の国
61/68

60 開演

広場での現地集合にしていたが、予想以上の人混みに、合流は難しいと思えたがイブとノアの嗅覚のお陰で、無事五人と合流できた。

だが、ヴァンは数分待つも二人は感知できず諦め、事前に宿で話した通り先に入ることにした。

ただ、これだけの行列だ。入るまでにどれくらいかかるだろうかと考えていたのだが、セネリアがコンクールの演奏者であり、その友人という事で、特別に別の入口へと案内されて優先的に劇場の敷地内へと入ることができた。

広大な庭園には劇場へと続く大通りから幾つもの小道があり、それらは劇場とは別に水車小屋などといった建築物らしきものへと続いているようだ。

そして、その道に沿って多彩な花と木の植物。数えきれない人から動物に彫像や幾つもの噴水などが点在しているのが見える。

ゆっくりと見て回りたいものだが、今回はそんなゆっくりとする暇などなく、セネリアに案内されて、奥に聳え立つ劇場へと向かう。

徐々に近づくにつれて、その劇場の風貌が事細やかに見えてくる。

パラボリックな構造のアーチや、鐘楼、多彩な植物といった人工と自然の混在する彫刻が施された城。かの教会を彷彿とさせる建築物がそびえ立つ。

幾人もの衛兵が並んで立っており、それらに見られながら重厚な扉が開かれた、その門を潜って中へと入って行く。

部屋から部屋へと伸びる大きな回廊。照明として吊るされるシャンデリア。天井や壁、柱には装飾画や黄金などの綺麗なものの彫刻が施され、様々なところに額縁に収められた絵画や鏡、彫像。ピアノやヴァイオリンなどの楽器。宝石アクセサリー。グランドファーザークロックにベットなどの家具とが展示されていた。


「このアルスリア劇場は、この国の建国と同時に、当時、造形技術に優れた。スタトゥアリウス・モルディ・ペェンツァ―レによって着工され、その一族が代々引き継ぎ、約千年以上掛けて建築された、宮殿劇場よ」

「この広大な敷地と山の様な建物を約千年か…。早いのか遅いのかよく分からんな…」

某宮殿で約五十年。教会で約三百年くらいだったよな…。魔術を利用したこの世界としてはどうなんだ?

「本来であれば五百年ほどで完成する予定だったのだけれど、彼らほどの造形技術を持つ者が少なかった為に、少人数精鋭の建築となって時間が掛かったそうよ」

芸術者がよく持つ、こだわりというやつか…。まあ、これだけ壮大なモノを作るんだ。半端なモノにはしたくないのは理解出来る。

「因みに、先程の大通りで見かけた評議員は現造形技術の評議者。ミッドロイル・モルディ・ペェンツァ―レという名で、スタトゥアリウスの末裔よ。丁度そこにある作品が、彼が作ったモノよ」

彼女が見る先へ、視線を向けてそれを見る。

それは、小さな崖の壁より優しく流れ落ちる滝と泉。周りには生い茂る、果実を実らせた木々。水を飲みに来た様々な野生動物達。そして一人の麗しき女神の様な人物が佇む。

その様子を一室丸ごと使用し、様々な鉱石だけを彫刻して表現された、大きな作品がそこにあった。

枝木に幹や葉の葉脈の模様。動物の毛、女性が身に纏う衣服の皺。泉の水の透けた表現と事細かく、精密な手が施されているのが良く分かる。

今朝の査定や先の事から、ただ意地の悪い男だと思っていたが…。これを見されれば疑いようなどない。実力は本物のようだ。


「これみたいに、宮殿内に展示されている作品は全て、最高の芸術者である歴代評議員によって制作された作品達。故にここは、奇跡の集う楽園。歴代の芸術者の英霊が眠る墓場。エデンセプルムとも呼ばれているわ」


作品が墓標の代わりか…。大通りへの出店。それは己の生活を満たすため。ただ、承認欲求を満たすためと思っていたが…。この国での目指すべき目標である評議員。そしてこの宮殿に作品を残すという事は、あの世界でいう世界に名を残した英雄たちのモノに近いのだろうな。楽しげにしている内にあった…あれらの必死さの理由はこれか…。


「つまり、あんたもその席を?」

「いいえ。私はそんな事に興味なんてないわ。ただ一般的に不自由ない生活ができて、演奏さえできれば満足だもの」

「まあ、そんなもんか」

「ただ…。あえて言うのなら…。負けたくない。勝ちたい相手が居るくらいはあるわ」

そう握りしめた手を、思い詰めた鋭い目を見せる。

よほど意識する相手なのだろう。静かにピリピリとしたプレッシャーが溢れ出る。

「セネリア先生なら、何も問題なんてないでしょ」

「随分と簡単に言ってくれるわね。メア…」

「そうなの?」

無邪気な彼女の様子にセネリアは微笑み、プレッシャーが収まる。

「まあ、そうね…。私は私のやる事を…。いつも通りやるだけだものね」

彼女の力強い、威風堂々としたその歩みに、期待し、劇場の中へと入って行く。




セネリアが「せっかくだから、一番良い席で聞かせてあげる」と、会場の管理者と何か話すなり、二階の中でも特別そうな、ボックス席という、かなり良さそうな席へと案内された。

その事と、場内を歩き進むだけで、幾つもの憧れの様な視線が集まっていた事から、彼女がただの演奏家ではない、有名人であると言う事が容易に窺える。

席から劇場内を見渡すと、思っていたのとは少し違う様式の、広い空間だった。

劇場・音楽ホールには幾つかのテンプレのようなものがある。

それは大きく分けて四つ。


『コンサートホール型』

知識的に最も一般的なスタイルだと思う形。

広い舞台、広い客席空間に加え、豊富な音響機材やホール設備で、クラシックからポピュラー音楽のコンサート、オペラや演劇の公演、学会や講演会、式や記念行事など、幅広い用途に対応している万能型のホール。

舞台を中心に扇を開いたような平面形状を持ち、観客席からステージへの視覚線が良好なのも特長である。


『馬蹄劇場』は歌劇場によく使われ、上から見ると馬の蹄の形をしている事から、そう呼ばれている。三~五階くらいまであるが、音が客席空間で反響し、隅々まで届きやすくなっている。

馬蹄形の二階以上は横席は舞台に近いほど、席は斜めに、真横を向いている。横を向いているが、必ずしも舞台を見やすいかというと、そうでもない。

昔は、歌劇場は社交の場でもあった為に、ずっと舞台を熟視して観ているという感じではなかった。始まると話をやめて聴く、またはお気に入りの歌手が歌うと聴いていたというように。

桟敷席、二階以上はボックス席になっていることもあり、小さなプライベート部屋となってある。

二階の真正面にはボックスではなくオープンな特別席というのもある。それは一番見やすい席であり、かつては王族などが観劇する際に座っていた席だったといわれている


『シューボックス型』

シューボックス=靴の箱のような、直方体のホール。

オペラよりはコンサートやリサイタルとして利用されることが多い多い。天井が高く豊かな残響が得られ、横幅が狭いことによって側壁からの初期反射音が客席全体に豊富かつ均一に得られる。反射音が豊富でリッチな響きを得やすい、優れた音響特性を持ち、デザインも洗練された美しい造りになっていることが多いのが特徴。

この型をベースに舞台が見やすいアリーナ型の客席配置 とした『囲み型シューボックス形式』も存在する。

長方形の短辺の一方にステージが設置されており、ステージに対してほぼ平行に客席を並べる形が通常で、舞台の後ろや横にバルコニー席が設けられることもあり、中小規模の音楽ホールに適している。


『ヴィンヤード型』

客席が幾つかのブロックに分かれており、その配置、客席内の壁面により、有効な反射音を得て優れた音響特性を創り出すというもの。

ヴィンヤードとは「ブドウ畑」のことで、客席の構造が段々畑のように見えることから呼ばれており、形は多角形の場合が多い。

多くの場合”P席”=舞台後方にも客席を備えており、ステージを客席が取り囲む、すり鉢状の形で視線距離が短いが、見掛けによらず客席数が多く、最大の特長としては演奏者と客席の一体感、臨場感を与えてくれるとされている。

だが、比較的規模が大きいこともあり、音響的には席によりバラツキが出てしまうことがある。


そしてこの劇場で最も近いモノは『ヴィンヤード型』だが。この広さはホールというよりも、アリーナまたはドームというのが正しいだろうか。


「この劇場には幾つかの魔術陣が施されているわ。音響や照明とあるけれど、一番の特徴であるのが『空間伸縮魔術』。今回の演奏会の規模と用途に合わせて劇場の大きさ形を変形できるわ」

「それにしてはこの広さ…。コンクールには余り適しない様な気がするが…」

「確かに…。これだけ広いと演奏が聴こえるのでしょうか…」

「ね。舞台があんなにも小さい」

演奏の会場としてホール、アリーナ、ドームとあるが、この3つで音響などを考えて設計されてるのはホールだけだ。

アリーナやドームで公演する理由は大人数が入れるからというだけで、遠い席であるほど音の響きは悪く聞き取りづらい。

拡声器といった音響装置を使えば何とかなるが、コンクールにそれを使用するのは聞いたことが無く、そのようなモノは見当たらない。到底、今回の用途には適しているとは思えない。

「そうね。それも含めて、この国のコンクールなどに関する事を説明をしたいところだけれど。一人目の演奏がもう始まるから、一先ずそれを聴きましょ。それが終わったら少し休憩時間があるから、その時に説明するわ」


その言葉の通り、会場は徐々に暗くなっていき、舞台に照明が降り注ぐ。

司会者が丁寧な挨拶を手短済ますと、正装を身に纏う一人の演奏者が観客の拍手に迎えられながら舞台に上り、セネリアの持っている物に似た箱の魔道具を起動すると、美しく優しい光が溢れ、徐々に収まりながら彼の前に重厚なグランドピアノが姿を現す。

だが、そのピアノは一般的なモノとは少し違う。本体にスピーカーにある様な、穴模様が見える。


席を調整し座ると、静寂の会場は完全な無音の世界となり…。


演奏者の始まりの音と共に…。世界が…—————。


動き始める。



始まりの音が数秒長く響き、徐々に消えて行く。演奏者はそれに合わせて両手をゆっくり上昇させる。

そして次の瞬間、鍵盤を強く叩き付け、目を覚まさすような轟音が会場全体に鳴り響く。

そして、滑らかにノリの良い心地の良い音が流れ吹く。


ヘンデル 水上の音楽 第ニ組曲 第ニ曲 "アラ・ホーンパイプ"。


ヘンデルが王との和解を図るため、1715年のテムズ川での王の舟遊びの際にこの曲を演奏した、というエピソードのある、《水上の音楽》の中でももっとも有名な曲。

とても上品で美しい音色に聴き入っていると、後ろからうっすらと光る何かが、顔の横を通って羽ばたいて行った。

青い蝶。それは一匹だけでは無い。二匹、三匹と会場のあちこちで暗がりに光を灯す蛍…。いや、妖精が踊るように飛び交う。

変化は、それだけでは無い。

演奏者がいるステージに水面が張っていた。それは水上に浮かぶ船のように、川の水がピアノの足をすり抜けていく。

ステージの端には、草花が生い茂り、芽生え伸びる蕾は開花し、色鮮やかなバラが咲き誇る。


一曲目の終わり。その音が鳴り止み独自のアレンジらしき音色の後に、二曲目を続けて演奏する。

それは、よく音が響く曲だ。


ハープシコード組曲 第五番 終曲 "調子の良い鍛冶屋"


ヘンデルが、1717年から1718年までキャノンズのシャンドス公爵に仕えていた頃、鍛冶屋の軒下で雨宿りをしていたところに、ハンマーが金床を撃つ音に霊感を受け、旋律を思い付いて書き留めたとする逸話がある。

第一変奏において規則的に反復される保続音が、鍛冶職人の鉄鎚の音を連想させうるからである。この話の変形に、ヘンデルは鍛冶屋が口ずさんだ旋律を耳にして、その後「エア」にしたというものがある。この説明は、旋律を借用するというヘンデルにはよくある手法と見事に合致する。

だが、どちらの話も真実ではない。この手の伝説は、ヘンデルの死後75年を経て現れたものであるが、今はそんな事は良いだろう。


川を渡り終え、国の街道を歩いている。

鳴り響くその鍛冶屋の音とされるものは、ありとあらゆる芸術作品を作っているのだと、妖精達が可愛らしく絵を描いたり、手芸、演劇を楽しんでいた。

それはこの国。この劇場まで歩いてきた観客たちの視点の様子を見せているいるようだ。


少しの静寂の後、穏やかにリズミカルな演奏が始まる。


"シバの女王の入城"


オラトリオ『ソロモン』第三幕で演奏されたシンフォニア。

旧約聖書に登場する古代イスラエルの王 ソロモン。神から「何でも望むものを与えようと」と言われた彼は善悪を判断し、国を正しく治める為に知恵を望み、与えられ、知恵者の象徴となった。


第三幕では、ソロモンの知恵を試そうと考えたシバの女王が難問を持って、ソロモンの王国へ公式訪問する際に、シバの女王が音楽やダンスで歓迎されるシーンである。


先程の咲き誇っていたバラの花びらが舞い散り、演奏者の周りで踊っていた妖精達は姿を変え、弾んで歌う楽器達の音楽隊の様子をうかべさせ、明るく優雅な様は、優しく香しい。この劇場の観客を演劇の内容同様に歓迎する。


そうして、馴染み深く、よく聞き覚えのある演奏が始まる。


メサイア 第ニ部 終曲 "ハレルヤ"


題は『メシア』の英語読みに由来したもの。

聖書から歌詞を取り、イエス・キリストの生涯を題材とした独唱曲・重唱曲・合唱曲で構成される。

ただし、聖書でイエスの生涯を直接描いている福音書から採用されているテキストは少なく、むしろイザヤ書などの預言書に描かれている救世主についての予言を通して、間接的に救世主たるイエスをうきぼりにする手法が採られている。


メサイアは曲といして五十曲近くあり三部構成となっている。

第一部 メサイア生誕の予言と降誕。

第二部 メサイアの受難と復活。

第三部 メサイアの永遠の生命であり。


十字架を背負いてゴルゴダの丘をゆくイエス。弟子たちは神の一人子であるイエスを見捨てて逃げた。それなのに主は私達の罪をイエスに負わせた。この方は、この地上から断たれた。

そう、死を想像させる歌が続く。

しかし、メサイア イエス・キリスト復活したと。この "ハレルヤ・コーラス"が盛大に歌われ、第二部はフィナーレを迎えるというもの。


今回の演奏にはそういった『主』と思われるものが現れる様子も、気配も感じられない。

ただ、妖精たちがもう、直ぐに終わってしまうよと美しいメロディーを奏で盛り上げ、そうして最後の音が鳴り響く。

音が鳴り止み、演奏者は立ち上がると、周りにいた妖精たちが彼の真似をする様に姿勢を正し、観客に向けて一礼をする。


会場全体から拍手喝采が鳴り響き、それに妖精たちは嬉しそうにして満足したのか、光の粒子となって消え去っていった。



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