59 旧友
先生…?
メア個人の知り合いのようで、その女性が入口からこちらへと歩いてくる。
「知り合いか?」
「ええ、紹介するわ。私が幼い時にピアノを教えてくれたアルセネリア先生よ」
「もうあなたの先生じゃないわよ。初めまして、アルセネリアと申します。セネリアとお呼びください」
「クロトだ」
「シルスです」
「それにしても、久しぶりねメア。何年ぶりかしら」
「私が六歳の時だったから…十年ぶりかな」
「もう、そんなに経つのね…。それでどうしてここに?」
ふむふむ、とメアの体を上から下へ、下から上へと品定めするように見ながら尋ねる。
「ちょっと用があって」
「そう…」
「何よさっきからジロジロと見て」
「う〜ん…。まだまだ、お子様ね」
「お子様って…これでも結構鍛えてるのだけれど…」
「そういう意味で言った訳では無いのだけれど」
「ならどう言う…」
「分からないなら、分からなくても問題ないわよ」
納得できない様子を露わにするが、これ以上聞いても彼女は答えてくれないと分かっているようで、大人しくなる。
「セネリアお嬢様の御友人様でしたか」
「ええ、音楽学校の学生時代に外国留学があるでしょ。その時に彼女の国に行って知り合ったのよ」
「なるほど…。それにしてもセネリアお嬢様にあの御方以外に御友人が居たなんて…。とても嬉しいばかりですな」
「あの御方…?」
そう、しばらく考えるなり、少し頬を赤く染める。
「ばっ…。あのバカとは友達じゃないっての!」
少し焦りながらも怒った様に、強く否定する。
口調が少し強い話し方に変わったのを見ると、恐らく今のが素の彼女なのだろう。その様子は少々、メアと似ているように思えた。
凡そ、この上品すぎる国には、今の話し方は合わないからと、皮を被って生きていく様に教育されたのだろうか。
「んんっ…と言うよりも、何をどさくさに紛れて、他人行儀にお嬢様呼びしているのよ。ロメルお爺様」
「ほっほっほっ。一応貴方も、お得意様ですから」
「おちょくってるの間違いでしょ…。年甲斐もなく、何テンション上がってるのよ全く…」
「まぁまぁ…。ピアノを取りに来たのでしょう。ちょうど終えたところですよ」
「そう、ならちょうどいいわね。試奏も兼ねて私の音楽を久しぶりに聞かせてあげるわ」
「いや、それはやめておいた方がいいでしょう」
「なんでよ。ちゃんと仕上げてくれたのでしょう?」
「いえ、そうではなく。皆さん、今回のコンクールを鑑賞しに行くそうですので、ここで先に聴くのは勿体ないかと」
「あら、そうなの?」
「ええ。その予定だけど…。まさかセネリアもそのコンクールに?」
「当然。それなら確かに、ここで披露するのは勿体ないわね…。まあ、取り敢えず確認だけはしておくわ」
そう言って、ステージに乗せられてあるピアノの前に立って手を添え、深く呼吸を整える。凄く集中しているのが伝わってくる。
そしてゆっくりと手を運び、左端から右端へとゆっくり鍵盤の音を流して響かせて、鳴り止むまで聴き、再び左から一音ずつ音を響かせる。その後、いくつかの音とペダルの確認を済ませる。
「完璧ね。いつも助かるわ」
「いえいえ。いつもご贔屓にしていただき、助かってますよ」
「お互い様にね…」
そう言って、ピアノの上に置いてある黒い箱に手を添えると、その箱に魔力の線が流れて開き、ピアノが跡形もなく消え去ってしまう。
そして風船の様に、宙をゆっくりと落ちていくその箱を、手にとってジャケットの内ポケットに仕舞う。
あの箱…。シルス達が持っているモノと似たような魔道具か。
「それじゃあそろそろいい時間で、目的地も一緒の様ですし、会場まで一緒に行きませんか?」
「私は構わないけれど…」
そう、クロトとシルスに目を向ける。
「別に断る理由も無いし、いいんじゃないか?久しぶりの再会なんだから、話したいこともあるだろうしな」
それに、音楽のコンクールに詳しい人がいた方がいいだろうからな。
その言葉に、メアは嬉しそうに表情を露にして、セネリアの手を取る。
「じゃあ、よろしくお願いします。先生」
「ええ。よろしく」
ロメルは、まだ仕事が残ってるからと、後で合流する事となり、とりあえず四人は店を出て、来た道を戻るように大通りへと歩いていく。
そうして見えてきた大通りの様子は、先程までと大きく様子が変わっていた。
先程まで、大通りでは人や馬車がそれなりの数が行き交っていたのだが、大通りを埋め尽くすような勢いで、多くの裕福にオシャレをした人達が同じ方向へと向かっていた。
それに、幾つもの店がまだ昼過ぎだと言うのに閉店している。
それらを見ただけで、この国のその会場で行われる演奏会が、壮大なイベントであるという事が、容易に想像出来る。
道中では、メアが要所要所省きながら、俺達との出会いとここまでの事を話していた。
「へぇ〜。今は旅をしているのね」
「そう。おじ様に俺達が冒険者してた時みたいに世界を見て回って来いってね」
「いいじゃない。てことはやっぱり、御二方とも従者という訳では無いんだ」
「ええ。私の大切な、旅の仲間よ」
「そっか…」
一切の濁りなど無い、そのとても眩しいメアの表情に、クスリと微笑む。
数か月前に、新聞で久々にあなたの名前を見た時、イヴァリスの王と自分の身を賭けて勝負をするって心配していたけれど…。もう心配などする必要はない…。貴方にそんな顔をさせてくれる仲間と出会えたのね…。よかったわ。
「そういえば、外国留学の時にメアと知り合ったと話していたが…。その時のメアって、どんなんだったんだ?」
その問いに、メアはどんなだったかと思い出そうとする様子を見て、セネリアは小さく微笑む。
「とても面白い子だったわ」
「面白い?」と、思いもしない答えに、メア自身が疑問の声を漏らす。
「私が学生時代の海外留学は、様々な国に一人、一か月程滞在させるの。その主な目的は三つ。一つ目、
広告塔として芸術の国『フエルミューズ』の存在とその素晴らしさを広めること。二つ目は異国の文化を知ること。異国の地で何かしらの刺激を与えて、創作力の幅を広げるってことね。そして三つ目、期間中は自分の力で最低限以上の生活ができるようにする事」
「それって学生だけで行かせられるのか?」
「いえ、学生一人に国から護衛として雇われた冒険者を二人以上つけられていたわ」
「それは随分と豪勢な事だな」
「一応、国にとって学生は、宝石が大きな石に包み隠されているようなものですから」
「そうか…。それでも苦労しただろうな。まだ学生でストリートミュージシャンなんて」
「ええ。留学が決まる前から憂鬱だったわ。クラシックのクの字も知らない人達に音楽の素晴らしさを理解して貰うなんて、そう簡単なものでは無いもの。それも、一人前のプロでも無い、ただの学生…。子供の演奏なのだから。やる気が一切湧かなくて、何処に行くか決めずに、逃れようかなって思っていたけれど、父とお爺様に促され、結局避けられる訳もなく教員に勝手に決められたのは、唯一余っていた天災から一年ほどしか経ってない、建国されたばかりの国。メウリカに、無理やり行かされたわ。
広場での演奏。最初こそ物珍しさに人は集まっていたけれど、常に人は代わる代わるで徐々に少なくなっていき、当然、生活が厳しくなっていたわ。でも、ただ一人。毎日欠かさず聴きに来ていた子がいたの。それが、メアとの出会いよ」
「へぇ~」
「な、なによ」
「いや、小さい時からクラシックに関心を持っていたんだなって」
「大したことじゃないでしょう」
褒められているのかと、照れていると、セネリアが微妙な表情を浮かべていた。
「う~ん。そうじゃないのよねぇ」
「へ?」
「やっぱり昔の事だし、覚えてないわよね…。この子が私の傍に来て、初めて掛けた言葉。何だと思う?」
「何って。メアに教えられる程となると…。単純に凄いとかか?」
「演奏する姿が、綺麗だったとかもありますよ」
二人が思いつきに言葉を並べる中、メアは記憶を思い出そうとしているが、十年も前の事。そう簡単に思い出せない様子。
「『変な音』よ」
その言葉を聞いて思い出したように「あっ」と、声を漏らす。
「『毎日ジャンジャン変な音鳴らして飽きないのね』『暇なの?』」
追撃とばかりにセネリアが続ける。
「メア…」と何とも言えない表情でシルスが言葉を零し、「子供ならではの、率直な感想ってやつだな」とクロトは関心を持つように呟く。
「こ、これは違うのよ…。言葉の綾というか…。私もその頃、少し荒れていたし…。若気の至りというか…。なんと言うか…その…ごめんなさい」
慌てて弁明しながら謝罪する彼女に、セネリアは満足気に微笑む。
「いいえ、こちらこそごめんなさいね。久々に会って、とても充実したような話を聞いたから、ちょっとだけ虐めてみたくなっただけなの。だから、別に謝る必要も、弁明もしなくていいのよ。寧ろ今では、感謝しているのだから」
「感謝…?」
「ええ。嫌味な感想を言う割には、律儀に毎日聴きに来て、チップを置いて行ってくれてたのだから。私もまだ子供だったし、あの頃は貴方の言葉に不満はあったけれど、助かっていたわ。まぁ、流石に『つまらない。それの何がいいの?』って言われた時は…。私の手ずからその身をもって、素晴らしさを徹底的に教えさせていただきましたから」
そうニッコリとする彼女の言葉に、メアは何か感じた様にビクッとして「あはは…」と声を漏らす。
ピアノを教えてもらったというのは、そういう経緯からか…。
「まぁ、それが私にとっていい経験となったということ。あの時、メアが言った事は何一つ間違ってなかったのだと。留学を終えて帰国した後、直ぐに気がついた。今の私があるのは、メアとの出会いのお陰でもある。だから、感謝しているのよ」
「いいえ。私はただ、貴方と出会えただけ。今があるのは、あなたの努力あってのものでしょう」
「昔と比べて、随分と謙虚になって…」
「もう、私は子供じゃないですぅ!」
「ふふ」
「つまり、メアが最後に聴いた時よりも、いい演奏が聴けるって期待していいのか」
「ええ。思う存分期待していいわ。音楽の素晴らしさを、私の音楽を、体感させてあげるから」
体感させる…。
聴かせるとは違う、表現の仕方に三人が不思議に思うも、その答えは直ぐに分かる。
世界各国から、これだけ多くの人々が集まるお祭りの様な演奏会。彼女の言葉通り、一体どんな演奏が聴けるのだろうかと、期待に胸が高まる。
すると、セネリアはメアにちょいちょいと手招きする。
二人には聞かれたくない、内緒話だろうかと耳を傾ける。
「それで。貴方は二人のどっちに、気があるの?」
「気がある?」
意味がよく分かってないと、きょとんとするメアを見て、だから、お子様なのよ…と心の中でため息をつく。
「どっちに恋してるの?ってことよ」
「なっ」
顔を赤くして、動揺するメアに、確信を持ちおやおや~とニッコリと笑みを浮かべ。
「おねぇさんは別に気にしないわよ。貴方が年下好きでも。同性愛者でも、応援してあげるから」
「べ、別に二人とは…。そ、そんな…。そんなんじゃ…」
否定はしないっと…。ほんと自分の心には真っ直ぐで、噓を付けない。貴方のそういう所は、あの時から大好きよ。まぁ、ここまで会話と様子からして、何と無くは察しはついているのだけれど。
そう、二人の方をチラリと見る。
「まあ、頑張んなさいよ。メア」
「だから、勝手に話を進めるんじゃ———っぷ」
よそ見をして歩いたせいか、前を歩いていた男性の背中にぶつかってしまい、男性が振り向く。
「ご、ごめんなさい」
謝罪をするメアを見て、「大丈夫だよ。こちらも済まないね。急に立ち止まってしまって」とニッコリと微笑んで前を向く。だが、その男性は歩き出す様子はない。それは、その男性だけでなく周囲の人たちもが足を止め、皆同じ方向を向いていた。
「なんでわざわざ今日の、この時間に行うのよ…。進めないじゃない」
何が起こっているのかを知っているのだろうか、セネリアが嫌な顔をして文句を呟く。
セネリアの言う通り、壁の様に立ち止まる人の隙間を通り抜けようにも難しく、一体何を見ているのだろうか…と背伸びをしたりして、人だかりの隙間から注目の集まる、その現場を覗き込んで見えたのは、とある店の前に少しボロボロになっている一人の男が地面に這い蹲っていた。
喧嘩…?いやでも、争いごとであれば街の防衛システムがどうとかって…。
喧嘩程度じゃ、必要ないって事でしょうか…。それに、喧嘩というよりもあれは…。ただ、やつれているだけの様な…。
視覚的情報だけでは、はっきりとした状況が分からず心配して見守る中。這い蹲る上体を起こして、男が口を開く。
「ま…待ってくれ。あ、あと少し…あと少しで出来るから」
「残念ですが…。これ以上は待てませんなぁ」
聞き覚えのある声が聞こえた。
這い蹲る男の先。扉の開かれた店の中から、その声の主が二人の衛兵を両脇に連れて出てくる。
それは、今朝に素材や宝石などを査定し買い取ってくれた店のオーナー。ミッドロイルだった。
「これでも十分に猶予は与えていたのですよ?それだというのに、昨年から今日までに制作されたのは、たったの二作品。依頼も来客も減り、毎月のノルマをこれまでに稼いだ貯金を切り崩すばかり。その調子では、我が国の看板である、この大通りで続けていくのは苦しいだけでしょう」
全てを見透かされている。何一つ言い訳できないと、ぶつけようのない気持ちを地面を抉る様に血を滲出しながら、握り締め、頭を擦り付け、唸り身もだえる。
「はぁ全く。貴方の作り上げる彫像はどれも素晴らしきものだったというのに…。芸術家が大事な商売道具である指先を無暗に傷つける程、愚か者になっているとは…。まあ当然か。貴方がここ最近制作した作品はどれも、何も魅力を感じられない、つまらない作品なのだから。愚かさが作品として表れているのでしょうな」
「ぎさまあぁぁぁ—————!」
侮辱の言葉に男は怒り、服の内ポケットから彫刻道具を取り出して、ミッドロイルに襲い掛かる。
明らかに危機的状況だと言うのに、彼を護る筈の衛兵は動く気配は無く、ミッドロイル自身、抵抗する様子も無い。一切取り乱すことなく、余裕の表情を浮かべている。
そして、男が一歩踏み出すと刃が届くという、その瞬間。
男の姿勢がガクッと落ちて、それ以上前に進めない様子を見せる。
何故か、男の足が地面に埋まっているのだ。
男は身動きできないと、道振りかぶって投げ付けると、彼らの周りにある電灯や看板、手摺柵ぐにゃりと形を変えて鞭の様に伸び、男の手と投げつけられた道具を宙で捕らえて、固定する。
「全く。この国で生まれ、ずっと住んでいるのだから、無駄であるのは分かっているだろう」
ミッドロイルはため息を吐きながら、目先で止まったその道具を手に取る。
「あらゆる道具は、目的を持って生み出されたモノだ。調理器具は料理の為。楽器は音楽を奏でるために。筆は描く為。そして、これはモノを削り作品とする為に。どれも、使用者の心を、世界というを芸術を表し、作り出させて頂くモノだ。決して使用者の勝手で誤り、凶器とさせていいモノではない」
強制的に正座させられた、男の前に跪き、顔を上げさせる。
男の表情に既に怒りは無く。無気力な様子が窺える。
「暫くの間、牢で反省し、これからの生き方を改めて考えなさい」
そう、言い残して立ち上がり、衛兵の二人に「連れていきなさい。私も直ぐに行きますから」と指示し、男に抵抗する様子などなく、大人しく手枷をつけられ連行されていった。
その後を見送り、咳払いをする。
「皆様方、お騒がせして申し訳ありません。先程の通り、この国での皆様の安全は我々がしっかりと保証します。そして今宵、帝国の王様より主催された音楽のコンクールが行われます。それは、この国より厳選された一流の演奏者達によるものです。そして先程のお詫びとして、この国ならその演奏を何処からでも聞こえる用にし、会場と皆様方が宿泊している施設にてドリンクと料理を、こちらからサービスさせて頂きたいと思います。今日というこの日を、ごゆるりと満喫くださいませ」
丁寧なその演説に、見ていた者達は満足したように拍手する。ミッドロイルはそれに手を振って応えながら、連行された男の後を追う様に、開かれた道を進んで行った。
姿が見えなくなった後も、暫く拍手の音が続き、皆満足したところで再び、足が一つ、また一つと、人の群衆が動き出し、流れに合わせてクロト達も進みだす。
「随分と、大袈裟な茶番だったな」
「茶番…?」
「今のがですか?」
「商人たちに対する厳しさを目の当たりにさせることで、芸術に対し、一切の妥協など無い。常に一級品を提供しているということ。ついでに、精神的に追い込まれている者を煽ることで、わざと襲わせて、身の安全の証明もできたというところか」
そう、答えを聞くように、セネリアに視線を向ける。少し考えた様子を見せ、ため息を吐く。
「ええ。その通りですよ。まあ、茶番であって、茶番ではないのですが」
矛盾の言葉に、さらに理解が出来ずこんがらがる。
「毎月の顧客数、店の評価、売上、その他にも幾つか。それらをこの国のトップに君臨する評議会の評議員によって総合評価され、各分野で評価の高い上位の店がこの国の看板と言える、中央街とそこまでの大通りに出店する事が許されるのです。それは、この国ではとても名誉なことであり、更に優秀な成績を残した者には次期評議員の席が与えられるのです。反対に評価を落とせば当然、先程の事の様に評議員が直々に訪問し立ち退きを命じるんです。そして、その空いた所に、一つ下の評価の者に出店許可が明け渡される。入れ替えが行われるのです。つまり、この国の国民…。主に芸術を含む商売をしている人は、毎日が戦争とも言える競争をしているの。貴方が先ほど言った通り、国の実態を偽りなく見せる為の茶番ですが…、商人達にとっては、いつ己に降りかかるかもしれないという最悪忠告。まだ、見えない手が首に近付き、また掛かっているようなものですよ」
「何というか…厳しい世界ね」
「そう思えるけど、まだマシよ。これは所詮、店舗が移動したというだけ。金が無くなって商売ができ無くなろうとも、人手が足りない店はいくつもあって、そこで雇ってもらえるのだから、頑張りさえすればやり直すチャンスはいくらでもある。あなた達が一応登録しているという冒険者の方が、毎日が命がけの日々。そっちのほうが厳しい世界でしょう」
「…確かに」
「それで。さっきみたいに反抗し、連行された奴はどうなるんだ?」
「まぁ、あの男の人なら数週間から数か月間の刑務作業の後に、釈放され職場を案内されるわ。まあ、それも耐えかねない。更生の余地も無しと判断されれば…。即刻、国外追放とかになるわね」
「随分と優しいな」
「そうね…」
何処か、気の抜けた返事をする彼女をメアが「どうしたの?」と、気になったように見る。
それに頭を撫でて首を振る。
「なんでもないわ」
「もぉ〜。一々、子供扱いしないでよ」
「あはは。ごめんなさいね。まぁ、つまらない話はこのくらいでいいでしょう。もうそろそろ、私達の目的地に着くのだから」
人の群衆は徐々に進み行く足が遅くなって止まり、行列と変わる。
そこは、この街のどこよりも広大な広場。鉄柵に囲われたその先に、噴水庭園とお城の様な摩天楼。山のように巨大な建築物が見える。
「ようこそ御三方。芸術の国、フェルミューズが誇る、世界最大の劇場。アルスリア劇場へ」




