52 事後処理
今日この日。
この地に漂っていた魂や血肉が混ざり合い、あの怪物となった事で、頭の中に感情などといった、たくさんのモノが流れ込んできた。
それはミスティア教の信者達とオルド枢機卿が来日した時と私たちネルモネア家の闇を検挙した時の圧倒的疑心感。
それは王に次ぐ信頼が私たちにあったから、何故私達が死刑にされるのかが疑問となっていた。
だが、それは王の皮を被ったもの達による言葉。皆からすればそれが王の決定である為に逆らえない。
だからただ見ていることしか出来なかった。
そしてその時の彼らのほとんどの気持ちは悔やむ気持ちでいっぱいだった。
それは既に死んでいた王や、王子もその感情の内の一人である。
そしてどうにかしなくてはと動き、それを阻まれ同じように死にゆく人達。
どうしようもなく諦めてしまうも、そのうちもしかしたら助けが来ると生き延びようとしてきたもの達。
それら全ての人達は常に私達を思い悔いるような謝罪を繰り返すのが聞こえてくる。
ああ、なんで私はこの人達のことを信じれなかったのだろうか…。
そんなもう遅い、言葉を真っ暗な闇の中呟くと目の前の闇がひび割れ眩しい光が現れた。
何だろう…そう思い手を伸ばすのだが、その光はとても遠く届きそうにない。
きっと私はその光の方へ行かないと行けないのだろう。そう必死に手を伸ばすのだが、何故か行けそうにない。
まるで身体中に見えないツタや縄が巻きついて逃がさない、離さないとされているように前に進むことが出来ない。
だけど私は混ざった皆のように諦めず伸ばす。
すると、不意に優しく背中を押された気がした。
それだけではなく、その巻きついていた謎の何かが急に消えて、宙に浮くようにその光の方へとゆっくり進んでいく。
一体何が私を押したのだろうか。
進みゆく中後ろを振り返ると、たくさんの凸凹とした影が見えた。
それはよく見ると人影のようで、影なのかそもそも真っ黒なのか、分からない見えない顔なのだが、それらの顔はとても柔らかな顔で送ってくれたのが感じられ、サディアはそのままその暖かい光に包まれていった。
目をゆっくりと開くと空はとても暗かった。
だがそれは先程の真っ黒な闇とは違う。ちゃんとした何かがあるのが分かる。恐らくあれは天井だろう。
体はまだ上手く動かせそうになく、右の方の明かりがある方へゆっくりと目を動かす。
するとそこには誰かがおりサディアの右手を両手で包むようにして握りこちらをじっと見ていた。
いや、誰かではない。この人、彼女は
「リ…ディ…ア…?」
口も上手く動かないがちゃんと呼ぶことができて彼女はそれが確かに聞こえたようで涙がゆっくりと溢れる。
「はい…サディア姉様」
リーディアはその手へゆっくりと祈りを捧げるように顔を埋め泣き出す。
すると不思議と体が癒え軽くなるのを感じサディアは何とか左腕を動かし、慰めるように拙い動きで頭を撫でる。
「感動の再会の所悪いが、いいか?二人とも」
そう聞き覚えのある方に顔を向けるとクロトが座っておりその傍にシルスとメア、そして見覚えはあるけど知らない老人とおじさんがそこに居た。
サディアはリーディアの手を借りながら上半身をゆっくりと起き上がらせる。
「終わったの…?」
「ああ、予定通り全て終わったよ」
「そう…それで何」
「さっさと話を進めたいがその前に代表して二人から伝えたことがあるそうだからな。こちらの話はそれが終わってからでも構わないだろ」
そう言うと二人がクロトたちに頭を下げて、サディア達の方に近づいて深く頭を下げる。
「私達はユーラクストの生き残りである中の代表としてここに来させていただきました」
「そしてそのユーラクストの象徴でもあるネルモネア家である貴方様方を信じることが出来ず、何も出来なく、誠に申し訳ございませんでした」
「そう…二人がユーラクストの代表としてね。別に私はあなた達を責める気は一つもないわよ」
その言葉に二人は驚きと戸惑うように顔を上げてサディアを見る。
「そもそも王様に化けてこの国を滅ぼそうとしてたやつなんだし、私もそこに居るクロトに教えて貰えるまでこんなことになってるのは分からなかった。そう、騙されてた間抜けな一人に過ぎないのにだから」
「そんな間抜けだなんて」
「間抜けよ。だから、私たち皆が悪い。だから誰かが誰かを責める必要なんてないわ。それにそれはもうさっき終わった事。何時までもそんな話してる場合じゃないよ。過ぎたことより今これからのことが大切でしょ」
「は、はい」
彼女のその言葉に二人は再び頭を下げて返事をした。
「貴方もそれでいいわよね。リーディア」
「ええ、もちろんです」
そうにこやかに微笑むその顔を見て安心したようにサディアは頷く。
「それでクロト。今どういう状況なの?」
「とりあえずあんたを触媒に生まれた怪物を倒し結界がなくなって、リーディアが目を覚ました後、ウルクルズロットからの援軍が来て避難民達に食事を支給している最中だ。それでようやくお前が目を覚ましたところだ」
「そう…ありがとうね。いろいろと」
「何も問題ない。それでどうするんだお前はこれから」
「どうするも何も私はこれからは貴方について行くつもりよ。貴方もそれでいいですよねリーディア」
「うん、私は全然いいよ」
「そうか、なら」
「ちょ、ちょっと待ってください」
「なに?」
「ええと、サディア様達とこれから共にするってどういう」
「まぁ、そうだな。魔女と呼ばれる存在をそのまま残していたら、また変な奴がちょっかいを出す可能性があるだろ?それも不死性を持っているのだからな、そこらの貴族が良からぬ輩に依頼してなんとしてでも手に入れようとする奴が居るはずだ。ならここに残しておくより俺たちと行動した方がこの二人にも残った人達の為にもという事だが、この説明の他に何かあるか?」
「いえ、そのような事情であるのであれば…ええその方がいいのかもしれませんね。それに御二方がそう決められたのであれば私達が言うことは何もありません」
「それなら良かった。なら、話を進めるとしようか。来てくれた彼らに納得のいく説明をする為にもな」
メイザスとの戦いを終えた後、結界によって阻まれて待機していたウルクルズロットからの編成された騎士五十人と【ギルド】に共同関係を結んでいる運び屋組織【桃源郷】の三人による満タンに荷物が積み込まれた荷馬車を引いて、中央広場で休んでいたクロトたちの前に現れた。
彼らにユーラクストの国民が非難する西の倉庫の所まで連れていって貰い、騎士たちによって仮設テントが建てられ避難民たちの治療や給食支援などが行われていた。
その間に中であった出来事をウルクルズロットの騎士、桃源郷、ユーラクストの国民から代表を二人ずつ、そしてクロトとシルス、メアによって少し離れた建物の中で説明と話し合いが行われようとしていた時にリーディアが目を覚ましたと聞き話し合いの始まりを止めて彼女らの元へ行き彼女らの安否を確認ができ話し合いに戻る。
まず初めにユーラクストの国民の二人によって事の始まりである二ヶ月前、オルド枢機卿が来てからの事が説明された。
王都の会談、ネルモネア家の摘発、儀式という公開処刑、増える罪人と賊の男達、そして支配された今日までを涙を流しながら事細やかに話していき、これ以上言うことが無いようで黙り込む。
「じゃあ、後は俺達からだな。俺達はウルクルズロットの王、バイロンの依頼でこの国の調査をしに来た。それは聞いているな」
「ええ。そして私達は貴方様からの手紙を受け取ったバイロン様の命によってきましたから」
クロトはバイロンからある魔道具を受け取っていた。それは一度だけ遠距離から魔力文字を送り連絡を行えるというものであり、初日のシルスたちとは別れた後に送り付けていたのだ。
その内容は三十人の給仕、医療を行える騎士の編成とユーラクストの国民に与えられる食料の調達。ただそれだけを知らせており、どういう経緯か分からなかったがその連絡を信じてその翌日にバイロンは直ぐに準備を整えさせて今に至る。保険として更に二十寄越してくれたのはありがたかったな。
「俺達は二人が話していた通り、賊に追われながらもその賊達によるこの国での目的を調べ続けた。シルスとメアはその初日と今日のことしか知らないからその後のことを説明するとするか。
二日目の朝が来る前の深夜、俺は賊達が隠していた地下に潜ってある術式を見つけた」
「術式…領域の作成か」
「ああ、皆が考えていたギルドの職員がやられたという疑問の答え。それは術式内つまりはこの国にいる人間の生命力を魔力に変換させてある印のついた者を強化するというものだ。それにより強靭な肉体と異常な身体能力、回復力を手に入れた訳だな」
それを聞いて対峙した二人は納得し生命力の魔力変換について「なんて非道な」などという者たちと、青ざめる二人。
「だが、ある存在によってそれが書き換えられた」
「ある存在?」
「奴らの作った人工人間の傀儡だ。それの不死性によって国民の生命力の魔力変換が必要なくなった。だから安心していい。あんたらの生命力は対して取られてはいない」
もちろんそんなものは無い。これはサディアのことなのだが彼女のことを知らせる必要はない。下手にこんな話が広まってはならないからだ。それはそこの二人にも事前に話をして合わせてもらうようにしてもらった。
それを聞いてほっとするかと思ったが、そうではなくとても申し訳なさそうな表情なる。
「次に、各地で行われた見せしめだ」
「見せしめってなに…」
聞いていないとメアが問う。
「初日に騒動を起こした俺たちを探し出すために、建物で隠れていた奴らを引きずり出して嬲り殺したんだよ。各地約十人。約六、七十人くらいか」
「なっ…」
淡々と話すクロトに対して二人は顔を抑え青ざめる。それもそうだろうな、話の流れからすれば俺たちの行いによって殺された。つまり俺達が殺したも同然だと思ってしまうのも仕方ない。二人からすればそのことだけでなく聞いてるやつからの見てくる目もつらいだろうな。
「二人共気にするな。俺たちが何もしなくても、どうせここにいた人間はいつか全員死んでいたんだからな。それにそちらの二人もこちらを悪くいうつもりは無いだろうこれまで外からの来訪者を見捨ててきたのだから」
「ええ、その通りです。私たちは我が身可愛さに現状の悪化を避ける為に目を背け続けましたからああなってしまったのも神罰と受け入れる他ありません。私達には今回の事を終わらせられることが出来ませんでし、罪を背負いし私たちが口出しすることはありません」
そう答えてくれるも後ろの二人は残るものはあり、自分の拳を力強く握りしめる。
「その後は賊どもの見回りが激しかったからな、身を隠して夜になるのを待った。その後は執行官達が住まう監獄内に入り込んでサディアと会話をした。彼女の協力を得るためにな。そして今日の深夜、地下の術式を改造し儀式を迎えた。いつも通りその傀儡と六人が焼かれ死に儀式を終えそれが起こった。その前にこの騒動の犯人を出しとくか」
そうクロトが言うと二人の影が後方から何かをもって歩いてくる。
それはイブとノアであり手に持つそれとは全身がただれ、四肢の付け根まで失った三人の姿だった。
その三人は息はしているものの意識いや、意志、自我が無く壊れているようだった。
「こいつらが二ヶ月前に現れたオルド枢機卿とその対談の後に現れたこの国の王サン・ヴォルドの正体だ」
王の正体…?
聞いていた者たち皆がそうつぶやいた。
「察した通り、この国の王は二ヶ月前のその対談の時にもう殺されている」
「で、ですが私達の前で話していたのは確かに王の声でした」
「こいつらの魔法は生きていた人間の皮を被り声帯を盗み化ける魔法だ。そういえば納得できるか?」
「そうなると、サロワは」
「サロワも既に死んでいてその皮を被った奴がオルド枢機卿だ」
「だが、彼らの目的は一体」
「俺がこいつから聞いたのは先祖の宿命だそうだ。ユーラクストができる前の国と部族の争い、その族長の末裔がこいつらってことだ。そしてそれがこの国を亡ぼすこと。こいつらは数年前から念入りに計画を進めてきた。まあ三人のうちの一人の目的はリーディアに一目ぼれして攫うといったものだがな」
「だから、村で姿を暗ませていたの…だけどそれなら何ですぐに連れていかなかったの?」
「それが奴らにとっての大誤算であることだ。この地にあるペイテル・ユーラクストの奇跡というものか。傀儡と同化させられたサディアがリーディアを守るためにその三人に呪いを掛けたんだ。リーディアに触れることのできない呪いを」
「話を戻すと、奴らはその呪いを解くためにサディアの体内に術式を組み込んだ。儀式をするたびにその呪いを薄れさせ消すものと、だが、サディアはそれと地下にある術式を逆に利用し死霊魔術を使った。死んだ肉塊と泥により肉体を作り、この地に漂う魂たちに協力を願い結界をはり、この国民を守るために賊を全滅させた。それはそこの二人は何となく分かっているはずだ」
そう言ってユーラクストの二人を見る。
「は、はい。確かに私達の前に現れたゾンビ達は皆、儀式で処刑をされた人たちの姿をしていて、私達を襲うことなどなく。守る、守らないと。そうつぶやいていました」
「そうして役目を終えたゾンビ達はもう一つの術式に利用された」
「もう一つ?」
「いわゆる魔神の召喚だ」
―――!?
それを聞いて騎士と運び屋達が立ち上がる。
「あ、あり得ない魔神の召喚なんて」
「そうだ、確かにこの国の惨状を見た時は何事かと思ったが…それでも」
そう慌てるように口を開く。
「ありえなくはない…そう思う」
そう言ったのはユーラクストの代表の老人だった。
「あの時現れたその化物は昔対峙したヌメラトゥラスにそっくりな雰囲気があった」
対峙したという事は元冒険者かなにかか。だがこの人の発言のお陰で信憑性は増したな。
「だが、それは不十分な召喚で暫く暴れた後、魔力を使い果たした姿を消した。それがここまでの話だ」
――!
その魔神をたった七人で倒したなんて通じる訳ない。ならこうしておく方が話がスムーズに進む。
それを聞いて皆も納得できているそうだし、何より俺がさっさと話を終わらせたいからな。
「そうですか…」
そう言ってウルクルズロットの騎士二人は国民の二人に向いて深々と頭を下げた。
「友好関係を結んでいる国の騎士でありながら、この異常事態に気が付くことができず何もできなかった事、誠に申し訳ありません」
「い、いえ気にしないでください」
「そうです、これは元々我々の国が何とかしなんといかんかったこと。そんなことよりも」
その二人がクロトたちに向かって深く頭を下げた。
「我々の避難、安全の確保。さらに魔神から我々を守ってくれたこと。本当に感謝いたします」
「気にしないでくれ。俺達はやるべきことをやったに過ぎないからな」
そうして話が進みまとまっていき、あとは彼らによる話し合いとなる。
それはこれからの国民達がどうするかということ。
彼らはもう暫くここで生活をした後、運び屋の協力を得て生き残った者達をウルクルズロットで引き取る流れとなった。
残った国はあとで少しずつどうにかしていくそうだ。
そして今回話したことはバイロン以外へは口外しないことを約束してもらった。
「さて、話し終わったところでなんだが。こいつらをどうするかだが」
そう言って国民の二人を見る。
「ワシらにとってそれは恨みの元凶。だが、その姿を皆に見せるわけにもいかん。じゃから処分はあなた方に頼みたい」
「そうか…分かった。こちらで何とかしておく」
「何から何まで、本当に申し訳ない」
「気にしないでくれ」
こうして話し合いを終えて五人は皆が休む部屋へと戻る。
すでに時間は夜となり部屋を照らす明は抜け崩れた大きな穴から差し込む月明かりであり。
クロトとノアを囲うように治療を終え皆が見ていた。
「さて、説明してくれるのよね。クロ」
「一体ノアは何者なのですか」
「それについてはもう話せるよな。ノア」
「うん」
そういってノアがクロトの前に立つ。
「私はある実験によって生み出された人間ではない何か。
そして私にはある記憶がある。それはゴブリンの依頼で殺され実験に使われた【紫百合の園】のメンバーである四人の記憶。だから私とクロはその四人の誰かの生まれ変わりかと思った。だけど、やっと全てを思い出して自分が何者であるか分かった。
私はその四人の誰でもない、四人が混ぜられて生まれた何かで、その四人の子供であるのだと。だから私はその四人の仇であるそこの二人を倒し、そして助けてくれたクロの役に立つために私は人であり”化物”になった」
そう言うとノアの右半分の頭が、あの時見た異形のモノへと変化した。
「そう、それで貴方はこれからどうするつもりなの」
「私は先も言ったようにクロの為に、皆さんの為に役立つようについて行きたい…」
「はぁ~。そんなのだめに決まってるじゃない」
「そ、そうですよね…。こんな私をそんな簡単に受け入れられるわけ…」
拒絶されたような言葉にノアはそう暗く答えて俯く。
「そうじゃないわよ」
「えっ?」
それを聞いてゆっくりノアが顔を上げてメアを見た。
「クロの為とか私達の為じゃない、貴方はあなたの為に化物ではなく一人の人として生きていきなさいよ。あなたの為に私達を手助けして、あなた自身の為に私達に助けを求めなさい。だって私達はもう共に戦い生きていく仲間なんだから。ね」
そう言ってメアが手を差し出す。
ノアは戸惑いながらに周りの皆の顔を見て、両手でそれを握りそして涙を流す。
「はい…。よろしくお願いします」
そう答えると、嬉しそうにサナがノアの名前を呼びながら抱きついた。
「全く、仲良くしようとするの下手ですか貴方は」
「しょ、しょうがないじゃない…こういうの初めてなのですから」
そう言ってメアとシルスはいつも通り軽く小突き合い、皆で軽い歓迎会の様な会話をしながらその夜を終えた。
珍しく酒を飲み、疲れで皆が眠っている中、クロトとノアが少し離れた建物の中へ入る。そこには先のダルマとなった三人が並べられていた。
「流石にあいつらにこいつらを処分させることはさせたくないからな。いいか?ノア」
「うん、任せて」
そう言うとノアは頭を完全に異形のそれと変える。そしてその三人に近づいて大きく開かれたその口一人、また一人、そして最後とかみ砕き飲み込んでいった。
「悪いなこんなことさせてしまって」
「ううん。謝らないで、むしろうれしいの」
「嬉しい?」
「うん。だってこんなにも美味しいもの食べさせてくれるのだから」
そう元の顔となったノアが満面の笑みを浮かべてクロトを見る。
「そうか…」
「どうしたの?」
少し暗い反応をしたクロトにノアは不思議に思い下から覗き込む。
「いや、何でもない。お気に召したようでよかったよ」
「うん」
処理を終え、二人は皆の元へ戻り、ようやくユーラクストでの長い一日を終える。




