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柳十兵衛 本庄へと向かう 2

「では一刻後、平尾にて」

「承知致しました」

 十兵衛と平左衛門は今日のうちに江戸を発つことに決めた。ただ平左衛門は旅の荷物を取りに戻る必要があるため、二人は一刻後に平尾(現在の東京都板橋区付近)にて合流することにして一度別れる。柳生屋敷の門を出て通りの角を曲がったところで平左衛門は袴の裾を上げて自宅へと走り出した。

 しばらくして平左衛門は酒井忠勝の屋敷の門をくぐった。忠勝の屋敷内にある長屋の一室が平左衛門の住居であったためだ。自室に戻る平左衛門。室内には最小限の日用品と仕事用具しかなかった。これは平左衛門が忠勝の命を受けてしょっちゅう地方に飛んでいたためであった。

(思えば今回も一月も留まらなかったな。次に帰ってくるのはいつごろか。十日程度で帰ってこれたらいい方だろうかな)

 唐突な遠出の任務。だがそれももう慣れたこと。平左衛門はさっさと旅の仕度を整え奉公人に早速本庄へ行く旨を伝えて返す刀で屋敷を出た。まず目指す先は合流場所の平尾の一里塚。軽やかに駆けながら平左衛門は(着くのは九つ(正午)の鐘が鳴る前あたりかな?)と心内で呟いた。


 今回の目的地・武蔵国本庄は木曾路、現代で言う中山道上にある宿場町である。位置は江戸日本橋より二十二里、90km弱のところにあり徒歩なら二日から三日かかる距離である。

 平左衛門は今回普通の旅人のように中山道を上り、途中一泊して本庄へと向かう計画を立てていた。平左衛門自身は少し無理をすれば一日でたどり着くこともできたが目的はあくまで調査であり、また共に行く十兵衛の実力もまだ把握していない。なら変に無理をする計画など立てない方がいいだろうとの判断だった。

 合流場所とした平尾の一里塚もこの中山道上に置かれた一里塚の一つであった。場所は現在の東京都板橋区付近で江戸日本橋からは二里のところ。当時のこの辺りは武蔵国と江戸との境界周辺であったため多くの人が本格的な中山道入り口の目印としてきた。待ち合わせにはちょうどいい場所である。そこに平左衛門が予想通り九つの鐘が鳴る前にたどり着く。

(ふぅ。さて、十兵衛殿は来ているかな)

 平左衛門は軽く周囲を見渡す。あるいは早くに来すぎたためにまだ着いていないのではないかとも思ったが、すぐにその姿を見つけることができた。

 十兵衛はギリギリ往来の邪魔にならない所に立って待っていた。そして遠くからでも見てもわかるくらいに肩に力が入っていた。十兵衛は身の丈六尺弱(180cm弱)の二本差し。そんな青年がいかつい顔をして往来の端に立っている。その威圧感を恐れて道行く人たちは十兵衛から距離を取り縮こまって通っているのだが、どうも本人はそれにすら気付いていない。平左衛門は苦笑しながら十兵衛に歩み寄った。

「待たせましたかな、十兵衛殿」

「平左衛門様!いえ、これは私が早くに来すぎていただけにございます。……いかがなさいますか?行きまするか?」

 ずいと詰め寄る十兵衛。気概があるのは結構だがこれでは本庄に着く前にばててしまうことだろう。平左衛門は十兵衛を落ち着かせる。

「まあまあ、とりあえず肩の力を抜きなさい。まだ本庄にたどり着いてすらいないんですから、そんな調子だと途中で精根が尽きてしまいますよ」

「そんなことは!……いえ、そうですね。少し力んでいたかもしれませぬ。失礼しました」

 かしこまる十兵衛。まだ若干鼻息は荒いが初陣前の若侍と考えれば致し方ないことだろう。

(これはさっさと出発した方がいいかもな。体を動かせば気分も落ち着くだろう)

「それでは行きましょうか、十兵衛殿。遅い出立故に何処で宿を取るかはわかりませぬが、まぁ行けるところまで行ってみましょうか」

 出立を告げると十兵衛は青年らしい快活な声で「承知!」と答え、そして平左衛門と共に平尾からの一歩を踏み出した。

 こうして怪異改め方・柳十兵衛の旅路が始まるのであった。

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