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君こそ勇者にふさわしい  作者: 十三不塔
第一章 始まりの平原
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第二話 この世界のこと


僕を救ってくれた男はエドと名乗った。

なぜ僕が勇者だとわかるのかと聞くと服装とあとぼんやりと感覚的にわかるらしい。僕が感謝を告げ経緯を話すと街の近くまで送ってくれるらしい。靴を履いていないことをエドさんに指摘され川辺にある事を伝えると一緒についてきてくれるそうなのでそれに甘える。エドさんを前に先ほどの恐竜がなぎ倒した木々をたどっていく。その道中エドさんからこの世界の事、そして勇者について教えてもらった。端的に言えばこの世界は現在、悪魔や魔獣と人類が覇権をかけて争っており人類側は勇者と呼ばれる存在を『勇者システム』とやらを用いて世界各地から果ては異世界までに手を伸ばしこの世界に呼び寄せるらしい。

「多分君もそれに喚ばれたんだろう」とエドさんはいった。『君も』といったように勇者は一人だけではない。エドさんもまた勇者の一人だ、どうも人類側には現役で五千人に近い数の勇者が存在しているようだ。それほどの数がいるのならだいぶん有利に立っているのだろうと思いきやそうではないらしい…。先ほどの恐竜クラスは一般人はおろか並みの勇者では太刀打ちができず「数は多いが一定レベルの敵になると対処できる勇者が限られてくるのが問題」というのが人類側の現状となっているみたいだ。おそらくだがエドさんは相当強い部類に入るのだろう。しかし聞くところによると異世界出身の勇者は身体、魔力共に高水準の者が多い傾向にあり待遇が非常にいいらしい。そして異世界からの勇者は必ず『導きの草原』…僕のいたあの広い草原に立っているのがお決まりらしい。エドさんが僕を勇者だろうと確信を得た理由でもあるみたいだ。最初は服装も相まってエドさんも僕と同じ世界から来た勇者なのかと思ったがただ単純に黒いパーカーがお気に入りらしい。本人曰く、動きやすくて汚れも目立たないからちょうどいいとのこと。こんなやり取りからわかる通りエドさんは質問や疑問にも聞けば言葉数は少ないがしっかり返してくれる優しい性格である事が伺える。

「ちなみにエドさんって何歳ですか?」非常に若く見える彼の年齢が気になり質問をする。エドさんは立ち止まり少し考えたそぶりをして答える。

「異世界の人たちは年齢をよく気にするね。少し待って…聖剣起動、生体確認」

唖然とする。僕が森を歩いていて失敗し大恥をかいたソレをエドさんはこともなげにやって見せた。エドさんは空中に浮かんだ文字盤を触り確認すると端的に答える。

「二十と二歳、どうしたの?」

呆けた僕の顔を見て訝しげに返すエドさん。

「え、いやそれ」

「ん?あぁ…初めて見るのか。君もできるよ、多分」

二十二歳である事にも驚いたがそれを見てしまうとどうしても気持ちが揺れてしまいそわそわしてしまう。するとすべてを察したエドさんが説明をしてくれる。どうやら聖剣とやらを出して呼びかければ応えてくれるらしい。そしてその聖剣はどこにあるのかというとまだ解析はされていないが勇者一人につき一振りを世界から与えられるようで僕もすでに持っているという。

「口下手だからうまく伝えられるかわからないけど…」

と言いつつもエドさんは丁寧に教えてくれる。

「鳩尾あたりを意識して力が沸いてきたと思ったらその力を指先に回すんだ」

なんとなく座禅のような要領で目をつぶりみぞおち辺りを意識する。少し暖かい感覚を覚えるもうまく動かすことができない。少しの間苦戦していると見兼ねたエドさんが僕の背中に回り手を当てる。すると手の置かれた背中の中心から先ほど感じた暖かいモヤが爆発的に広がる。

「これが魔力ですか?」

目をつぶりながら聞くとエドさんが

「ちがう、氣」と答え「そのまま動かすことだけ考えて」という

言われた通りに指先に暖かい『氣』と呼ばれたものを昇らせる。

しばらくすると指先に重くのしかかる感覚があり思わず目を開ける。そこには大きな長い刀が手に置かれていた。太刀拵えというのだろうか見事な装飾がなされている。柄は黒と紺を基調とし綺麗な藍一色の鞘は凛々しく太陽の下で陽を浴びて輝いている。

「これが、聖剣…」

聖剣というのだから西洋風の直剣をイメージしていたのだがこれはこれでかっこいい…むしろ好みだ。

自分だけの聖剣に感動し見とれているとエドさんから声がかかる。

「まだ時間があるとはいえ陽が落ちる前に靴を回収したい。見とれるのもいいけどそっちが優先だよ」

「はい!すいません、助けてもらった挙句こんなこと頼んで…」

そうだ、あまりの嬉しさに靴の事を忘れていた。時間をとらせたことを申し訳なく思いエドさんに頭を下げる。

「いや、いいよ。ハヤト…異世界出身の友達もそうだったから。多分、気が合うんじゃないかな。君と同じで首にシルクのヒモを巻いてたし同郷だと思う」

シルクのヒモってもしかしてネクタイの事だろうか…ネクタイは全世界の人々がつけているし発祥はヨーロッパだ。ここら辺はパーカーと違い伝わってないのだろうか、はたまたエドさんが興味ないだけか…。しかし、ハヤトという響きからして日本人だろうとあたりをつける。覚えておこう。

そんなこんなで大太刀を片手に先ほどいた渓流にたどり着く。刀は『氣』を送り続けなければ消えてしまうという事でもないようでしっかりと実体をもって僕に握られていた。

靴は恐竜の走ったしぶきのせいで少し濡れていたが気にするほどの事でもない、大太刀を置き足を洗って水を飲んだ後に靴下と一緒に履きなおした。エドさんも水を飲んでいたようで口元が少し濡れている。

「じゃあ行こうか。途中までになるけど安全な場所まで」

「はい!助かります。またいろいろ聞いてもいいですか?この刀のこととか…」

「うん、いいよ」

少しだけ、少しだけこの世界にいたいと思った。

聖剣もこの世界の事もまだあまりわからないけど、ほんのちょっぴりこの世界を見てみたい。そんな希望をもって僕はエドさんの背中を追う。



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