akira
この話を読む前に黒い翼の天使を読んでください
これは、ユリナのかけがえのない親友、秋羅の物語である。
秋羅の初恋は中1の時だった。
相手は一つ上の先輩。
入学したての幼い秋羅の目には凄くオトナに見えた。初恋だったから、本当に先輩を思っていたのかは解らない。
しかし、その当時秋羅はそれを初恋だと信じて疑わなかった。
だから秋羅は純粋に先輩にアプローチを続けた。それはとても楽しい事だった。けれど。
その恋は叶わなかった。
先輩の目の前に秋羅も可愛いと認める女の子が現れた途端、秋羅はあっさりと切り捨てられた。
とても悲しくて、暫く立ち直れなかった。
でも、秋羅は落ち込むだけ落ち込んであくる日にはケロリと笑って見せた。
強かったんじゃない、隠していたのだ。
その頃だった、不治の病と闘う少女ユリナと出会ったのは。
秋羅は学級委員をしていた。秋羅は見た目にそぐわぬしっかり者で、勉強もまあまあだというのが選ばれた理由だった。
大分中学校生活にも慣れはじめた頃、秋羅は教師に呼び出された。
そこで秋羅はユリナの事を知る。
「今このクラスは28人でしょう。でもね、本当は29人なのよ。」
「え?」
中学校に通い始めてそろそろ一ヶ月になる。しかし、秋羅のクラスは入学した時からずっと28人だった。
「崎田ユリナちゃんっていうんだけどね、治ることの無い病気でずっと入院してるのよ。今度お見舞いに行ってあげてくれない?市立病院なんだけど」
秋羅ははっきり言って面倒臭かった。
だってそうじゃない、顔も知らないクラスメイトの為に少ない放課後を割いて市立病院にまで行かなければならないの?
だけど教師にそう言う訳にも行かず、渋々放課後市立病院へ向かった。ナースステーションで崎田ユリナの病室の場所を聞き、教えられた番号の病室に向かってドアを開けた。個室だった。
ドアを開けると白いシーツの掛かったベッドに、上半身を起こして座っていた。秋羅は驚いた。
そのユリナらしき少女の顔が余りにも青白かったから。
「あ、あなたがクラス代表でお見舞いに来てくれた人?初めまして、崎田ユリナです」
声もか細かった。
「あ……中田秋羅です」
でも顔はニコニコとしていて元気そうだ。
クラス全員でお金を出して買った質素な花束を花瓶に活ける。
それからクラスであったことを報告した。
ユリナは凄く喜んでまた来てほしいと言った。
秋羅もユリナが気に入ってまた来る事を約束した。
その日から秋羅の病院通いが始まった。
時が経つにつれ、秋羅の男好きは輪を掛けて激しくなってきた。
ユリナとも打ち解けて充実した毎日を送っていた。
そんなある日ユリナが
「秋羅…恋って何?」
と聞いてきた。
秋羅にも解らない。
でも、何とか教えてあげたかったから、何かの漫画の台詞をそのまんま言った。ユリナは心底感動したようだった。
秋羅の心が少し痛んだ。
でも、その傷をからかいというベールで覆った。
ユリナが真っ赤になって否定するのを見ている内にそんな小さな傷は塞がった。鯛焼きを食べながら話しているとき、急にユリナが意識を失った。
秋羅は驚いて、ナースコールを押した。
手術の成功率は10%だって…。
ユリナの母が泣きながら秋羅に告げた。
秋羅の目の前が真っ暗になった。
10%…
成功率はかなり低い。
ユリナが死んじゃう?
嫌だ。
助けて。
神様、ユリナを助けて!
手術中のランプが消えた。ストレッチャーに乗せられたユリナが手術室から出て来た。
「ユリナ!」
ユリナの母と秋羅が同時にユリナに駆け寄る。
どうやら手術は無事に成功したらしい。
泣きわめいているユリナの母は気付いていないが、良く見るとユリナの髪にカラスの羽根のような物が絡み付いている。
秋羅はそれをそっと髪から外し、廊下のごみ箱に捨てた。
そしてユリナが乗ったストレッチャーと同じスピードで歩き出した。