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第八話 噂のフード

「ら、ライカさん! この毛皮は?」

「《バーサクモンキー》の毛皮だよ」

「バーサクモンキー!? それって、あの《ダークモンキー》の上位種と言われてる?」

「うん。夜の狩りで遭遇してね。朝食を食べたら換金するつもりだよ。この魔石と一緒にね」


 僕の泊まっている部屋で一緒に朝食をとりながら、夜の狩りで取ったものを自慢していた。

 ミィヤの反応は見てて飽きないし、可愛い。

 それにしても、よく食べる。ベーコンも厚切りでかつ二枚。目玉焼きも三つで、サラダも山盛りだ。ドワーフはよく食べ、よく飲むと聞いていたけど、予想以上の食欲だ。


「ほわぁ……お強いとは理解していましたけど、《バーサクモンキー》をお一人で倒すなんて!」

(それより強い魔物を倒してるんだけどね)


 それから楽しい朝食は続く。

 そして、朝食後の軽いティータイムを嗜んでいる時だった。なにやら、ミィヤが僕のことをじっと見詰めていたのに気づく。


「どうかした? ミィヤ」

「あっ! す、すみません! じっと見ちゃって……」

「別にいいよ。僕の顔になにかついてたの?」


 口元に食べかすがつかないようにしていたはずなんだけど。


「えっと、昨日はずっとフードを被っていたので」

「そういえばそうだったね。ごめんね? フードを被っていたのにも事情があったからなんだ」


 なんだか秘密ばっかりの雇い主で申し訳ない。


「いえ、お気になさらず! それに、こんなに優しくて綺麗な人が悪い人なわけがありません!!」

「え? 綺麗?」


 ミィヤの言葉に、僕は部屋に置いてある鏡に視線をやる。あまり気にしてなかったけど、確かに綺麗っていうか、まあ可愛い部類に入る容姿かな? 正直自分のことだからあまり言いたくないんだけど。


「はい! なのでつい見惚れていました!! その白い肌、銀色の髪の毛……フードを被っていたのも頷けます!!」

「あはは、ありがとう。でも、それを言うならミィヤも可愛いと思うよ?」

「えぇ!? わわわ私なんて、力持ちのがさつもので! 可愛いなんて言われるような存在じゃ! ライカさんに比べたら全然敵いませんよ!!」

 

 そこまで言うか? 僕から見たらミィヤは十分美少女だと思うんだけど。照れてる姿なんて可愛い以外の言葉が出てこない。

 それにね、ミィヤ。君は、僕に敵わないって言ってるけど、圧倒的に勝っている部分があるじゃないか。服の上からでもわかるその大きな胸が。


 僕なんてないというわけじゃないけど小さい。小ぶりというか、掌サイズと言ったところか。

 元の姿があまり筋肉質じゃないからなのか? まあ、あっても邪魔になりそうだし、これで良いんだろうけど。正直全然気にならないし。


「あんまり自分を卑下しちゃだめだよ? ミィヤはとてもいい子なんだら」

「は、恥ずかしいのであまり褒めないでくださいぃ……!!」


 褒め慣れていないのかな? そう思えるほどの照れ具合だった。



・・・・・



「おぉ……! こ、これは《バーサクモンキー》の魔石ですか!?」

「はい。昨夜偶然遭遇したので」


 宿から出た僕達は、ハーバにある換金屋へと訪れていた。ギルドにも換金するところはあるが、冒険者登録していないものは利用できない決まりになっている。

 なので、それ以外の者達が換金できるような施設があるのだ。


「これは素晴らしい……《バーサクモンキー》の魔石など滅多に見られないというのに。お一人で倒したのですか?」


 興奮気味の鑑定士のお爺さんが問いかけてくるので、僕はちょっと考えた後で、首を縦に振る。


「先日の魔石もそうでしたが、あなたほどの実力者ならもっと噂になっているはず。冒険者ではないのですかな?」


 鑑定士のお爺さんも、僕がここに来ていることから訳ありなんだと察しているようだ。


「冒険者ではあるんですが、今は訳あってお休み中と言ったところかです」

「……なるほど。わかりました。では、今後はご贔屓に。とはいえ、あまり高価なものを持ってこられても換金できない場合がありますので」

「その辺は大丈夫だと思います。しばらくは換金しに来ないと思いますので」

「確かに、昨日の換金分を合わせるとしばらくは働かなくても大丈夫そうですからね」


 換金を終えた僕は、店の中で待っていたミィヤと共に出ていく。


「今日はちょっと遠出をしようと思うから、食器や食材を十分に買っておこうか」

「ということは、昼食は自炊ですね! お任せください! 料理は得意ですから!!」


 聞いた話によるとミィヤは、一人で生きていけるように色々と覚えようと努力していたそうだ。そのため、料理、裁縫、掃除、なんでもごされというスペックを持っているようだ。

 ますます僕と重ねてしまう。僕もじいちゃんが死んでからは、生きていくために色々と努力してきたからな……。


「それは楽しみだ。じゃあさっそく」

「ど、どうしたんですか?」

「なにかご用ですか?」


 気分がよかったのに、こそこそとつけている者の気配を感じた僕は、ミィヤを下がらせながら物陰を睨む。

 数十秒ほど経つと、観念したのか追跡者が姿を現す。


「ちっ、よく気づいたな。フード野郎」


 現れたのは、見知った顔だった。見知ったといっても顔を知っているだけで、喋ったことはない。

 冒険者だ。確かランクはDで、槍使いだったかな。名前は覚えてない。よく仲間達と昼間から酒を飲んでいるような大人だ。新人だった僕をよくからかったりもしてた。


「や、野郎って、ライカさんは」

「待ってミィヤ。僕が対処するから」


 どうやら僕のことを知っているようだけど、情報不足ってところかな。けど、明確な敵意を感じる。

 

「それで? もう一度聞きますが、僕に何かご用ですか?」

「まず確認だ。てめぇか? ダンジョンボスを最初に倒したフード野郎ってのは?」


 何となく想像できていたけど、あの三人の差し金みたいだな。確か、この男はマリアンにひどくご執心だったような気がする。


「何のことですか?」

「とぼけんじゃねぇよ。俺は見たぜ。てめぇがさっき換金屋で《バーサクモンキー》の魔石を換金してたのをよぉ!」

「それとさっきの話にどんな関係があるんですか?」

「まだしらを切るつもりか。《バーサクモンキー》ほどの魔物を単騎で討伐する腕を持つならダンジョンボスも倒せるだろうって話だよ!!」


 めんどくさいことになった。もしかして、自分達より先に倒した謎のフードを見つけ出して連れてこいとでも言われたのだろうか。

 あの三人のことだ。

 せっかく自分達が最初にダンジョンボスを倒して、自慢しようとしてたのに! みたいな理由なんだろうな。


「もし仮に僕がそのフード野郎だったとしたら……あなたはどうするつもりですか?」


 早く食器や食材を買って、街の外へミィヤと二人で出掛けたいのに。これ以上時間をかけられない。


「大人しく俺についてこい」

「ダンジョンボスや《バーサクモンキー》を一人で倒すほどの相手が、素直に言うことを聞くと思いますか?」


 まあ、この後どうなるか予想できるけど、あえて聞いてみる。


「俺も馬鹿じゃねぇ。化け物相手に一人で来ると思ったか?」

「化け物って……ひどいです!」


 ありがとうミィヤ。君のその優しさだけで僕は救われる。そう、僕を狙っているのは一人じゃない。

 すでに〈生命探知〉で人数を確認済みだ。軽く二十人は居るな。まったく朝からよく働く……このやる気をもっと冒険者家業のほうに出してくれないのかな? この人達。


 じいちゃんはよく言っていた。人をだめにするのは、金、酒、女の三つだって。

 まさにその通りだよ、じいちゃん。こいつらは、酒と女に溺れてだめになっている。


「連れてきた仲間はどいつも血に飢えている奴らばかりだ」

「つまり街内で抜刀すると?」

「もちろんだ。だが、てめぇが大人しくついて来れば俺達も武器は抜かねぇよ」


 街内での抜刀行為は禁じられている。もちろんスキルを使用し、相手を傷つける行為もだ。

 ただし、スキルで傷つけなければ良いのだ。

 なので、僕は。


「さあ? どうする?」

「当然」

「ひゃっ!?」


 ミィヤを抱き寄せ、スキル〈シャドウゲート〉を使用し、遠くへと逃げることにした。


「なっ!? てめぇ!? 待ちやがれ!!」

「次狙ってきたら……容赦しないよ」


 最後に警告をして、僕達は闇へと溶けていく。

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