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第七話 夜通しで

 ドワーフ族の女の子ミィヤを荷物持ちとして雇ったその日の夜。

 泊まる宿は、僕が泊まっている宿屋を指定した。

 今までは、宿にすらとまれなかったらしくかなり喜んでいたな。代金は当然今日働いた分で事足りる。


 アスヤという宿の店主さんは、じいちゃんからお世話になった一人で冒険者としてあまり稼げていない僕によくしてくれた優しい人だ。

 種族差別もないので、ミィヤでも安心して泊まれるはずだ。

 とはいえ、心配なので金の玉達に護衛を続けさせている。

 

「……ダッドおじさん。ちょっと表情が沈んでたな」


 灯りがまだ見える距離から、僕はハーバの街を見詰める。

 どうやら徐々に僕がダンジョンで死んだであろうという噂話が広まっているようだ。

 宿屋のおじさんの場合は、いつもの時間になっても戻ってこないため心配しているのかもだけど。おじさんはひどく心配性なんだ。依頼でちょっと遅くなった時だって、街中を走り回っていたそうだし……じいちゃんに僕のことを頼まれたってこともあるだろうけど、あれはほぼ性格かな?


 そんなおじさんが、僕が死んだなんて本格的に知ったら……だめだだめだ! 決めたじゃないか。

 あの最低な三人から逃れるために、死んだことにしようって。

 気持ちを切り替えるんだ。


「さあ、夜の魔物狩りだ」


 街から目をそらし、僕は暗闇へと進んでいく。

 この体は本当に疲れない。

 元々の体だったら、夜はぐっすりだ。それに、夜に街の外へ行くのは危険な行為だ。


 夜は魔物が活発化するうえに、視界が悪いため灯りなしじゃ思うように戦えない。

 なので、好き好んで夜に魔物を倒しに行こうなんて思う人は、余程の実力者だけだろう。じゃあ、僕は? 今の自分の力に溺れている? 違う。溺れないように、より多く戦い力の制御をするんだ。

 これからはこの姿で生きていくことが多いだろうし。


「まずは視界を……〈夜目〉」


 闇属性のスキルで、暗いところでも朝と変わらないぐらいに見えるようになる。

 これで、安心して戦える。


「そして〈生命探知〉」


 やっぱり魔物が僕のことを狙っているみたいだ。数は三。どうやら《ダークモンキー》みたいだ。《ダークモンキー》は、明るい時間帯は、洞窟や木の影といった暗い場所に身を潜めている。そして、夜になると動きだす。


 つまり夜型の魔物だ。

 そのため《ダークモンキー》の魔石や素材はとても高値で買い取られる。《ダークモンキー》は夜に動く魔物ゆえに戦闘力が異常に高い。視界が悪いということもあり、苦戦を強いられる。

 今、《ダークモンキー》は僕をどう殺そうか考えているのだろう。知能も人並みにあるから本当に厄介だ。


「けど」


 相手はこっちが先制してくると思っていない。しかも、自分達が認識されているなんて考えもしないだろう。

 一方的な虐殺だと。


(〈シャドウゲート〉)


 闇属性スキル〈シャドウゲート〉は、暗闇を相手に気づかれず移動するスキルだ。

 これを使うことで、一瞬で相手の背後などに回り込むことができる。《ダークモンキー》は気づいていない。そこへ僕は背後からナイフを振り下ろす。


「まず一体」


 声すらあげることもできず《ダークモンキー》はマナへと還った。


「二、三……完全に暗殺者だね、僕って」


 あの《ダークモンキー》に気づかれずに三体も倒すなんて。それから、僕は魔石や素材を回収し、夜の森を駆ける。

 昼間は雷。夜は闇属性のスキルを使ったけど、この体での戦闘はどれだけ攻撃を受けないかが重要みたいだ。


「大分倒したな……そろそろ日も昇る頃だろうし、さすがに戻ろうかな」


 もしかしたら、ミィヤが朝早く起きて僕の部屋に来るかもしれない。その時に居ないんじゃミィヤも困るだろうし。


「ん?」


 街に戻ろうとした時だった。〈生命探知〉に大きな反応が。この大きさ、この辺りで出現する魔物っていえば。


「《バーサクモンキー》か……」


 帰路につこうとした僕の前に現れたのは、巨大な魔物。雲が晴れ、月明かりにその姿が照らされた。

 僕がこれまで倒した《ダークモンキー》の上位種にあたる魔物だ。レベルは……三十二か。ダンジョンで戦った《バーンブレードウルフ》が確か五十だったから、低いと言えば低いけど、この辺りの魔物だと一番高い部類に入る。


 隆々とした筋肉。

 逆立つ漆黒の毛。細長い二本の尻尾。本来ならパーティーを組んで戦っても苦戦するような相手だ。


「とっ。噂通りの暴れっぷりだ」


 その攻撃性はまさに狂暴。

 味方、敵関係なく攻撃をする。丸太のように太い腕から繰り出される一撃で、地面が抉れ、周囲の木々が折られている。


 《ダークモンキー》の進化は二パターン。

 まず、より攻撃性が増す《バーサクモンキー》に、より隠密性が増す《スレイモンキー》だ。

 今、目の前に居る《バーサクモンキー》よりも《スレイモンキー》は体が細く身軽で、統率性もある。進化が分岐するという魔物でも珍しいタイプだ。


「当たったらさすがにオールSでも痛いかな?」


 気になるけど、時間はかけられない。それに僕の戦闘スタイルは、どれだけ攻撃が当たらないか。

 かつ、迅速な撃退。


「せっかく出てきてくれたところ悪いんだけど……」


 何度か攻撃を回避し、右腕が地面に叩き込まれたのを見て軽くナイフを振るう。

 

「グギャアッ!?」


 あっさり腕を両断された《バーサクモンキー》は、悲痛な叫びをあげる。そのまま僕は一気に距離を詰め、スキルを発動される。


「〈ダークスラッシュ〉」


 闇を纏った刃が《バーサクモンキー》の首を両断し、命を刈り取った。

 闇属性スキルの中でも初級のものだったが、まさかこんな威力が出るなんて……さすがはステータスオールSなだけはある。


「おぉ。《バーンブレードウルフ》ほどじゃないけど、大きい魔石だなぁ」


 今の僕の手では収まりきらない。袖の収納空間に入るだろうか? ……うん。どうやら入るみたいだな。

 素材は毛皮に太い骨が数本か。骨はともかく毛皮は袖には入らないし、そのまま持っていくか。


 その後、僕は《バーサクモンキー》の毛皮を畳めば袖には入ることを知り、収納した後、こっそりと開けていた窓から泊まっている部屋へと戻った。


「ふう……なんだか夜遊びをしている気分だ」


 元の姿に戻った僕は腰に装着しているポーチを外し、ベッドに倒れこむ。元の姿に戻ったら一気に疲労が襲ってくるかと思ったけど、別段そうでもなかった。

 けど、疲れていないわけじゃない。そんな中、僕はステータスを確認する。最後に確認した時は十だったけど……お? 二十八になってる。

 

 これはダンジョンの魔物やこれまでの狩りの成果だな。特に《バーンブレードウルフ》と《バーサクモンキー》の経験値が多くレベルをあげてくれたんだろう。

 まさか、僕がこんなにもレベルが上がるなんて……ステータスは相変わらず低いけど。一番高いのだと筋力と俊敏かな? それにスキルも全然増えていない。どうなっているんだろうな、僕の体って。


「あれ?」


 太陽が昇り、そろそろ誰かが起きてもいい時間帯に僕は、ポーチが若干膨らんでいることに気づく。

 なんだろう? と確認すると……ダンジョンで手に入れた謎の卵が成長していた。


「やっぱりこの卵、なにかの生物が入ってるのかな?」


 だとすると、生まれてくるのが楽しみ半分不安半分といった気持ちだ。新たな生命が生まれるのは喜ばしいことだけど、手に入れた場所が場所なため、魔物が生まれてくる可能性が高い。


「うひゃあ!?」

「ミィヤ?」


 どうしたものかと悩んでいたところミィヤの声が木霊する。ミィヤの部屋は僕が泊まっている部屋の向かいだ。


「はれ? ここは……あっ! 宿に泊まっていたんでした!! あれ? 護衛の玉さん達がいない?」


 どうやら寝ぼけてベッドから落ちたみたいだ。ちなみに、玉達が消えたのは僕が元の姿に戻ったからだ。

 ちょっと迂闊な行動だったけど、あんまりあの姿で居るとあっちが本当の姿として認識しちゃいそうだからね。


「いい天気だ……今日も一日頑張ろう!」

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