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第六話 頑張ろう

「はあ……」


 ハーバでも一、二を争う実力を持つパーティー。

 そのリーダーであるカトレアは、喫茶店の席で深いため息を漏らす。

 そのため息の原因を知っている仲間のユーラは、カトレアの横に置いてある剣を見て口を開ける。


「まさか、あたし達より先にボスを倒した人が居たなんてね」


 本来だったら自分達が最初にボスへ挑み、そして勝利するはずだった。それなのに、自分達よりも先に挑戦して勝利した者が居たのだ。それはボスの間の前にある石板に一とカウントされていたので間違いはない。


「そうですね。おそらくは、私達の頭上を飛び越えていったフードの人でしょうね」


 三人は、自分達以外にダンジョンの最深部に到達している者達は居ないと思っていた。

 だからこそ、余裕をもって移動をしていたのが仇となったのだ。


「何者なんだろうね、あのフード」

「男か女か、一瞬過ぎてわからなかったわね……」


 気づいた時には走り去っていた。

 フードつきの上着を身に付けていたのはなんとか目視できたが、それ以外は謎。

 街に戻ればなにかわかると思ったが、まったくわからないまま喫茶店に訪れた。


「というかさ、早すぎない? 相手は《バーンブレードウルフ》だよ? しかもダンジョンボスだから普通のよりも段違いで強いのに……」

「あたし達でも、ギリギリだったのに、あのフードは単騎で。しかも、私達が到着する前に倒していたのよね」

「そんなに強い人が居たら、少なからず噂になるはずなのですが」


 フードを被り、姿も一瞬しか見えなかったため、探そうにも情報が少ない。しらみ潰しに探すのは正直めんどくさい。


「でもまあ、街の反応を見る限り、あのフードは自分が最初にダンジョンを攻略したって言いふらしていないみたいだし。私的には別にいいんだけどね」


 とはいえ、ダンジョン攻略をした際、最初が一番いい宝が手に入るというのは有名だ。

 いったいあのフードはどんな宝を手に入れたのか……カトレアはそれが気になっている。自分達が手に入れた剣もこの辺りで手に入るどの武器よりも性能はいいもののようだが……。


「もうダンジョンを攻略したのに、どうしてこんな気分にならなくちゃならないのよ……」

「まあまあ。それよりも、どうします? あの荷物持ちのこと」


 不機嫌そうなカトレアにマリアンは、ダンジョンに置いてきた荷物持ち……ラルクのことを話題に出す。


「適当に噂を流せばいいんじゃない? 正直もう興味ありませーん。あっ! 店員さん! 注文いいですかー!」

「まあ、今頃は魔物に襲われてるか、罠にかかって死んでいるでしょうし」

「今は、甘いものを食べて英気を養いましょう」



・・・・・



「いいカバンが見つかってよかったね、ミィヤ」

「はい。ですが、こんなにいいカバンを背負ったことがないので、なんだか違和感が……」

「そのうち慣れるよ。とりあえず今日は魔物の素材を詰めるから、物によっては結構重くなると思うから」


 とはいえそろそろ日が沈む時間帯だ。あまり遠くにはいかないことにしよう。

 ミィヤを雇った身としては、彼女の安全を第一に考えなくちゃだからね。まあ、夜になったらまた一人で魔物を狩りに行こうと思っているんだけど。

 この体に少しでも慣れるために。


「さて」


 まだ魔物が出ないうちに僕はとあるスキルを発動した。〈ゴールドサークル〉だ。

 発動すると、髪飾りとして煌めいていた二つの金色の玉が分離する。宙に浮いた二つの玉は、僕の手元まで近づき静止する。


「ふむ」


 この二つの玉は、僕の意思で自由自在に動く。そして、玉自体の強度も凄まじいものらしいけど。


「あの、その玉は?」


 色々と動かしていたところやはりというか、当然のようにミィヤが気になったのようで、僕に質問をしてくる。


「これは僕のスキルで動く玉だよ。こうやって、僕の意思次第で」


 くるくると二つの玉を動かし、そのうちのひとつを近くにあった岩へと撃ち込む。


 ドゴン!


 小さい穴が空いたとか、そういうレベルじゃない。完全に粉砕してしまった。

 思っていたより凄い威力、強度だった。

 これは鉄だって簡単には貫けますよと言わんばかりだ。


「と、とまあこんな感じなんだけど。この二つの玉をミィヤの護衛として側に置くから」

「え!? 護衛、ですか?」


 実は、この玉に護る対象の名前をセットしておくことで、自動で対象を護るため攻撃をすることができる。

 あの威力の攻撃だ。

 この辺りの魔物なら簡単に倒してしまうだろう。そのことをミィヤに説明すると、おぉ! と感動したように玉を突く。や、止めて! それ一応僕の……いや、よそう。


「雇ったからにはミィヤのことはしっかり護るから安心してよ」

「あ、ありがとうございます! 私もライカさんの荷物持ちとして一杯荷物を持ちますね!!」


 本当にいい子だな、ミィヤは。

 それに……フードつきの上着か。もしかして、僕とお揃いに? 考えすぎか。


「ねぇ、ミィヤ。その上着なんだけど」


 でも、やっぱり気になるので聞いてみたり。

 唐突な僕の質問に、ミィヤは気恥ずかしそうにフードを被り、笑顔で答えた。


「えへへ。ら、ライカさんとお揃いにしてみたんですけど……だ、だめでしたでしょうか?」


 ……やばい、尊い。

 一瞬、昇天しそうになった。なんだろう、この気持ち。あの三人のせいでかなり女の子に興味をなくしたと思っていたのに……今のミィヤを見ていると凄く可愛いと思ってしまう自分がいる。

 くっ! 胸が苦しい……!


「だ、大丈夫ですか!? ライカさん! 胸を抑えてるみたいですけど、苦しいんですか? お薬ありますけど、飲みますか? あっ、でもこれ腹痛にしか」

「だ、大丈夫。ミィヤは、僕が護ってみせるから!!」

「え? あ、はい。あ、ありがとう、ございます?」


 こんないい子を不幸にしちゃだめだ。そう思ってしまう。これが本当の美少女なのかもしれない……。


「よし! 色々あったけど魔物退治に出撃だ!」

「はい!」


 その後、僕は少しでも金を稼ごうと魔物を次々に狩っていくのだった。


「うん。今回は、適度に強い魔物が出てくれたおかげで魔石と素材が結構手に入ったかな」

「す、凄いですね、ライカさん! 強い強いと思っていましたけど、予想以上の強さで思わず息をするのを忘れちゃいました!!」

「息はちゃんとしようね? 死んじゃうからさ」

「はい! あっ、ライカさんは休んでいてください。今、魔石と素材をカバンに詰めますので!」


 とりあえず魔物相手に色んなスキルを使いまくった。中でも使い勝手がよかったのは〈ライジングステップ〉という移動系スキルかな。

 雷を纏うことで、通常の何倍もの速度で移動するから、武器の性能次第で相手をスパスパと切ることができる。


「それにしても、ライカさんって最近ハーバに来たんですか? ライカさんほどの実力者だったら、もっと噂になっているはずなのに」


 落ちている魔石や魔物の素材をカバンに詰めながらミィヤは言う。まあ、最近といえば最近かな。

 ハーバ自体には十六年間居るけど。この姿になったのは最近。というか今日なんだけど。


「ライカさんって冒険者、ですよね?」

「まあ、一応。でも、今はとある理由でおやすみ中ってところかな?」


 本当のことを言えないのは心苦しいけど、今は……。


「そうだったんですか。そんな時に私なんかを雇ってくれるなんて……」

「おやすみ中って言っても冒険者家業をってことだから。冒険者家業以外でも稼げる方法はあるからね」


 とはいえ、ずっとこのままってわけにはいかない。ミィヤとの関係も……。


「そうですね。こうして魔物から出る魔石や素材を換金したり、お店で働いたり。よし! ライカさん! 終わりました!!」

「ご苦労様。じゃあ帰ろうか。そろそろ日が落ちる時間だし」

「……」


 街に帰ろうと、歩き出したがミィヤは立ち尽くしたままだった。


「どうかした?」

「あ、えっと……なんだか楽な仕事だったなぁ、と」

「まあ、拾ってカバンに入れて、運ぶだけだからね」


 それでも、荷物が増えればそれだけ重くなるし、結構歩くこともあるから、そこまで楽じゃないとは思うけど。


「でも、前も同じことをしていたんですけど、その時は魔物によく襲われたり、拾っている時にわざと転ばされたり……だから、こんなにも楽しい気分になれるなんてって」


 はにかむミィヤの顔を見て、僕はまた自分のことを重ねる。今までどんなにひどい目に遭わされてきたのか。

 想像しただけで、彼女の痛みが伝わってくる。


「私、これからもライカさんのお役にたてるように頑張ります! なんでもやりますから、なんでも言ってください!!」

「ははは。張り切るのは良いけど、過労で倒れないでね?」

「大丈夫です! 体は丈夫なほうですから! 生まれてから一度も風邪を引いたこともありませんし!!」


 そういう問題じゃないんだけどな。でもまあ……僕も彼女が笑顔でいられるように、頑張ろう。

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