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第五話 どうして

「さて、それじゃあまずは服を買おう。女の子なんだから、綺麗にしないとね」

「あ、あの!」

「ん? どうかした? ミィヤ」


 偶然出会った青髪青眼のドワーフの女の子。理不尽な目に遭っていた彼女を見て、このままにはしておけないと思った僕は彼女を雇うことにした。

 

 彼女の名前はミィヤ。

 まだ十二歳らしいけど、しっかり者なうえにめちゃくちゃ優しい子だ。自分が暴力を振るわれているというのに、反撃をしないほどに。


「本当に私なんかを雇ってくれるんですか? それに、まだお役にたっていないのにこんなに」


 どこか申し訳なさそうに、自分の手にある紙幣三枚を見詰める。一万ウルム札は、この世界の貨幣としては一番高い部類のものだ。

 一万もあればこの辺りの宿だって余裕で泊まれる。


 それが三枚ともなれば、彼女にとってかなりの高額金のようで、握るのも怖いようだ。

 実は、これまでこの姿で倒した魔物達の魔石やら素材やらを換金したところ僕は一気に小金持ちになったんだ。


 特に高く売れたのは、ダンジョンボスの魔石と素材だ。

 なんと、かなり良質なマナが溜まっているものだったらしく、ひとつで十万の値がついた。

 僕にとってはかなりの高額金だったけど、ドラゴンなどのS級の魔物の魔石や素材は何百万もすることもあるそうだ。


「僕も丁度荷物持ちを探していたところだったんだ。それと、そのお金は前金。荷物持ちにしても物を入れるカバンとか、他にも必要なものが要りようでしょ? それで自由に買っていいから」


 前半は嘘だけど、後半は真実だ。彼女は荷物持ちだというのに、荷物を入れるためのカバンなどを持っていない。

 それに、今の姿は個人的にちょっと……。


「ねぇ。もう一度確認するけどさ……ミィヤって本当に十二歳何だよね?」

「はい。先日十二歳になったばかりですけど。な、なにか?」


 僕も全ての種族、全ての女の子を知っているわけじゃないけど。ミィヤは、やたらと発育がいい。

 一枚しかない白いシャツからはみ出しそうなぐらいに大きな胸。そこからできる深い谷間。半ズボンから見えるむちっとした足。これで身長は、幼女姿の僕よりちょっと大きいぐらい。


 これで十二歳。

 最初聞いた時は、唖然とした。僕が知っている十二歳の子はもうちょっと控えめな子ばかりだったから、ドワーフだけが特殊なんだろうと勝手に納得した。


「いや、気にしないで。さあ、ここを抜ければ服屋だから」

「私、こういう大きな街にある服屋って初めてなんです……き、緊張してきました」


 別にハーバはそこまで大きな街ではないんだけどな。


「あっ」

「どうかした?」


 近道である細い路地をもうちょっとで通り抜けようとしたところで、ミィヤがこんなことを聞いてきた。


「今更なんですが、お名前を聞いていなかったなと」


 あっ、そういえばそうだった。ど、どうしよう? 考えていなかった……! ラルクと名乗るのは正体がばれかねないし。

 偽名。ミィヤを騙すことになるけどここは偽名を名乗ろう。


「ら」

「ら?」

「ライカって言うんだ。よろしくミィヤ」

「はい! 不束者ですが、ライカさんのために精一杯頑張ります!!」


 とりあえず今後はライカという名前で通していこう。


「よし。抜けた。後はここから東に向かえば目的地に到着……」

「どうかしました? あっ! あの方達ってこの街で有名なパーティーですよね!!」


 ハーバの中で、安く品質のいい服を売っている店へと向かう途中、僕はあまり見たくないものを見てしまった。

 大通りを歩いているだけで、男達の視線を釘付けにしている三人の冒険者。戻ってきたのか……。


「おい、戻ってきたぞ!」

「てことは、ダンジョンボスを倒してきたんだよな? やっぱりすげぇよ、あの三人!!」

「可愛くて強いなんて、最高だな!!」


 ここから一番近いダンジョンからあの三人が帰還した。階層は三十までありこの辺りのダンジョンだとかなり深い。

 そして、一番最初にそのダンジョンの最深部へと辿り着いたパーティーなうえに全員が美少女。なにも知らない人々は、三人の凱旋に声を張り上げている。が、僕は興味がないかのように足を進める。

 フードを深く被り、一切見向きもせず。

 

「カトレアちゃんが持っているあの剣が攻略の証か? なんだか素人目でもすげぇ武器だって感じるぜ」

「うわぁ、すごいですね! ライカさん!! 三十層のダンジョンを三人で! それも女の子だけで! 一番に攻略したみたいですよ!!」


 僕の後ろをついてきながら、純粋に喜び、三人に憧れを抱いているような声をあげるミィヤ。

 僕は、そうだねと軽く答えただけでそれ以上は口を開かなかった。誰もが、あの三人は凄い、可愛い、など言う。


(ああ、確かに凄いよ。猫を被って、人知れず人の心を弄ぶことに関しては)

「ライカさん?」


 いつまでも無言のままだった僕を心配してか、ミィヤが顔を覗き込んでくる。


「さあ、ついたよ。ここで好きな服を買っていいよ」

「は、はい! あの、ライカさんは一緒に来てくれないんですか?」


 うっ……寂しそうに覗き込んでくるのは反則だ。本当だったら僕も付き合いたいところだけど、正直女の子の服に関してはさっぱりなんだ。

 だから、僕が一緒に居ても意味がない。


「僕はここで待ってるよ。大丈夫。いなくなったりしないから」

「……わかりました。では、大急ぎで買ってきますね!」

「ゆっくりでいいからねー!」


 ミィヤが店の中へと入っていくと、すぐ優しそうなお姉さん店員さんが話しかけてきた。本当に初めてなようで、ミィヤはかなりテンパっている。けど、お姉さんが笑顔で対応してくれているのを見た僕は安堵し、近くの壁に寄りかかる。


(さて、この間に自分のスキルをひとつでも知っておかないと)


 ステータス画面を表示し、数多あるスキルを確認する。ラルクだった頃とは比べ物にならないぐらいの数だから、ちゃんと把握しておかなければ。

 とりあえず、気になるスキルは……これかな。〈ゴールドサークル〉ってスキルだ。どうやら僕の髪の毛を留めている金色の玉を自由に操るスキルらしい。


 それってつまり僕の玉を操るってことだよね? 息子が刃になったということは、一緒にあったはずの玉も変化しているはず。

 と考えれば、それは僕の髪の毛を留めている金色の玉がそうなんじゃないかという結論に至った。まったく……どうしてそうなった……。


(スキルを確認する限り、僕が得意とする属性は火と闇、それに雷みたいだ)


 闇と雷なんてかなり珍しい属性だ。四大属性である火、水、風、地がもっとも適正者が多い。

 が、それ以外にも光と闇の二大属性がある。けど、この二属性の適合者は本当に選ばれた者達だけしか使えない。光は、特に天人族や聖職者が多く、闇は魔人族や外道に進みし者達が多い。


(でも、僕はそこまで堕ちた覚えはないんだけどな……)


 まあ、ともあれ六属性以外にも、色々と属性がある。その内のひとつが雷属性だ。

 ダンジョンボスに使った〈ライトニングスラッシュ〉も雷属性。他にも移動系や防御系などのスキルが多数。


「ほんと、この姿って何なんだろう……」


 一通りスキルの確認をした僕は空を見上げる。強くなったのは素直に嬉しいけど、この姿について、力について、ちゃんと調べなくちゃな。


「ら、ライカさん! お待たせしましたぁ!」

「お? 結構早かったね……うん。可愛い」

「そう、ですか? 服を選ぶなんて初めてだったので……ほ、本当に似合ってますか?」


 丁度いいタイミングでミィヤが店から出てきた。そして、出会った時のボロボロな服とは違い、かなり可愛い服に身を包んでいる。

 女の子らしく、青いリボンが胸についた白いシャツに、水色のフードつき長袖を上着にし、下は……そのまま半ズボンを穿いているようだ。


「思いきってスカートにしようかと思ったんですけど、やっぱり恥ずかしくて」

「服は人それぞれだからね。僕はいいと思うよ」

「ありがとうごさいます!」


 さて、後はミィヤ専用のカバンを買って、魔物狩りにでも行こうかな。確認したスキルも試したいし。

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