第五十八話 まだまだ続く
双子はかなり素早い。
今まではその場に止まって、動いたとしてもジャンプだけだった。
いや、それだけでもかなり素早いというはわかったけど、こうして追いかけられるともっと実感できる。
「もっともっと! 逃げろ逃げろぉ!!」
メサリは、僕のことをずっと追いかけてくる。
アタンは、ミィヤときらめさんを追いかけているため、放置ぎみのレンは、僕を助けようとこっちに向かってきているが。
「主様!」
「レン! こっちは大丈夫! 今は逃げることだけを考えるんだ!」
「わ、わかりました!」
とはいえ、メサリは僕に集中し、アタンも他の二人に集中している。レンもは、その後か……もしかすると、これも作戦かもしれない。
僕達を集中的に狙っておいて、油断しているレンをとういう可能性もある。
「メサリ!」
「なーにかな?」
たん! と、一気に僕へ近づいてきたメサリを回避し、問いかける。
「どうして、僕の提案にのってくれたの?」
「一緒に遊びたかったから!」
「なるほど!」
「だから、体力が続く限り逃げてねー!」
遊びたかった、か。本当に無邪気な子供みたいだ。
今思えば、こうして無邪気に遊ぶのって……久し振りかもしれない。ミィヤとレンに出会ってからは、心に余裕ができて少しずつ色んな遊戯をしてきたけど、どこか少なからず楽しんでいなかった部分があったような気がする。
物心がついた頃から、じいちゃんに育てて貰って、冒険者を目指すのを決めてから、必死に訓練して……同い年の子とこうやって遊ぶなんてなかった。
そう。純粋にこうやって遊ぶなんて……あれ? 久し振り? 遊んだ覚えはない、はずなんだけど……まあいいか。
「わかったよ!」
と、そこで僕は思い出す。
「そういえば、これって僕達が全員捕まるまでやるの?」
「あっ! そうだったね! そういえば言ってなかったよー。ほい!」
掛け声とと共に出てきたのは時計。
しかし、時を刻んでいない。
「本当は制限時間があるんだけど、もう関係ない! 体力が尽きるまで遊ぼうよ!!」
「……それは、楽しそうだ!」
体力が続く限り。小さな子供が時間を忘れて遊ぶような感じか。
いいね。そういう遊びをしてみたかったんだ。
テンションが上がってきた!
「ところでさ!」
「なに?」
「君は今……楽しい?」
「もちろん」
その言葉を聞き、メサリの動きが変化する。より俊敏に、より機敏に。そして、笑顔も輝いている。
「じゃあさ」
今度はなんだ?
「……ううん。なんでも、ない!!」
「おっと!」
何か言いたそうにしてたけど、なんだろう?
もしかして、僕の記憶についてかな……まあ、これが終わった後でゆっくり聞こう。
「楽しいね!!」
「うん! 楽しいよ!!」
・・・・・
「うわわっ!?」
アタンの突撃力に危うく捕まりそうになったミィヤだったが、きらめさんに手を引かれ、回避する。
「あ、ありがとうございます!」
「気にしないで! それにしても、素早いねあの子」
もう一人のメサリは、ライカを無我夢中で狙っている。
「なんだか、あっちは楽しそうだね」
「はい。あんな楽しそうなライカさん、初めて見た気がします」
ライカは、ラルクは二人から見ても、どこか心の底から楽しんでいるようには見えなかった。
気のせいかもしれない。けど、そう思えたのだ。
それが、今はどうだ? 子供のように無邪気に遊んでいる。
「でも、こっちは」
「楽しんでいる余裕……なさそうですよね」
「それは困る! ほら! ほら! 楽しく! 笑顔! 逃げてよ!!」
アタンは純粋に楽しんでいるようだが、二人は逃げるのに必死でライカ達のように楽しめていない。
「いやー、怖いねー。捕まったら、可愛い動物になっちゃうんだよー」
「どんな動物になっちゃうんでしょう? せめて、うさぎさんとかだったらまだ良いんですけど」
「動物になっちゃったら、まだ捕まってない人の邪魔をするんだよねー、無邪気にすり寄ってくる……ちょっといいかも」
「え?」
今、きらめがとんでもないことを言った気がしたミィヤだったが、迫ってくるアタンの気配に気付き、びくっと体を震わせる。
「捕まえちゃうぞー」
いつの間にか隣に来ていたアタンの姿を見て、二人は純粋に恐怖を覚える。
「ひえー! 瞬間移動なんて卑怯だぞー!」
「瞬間移動じゃないよ。跳んできただけ! そりゃ!」
「ほいや!」
鋭い突きだったが、ミィヤはしゃがんで回避する。
「まだまだぁ!」
それだけでは終わらなかった。しゃがみこんだミィヤに、再び手を伸ばす。
「させない!」
一人だったら捕まっていただろう。しかし、背後に居たきらめが首根っこを掴んで思いっきり引く。
「そう来ると思ってたよ!」
「なんと!?」
きらめが、ミィヤを助けることは想定済み。アタンは、くるっと体を捻り、きらめへと手を伸ばす。
ミィヤを助けるために、強引に引っ張ったため、バランスを崩したきらめは。
「はい、まず一人!」
「あちゃー」
「きらめお姉ちゃん!?」
アタンにタッチされたきらめは、ぽふん! と気の抜ける音と共に煙に包まれる。
次に姿を現したきらめは……子猫に変わっていた。
「にゃー」
「き、きらめお姉ちゃん?」
少しだけきらめの面影があるように見えるが、人語を喋らない。
近づいてくる子猫は、ミィヤにすり寄ってくる。
その可愛さに思わず顔が綻ぶが……ハッと我に返る。
「と、とう!」
「ありゃ?」
咄嗟に横へ跳んでアタンのタッチを回避したミィヤは、動物の恐ろしさに冷や汗をかく。
「な、なんて恐ろしい……あの可愛さで油断したところをタッチするんですね」
「可愛いは正義ってね」
その言葉には異論はない。子猫が、また近づいてくるのを見て、心が揺らいでしまう。撫でてみたい、膝に座らせたい。
しかし、だめだ。
それで捕まってしまっては、後に残るライカやレンに迷惑をかけてしまう。
「つ、捕まってたまるもんですかー!」
「捕まえちゃうよー! ほらほら! 可愛い猫ちゃんだよー!」
「にゃー」
逃げるミィヤ。子猫となったきらめを見せつけながら追いかけてくるアタン。
まだまだおいかけっこは続く。




