第四十一話 ばれちゃいました
レンは、迷っていた。主であるラルクを助けたい。しかし、そうすればラルクに迷惑がかかってしまう。
そして、そうこうしている間にもミィヤが一人、限定のケーキを手に入れるために店の前に並んでいる。ここで、迷っているとラルクから託された使命を全うできない。
「む!?」
ずっとラルクの様子を伺っていたが、ついに動きが。
ラルクの悩みの種であるきらめから、がっちりと腕を絡め取られたうえに、その大きな胸を押し付けられている。
これには、ラルクも動けない。
必死に話しかけるが、きらめのペース。
なにやら甘い食べ物を選んでいるようだ。
「あれは、まさか……餌付け!?」
女の体でラルクを魅了し、そのうえで餌付けしようというのか。レンは、一歩前に出る。
行くのか? 今、自分が出て、ラルクを助けようとすれば正体がばれてしまう。しかも、あんなに無防備に見えてきらめに隙がない。
ここで出ていってもラルクを助けられないかもしれない。
「ああっ!?」
いまだに迷っていると、購入した食べ物をついにラルクに食べさせようと口元に近づけていた。
もう、迷っている場合じゃない。自分はなんだ? 主のラルクを誰よりも信頼し、命尽きるまで側に居ると誓った下僕レンじゃないか。
「主しゃまあああっ!!!」
レンは飛び出した。ラルクを救うために……。
「ふぐおっ!?」
ラルクに勢いよく、だが吹き飛ばさない力加減で、背中に張り付いたレンは目を瞑ったまま叫ぶ。
「主様!! レンが助けに参りました!!!」
「あれ? レンちゃん?」
そこで、レンはハッと自分の仕出かしたことに気付き、こちらを見詰めたまま固まっていたラルクを見て、一気に血の気が引く。
終わった……と。
・・・・・
「なるほど。そんなことが……それで、レンちゃんはずっとそんな感じなんですね」
「うん……」
ラルクの姿できらめさんと遭遇し、どうにか切り抜けようとしていたが、レンの介入により僕がライカだということがばれてしまった。レンは、僕のために必死に考え、駆けつけてくれた。それだけは、嘘にしたくない。
現在、僕は別行動をしていたミィヤと合流した。もちろん、レンときらめも一緒に。
僕の隣で、きらめさんは顔を埋めるように引っ付き、ぷるぷると震えている可愛い生き物をだらしない表情で見詰めている。で、僕に引っ付いている可愛い生き物がレンなんだ。
自分の仕出かした罪の重さを悔い、ずっと喋らずにいる。何度も、頭を撫でたり、大丈夫か? と声をかけているが、まったく反応しない。しばらくはこのままなんだろう。
「それで……えっと、きらめお姉ちゃん」
「なーに? ミィヤちゃん」
相変わらず嬉しそうに反応するものだ。
ちなみに、今は一人っ子一人いない喫茶店の端の席に座っている。よほど、客が来ないのか。僕達が入ってきた瞬間の店長の嬉しそうな顔が今でも頭に浮かぶ。というか、今も凄くにこにこしてる。
雰囲気は、落ち着きがあっていいところだと思うんだけど。こう、一人で読書をしながらコーヒーを飲むのにぴったりというか。
「もうラルクさんが、ライカさんだということは」
「うん。ばっちり!」
最初はなんとか誤魔化そうとしたが、無理だった。ライカちゃんだよね? ね? と、逃がさないという顔で壁際まで押し寄せてきたんだ。周りの人達も見ていたし、レンを放っておけなかったので、ぽっきりと。こんなにも早くばれるなんて……。
「……ど、どう思いました?」
そこが問題だ。大抵の人だったら、うわぁ……と引くところだろうけど。きらめさんは、普通じゃない。僕にライカだよね? と聞いてきた時も、むしろ興味津々な感じだった。
「変身をみたいと思った!」
「えぇ……」
僕は心底嫌な声を漏らす。だって、変身をするところを見るってことは、きらめさんの目の前で露出するってことなんだよ? 僕はそういう性癖がないから、普通に恥ずかしいし、嫌だ。純粋に。
「あの、それはちょっと」
ミィヤも、僕の変身がどういうものなのか理解しているため、顔を赤くしながらだめだと伝えようとするが。
「だめなの? だって、変身だよ? 男の子はもちろんのこと、女の子だって、誰でも憧れる変身だよ?」
きらめさんの言うことはあまりよくわからないけど、無理です。変身した後だったらいくらでも見せることができるけど、さすがに変身する様子を見せるのだけは無理。
僕は、全力で首を左右に振る。
「お願い、ラルクくん。ちょっとだけだから! 他の人に内緒っていうなら、裏路地とか使ってない倉庫とか、人気のないところで良いから!」
是が非でも変身をみたいのか、一歩も引いてくれない。女の子にあれを露出するんだ。場所がどうとか、そういう問題じゃない。
これは、もうどうやって変身するのか教えた方が良いんじゃないか? そうすれば多少は……。
「映像に残したいの! スクショに残したいの! 生変身シーンを!! それも、性別転換ものの!!」
「あの、きらめお姉ちゃん。落ち着いてください。ここ喫茶店なので」
「あっ、ごめんごめん」
とにかく今は話題を変えて、忘れ去れなければ!
「そ、それよりもきらめさん」
「お姉ちゃん!」
「……きらめさんのことを教えてくれませんか? 実はずっと気になっていたんですよ」
「むう……仕方ないなぁ。じゃあ、私のことを教えるからちゃんと、変身シーン見せてね?」
「善処します」
とりあえずこれで大丈夫なはずだ。このまま別の話題で盛り上がって、さっきの話題を忘れさせれば……。
「では、お姉ちゃんの正体を今ここに明かしちゃいます!」
ふふんっと、右手を胸に当て、意味ありげに雰囲気を出す。
「私は」
「私は?」
「異世界人なんです!」
……ん? なんだかさも僕達が理解できるように言ったつもりなんだろうけど。
「あの、きらめお姉ちゃん。いいですか?」
きらめさんの発言にミィヤが手を挙げる。
「うんうん。お姉ちゃんがなんでも答えちゃうよ!」
準備万端のようで、いまだにどや顔を止めないきらめさん。
が、それもミィヤの発言で崩れてしまった。
「異世界人って、なんですか?」
「ーーーへ?」
ここで初めてきらめさんが、動揺して固まった気がする。そう、きらめさんは普通に発言したけど、異世界人という言葉にあー! という反応にはならないのだ。
「え? 異世界人、だよ? ほら、わかるよね?」
「言葉の意味はわかりますが」
言葉通りなら、こことは別の世界の住人ということなんだろうけど。召喚スキルで呼び出す【召喚獣】と似たような感じなんだろうか? ということは、きらめさんは誰かに召喚された存在。
なるほど。異世界の人なら、僕達が理解できない言葉や道具があってもおかしくないか。
そのことを伝えると、きらめさんはははは……と渇いた声を漏らす。
「な、なるほど。この世界では、私みたいな異世界人は確認されていない、と……」
「獣の類いなら、多く召喚されていますが、人が召喚されたという記録はないですね」
「も、もしかしたら、書物に記されていないだけという可能性もありますけど」
きらめさんのあまりの落ち込みように、ミィヤがフォローを入れる。効果はあったようで、嬉し涙を流しながらミィヤに頬ずりをしていた。




