第三話 今後は
「今後は僕が死んだと思わせるべきだよね……」
どうせあの三人がそんな噂を流すだろうし。今まであのパーティーの荷物持ちをしていた僕が居なくなりかつ他の荷物持ちの姿があったら……。
僕は、ダンジョンボスを倒した後、一度幼女の姿のままハーバの街に戻ってきていた。
これからどう過ごすか、そのことをゆっくり考えるためである。念のためフードを被って顔を隠している。先日は、どうにも目立つ見た目だったようで、視線を集めていたからね。
「空が遠いなぁ」
男だった時の僕の身長はそれほど高くはなく百七十いくかどうかだった。顔つきもお世辞にも男らしいとは言えない。けど、女顔ってこともなく少年から青年に成り立てな感じだ。
そんな僕は現在幼女となっている。
身長は結構低いようで、百五十あるかどうか。もしかしたら、百四十あるかも怪しいかもしれない。
それほど、空がいつもより遠く感じるんだ。
「おい、聞いたか? 今日あの美少女パーティーがこの近くにあるダンジョンを完全攻略して帰ってくるって噂だぜ」
「知ってるって! 凄いよなぁ……女の子三人だけでダンジョン攻略なんて。しかも三人とも美少女! 性格も最高にいいときた!! かー! お近づきに成りてぇぜ、マジで!」
冒険者だろうか。武器防具を装備した青年二人が、あの三人のことを話していた。
いや、彼らだけじゃない。この街に住む者達なら男女問わず、あの三人がどれだけ凄いか理解している。まあ、実力は本物。容姿だって誰から見ても美少女といって良いほど可愛い。
けど、僕は知ってる。
知ってしまった。あの三人の本当の姿を。本性を……。もしかしたら、僕が知らないだけでとんでもないことを他にもやっている可能性だってある。
まったく……一度知ってしまうと、色んな可能性を考えてしまうから怖いよね。
彼らも本当の彼女達の顔を知ったらどんな反応をするんだろう? 僕みたいに絶望する? それとも殺意を覚える? どちらにしろ僕は、もうあんな奴らには興味はない。今は、今後の生き方をどうするかが重要だ。
すでにラルクとして冒険者登録をしてしまっているので、もしギルドで依頼を請ける場合は、ラルクのギルドカードを使わなければならない。しかし、そんなことをすればすぐに僕が生きているとばれてしまう。
一度はこの姿のままだったら、もう一枚作れるのでは? と思ったんだけど、ステータス画面を見る限り名前はラルクのままだったので、これは無理かもと断念。
ステータスが全然違うから、実は別人になったんじゃないかと思ったんだけどなぁ……はあ。
そんなわけで、もし僕が生きていると知れば、あの三人は絶対僕に近づいてくる。そして、こんな言い訳をするだろう。
「ごめんね。放置するつもりはなかったんだよ?」
「この先、ラルクの実力ではついてこれないと思ったの」
「だから、ダンジョンを攻略してから迎えに行こうと思ったんです」
とかね。ダンジョンボスを倒せば、いつでも全ての階層を行き来できる。それがダンジョンボスを倒した者達の特権。
で、そのまままた荷物持ちとしてパーティーに残すか、それっぽいことを言ってパーティーから抜けさせるかのどっちかだろう。
なので、そうならないようにするにはしばらく傭兵として過ごそうかな?
冒険者しては無理だろうし。傭兵なら、ギルドのような手続きはなく、仕事をできる。
正直、ここから離れるのが一番なんだけど。
ここは僕の育った街だ。そう簡単には離れられない。知り合いだって結構居るし、たくさんお世話になった。街自体は何も悪くないから。
「よし。当分は傭兵や魔物の素材を換金して過ごすとしよう」
冒険者でないと、魔物を狩れないというわけではない。だから、しばらくは冒険者家業は休み、それ以外で金を稼ぎながら過ごそうと思う。
(けど、この選択は)
僕が今まで知り合ってきた人達、お世話になった人達を悲しませることになる。なにせ、僕はダンジョンで死んだことになるのだから。
今はまだあの三人が戻ってこないから大丈夫だろうけど、きっとあの三人が戻ってきたら、色々と変わる。
徐々に、僕がダンジョンで死んだことが知り合いに広まり……。
(けど、これで良いんだ。あの最悪な三人から離れるためには)
そんなこんなで、僕のような人のために設置されているとある掲示板がある広場へと向かう。
掲示板は三つほど設置されており、武器防具を装備している者達や、そうじゃない一般人のような者達が集まっていた。
「よし! 今日はこの《ウルフ》の牙二つの依頼を請けるか!」
「子供の相手かぁ……でも、五人ってどんな大家族なのよ」
掲示板に貼られているのは、ギルドの規定で受理できなかった依頼や、お手伝いのような依頼などが多くある。
自由掲示板。
戦えない者達でも、ちょっとした小遣い稼ぎができるような依頼もあるし、冒険者向けの依頼もある。
ここだったら、ギルドカードを提出することなく、ただ依頼をこなし報酬を受け取れば良いだけなのだ。
さて、さっそくなにか依頼を請けようかな……。
「……み、見えない」
今日は結構人が来ているのと、体がかなり小さくなってしまったせいで依頼書が見えない。
前の人達が壁となって、僕の視界を遮っている。
「ちょ、ちょっと通してください」
「うお!? びっくりしたぁ……おいおい、子供に請けられるようなものは今はないぞ? 小遣いが欲しかったら親にお願いしな」
この身長のせいで完全に勘違いをされている。男の言葉で、一気に僕には視線が集中してしまう。確かに、この中では僕が一番が身長が低いけど……便利だけど、不便なところも結構あるなこの体。
「いえ、僕はこう見えて結構強いので。ご心配なく」
そう言って僕はとある依頼書を剥ぎ取る。依頼内容は、いつまでも帰ってこない猫の捜索。
三匹ほど飼っているようだが、三匹とも三日も帰ってこないらしい。よくあることみたいだが、心配なので探しだして捕まえてほしいとのこと。
「お嬢ちゃん。猫探しだからって簡単じゃねぇんだぜ? 俺はその家の猫どもを知ってるが、あいつらはなかなかすばしっこいうえに隠れるのがうまい。だから……あ! おい!!」
なにやら経験者ですという風に語っていたけど、僕は大丈夫ですよと頭を下げて、その場を去っていく。
僕だって知っているさ、十分に。なにせ有名だからね、この依頼者。かなりの猫好きで、気づけば猫が増えているような感じだ。そして、決まって猫が家に帰ってこないと依頼を出す。
猫は気まぐれで、自由を愛しているから数日帰ってこないのは普通だとギルドから相手にされないためここに依頼書を貼っているのだ。
僕も本当に駆け出しの頃は、何度か請けたことがあったなぁ。
本当にすばしっこくて、なかなか捕まらない。
「けどまあ、今の僕なら」
余裕で捕まえることができるかもしれない。それにあの猫達を捕まえることができればそれなりの経験を積むことができる。
「よし! まずはスキル〈生命探知〉!」
猫達が居そうな場所に移動してから、僕は〈生命探知〉のスキルを発動した。
このスキルは、生き物ならばなんでも探知できる便利なスキルだ。対象は猫。と言っても、猫なんて一杯居る。ただ探知しただけじゃ、反応がありすぎて対象の猫がわからないだろう。
けど、どんな猫なのか。理解していることで、より一層絞り込んで探知することができる。
ここから西方。ん? すでに一匹は飼い主の家の近くに居るみたいだな。やっぱり猫は気まぐれだ。いつの間にかいなくなり、気づいた時には戻っていたなんてことはよくあること。
「じゃあ、後は南に居る二匹だけだね。さっそく捕まえに行かないと」
移動される前に、僕は軽く跳ねて屋根に跳び移る。
そのまま屋根の上を駆け抜け猫の居場所まで一気に詰めていく。
「居た……!」
一日にはひなたぼっこをしていたらしく大きな欠伸をしている。そこへ上からの奇襲。
丁度移動しようとしたところを狙って、茶毛の猫を両手でキャッチする。
「にゃあっ!?」
「こら、逃げないでよ。大人しく、飼い主のところへ帰ってね?」
「……にゃあ」
これはわかったという返事なのか? 捕まえた猫は大人しく飼い主の家がある方向へと歩いていった。頭が良い猫だとは聞いていたけど、これほどとは。
その後、もう一匹の猫も捕まえた僕はそのまま依頼者の家へと連れていき、報酬を貰った。