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第二話 清々しい気分

ここまでが短編で書いた物語です。

次回からは新話となります。

「さて、ここからが本番よ! ダンジョンの最深部! 張り切って攻略するわよー!」

「もう、カトレア? 子供みたいにはしゃがないの」

「良いではないですか。カトレアはこの方が自然体なんです」


 僕は、予定通りカトレア達とダンジョン攻略に来ていた。

 あのことを知っていなかったら、僕はいつものように美少女パーティーで男は僕だけ! 頼られるように頑張らないと! なんてお気楽な感じで居ただろうな。


 でも、今は違う。知ってしまった。

 彼女達の本性を。

 僕がこれからどうなってしまうのかを。


 あの力を手に入れていなかったら、僕は絶望しかなかっただろう。

 なんてたって、ダンジョンの最深部に一人取り残されるんだから。荷物持ちで、ステータスが低い僕は迷いに迷って、いずれは魔物に襲われて人生が終了していたはずだ。


「あっ、そうだ。ラルク」

「な、なに?」


 おっと、いけない。つい動揺してしまった。いつも通りに……よし。


「この先に何があるかわからないからさ、ちょっと私達だけで見てくるよ」

「え? でも」


 ちなみに、一度新しい階層に入ってしまえばもう戻れない。戻れるとしたら、中間地点にある転移陣を使うか、階層を攻略するしかない。なるほど、入り口付近に置いていって自分達はそのままダンジョンを攻略しようという魂胆か。


「大丈夫ですよ。どのダンジョンも入り口付近は安全ですから」


 そう。ダンジョンの階層にはラインがある。入り口からちょっと離れた場所に光るラインがあって、そこから出るともう後戻りできない。ラインから出なければ魔物に襲われることもないので、ここで作戦を練るのもひとつの手だ。


「すぐに戻ってくるわ。それまで私達の荷物を頼んだわよ?」

「大丈夫よ! あなたのことを絶対に迎えに来るから!!」


 本来だったらかなり頼もしく嬉しい言葉なのだが、今は全然響かない。


「……わかった。それじゃここで待ってるから。三人とも気を付けてね」

「わかったわ」

「では、行ってきますね」


 こうして三人と別れた僕はふうっと息を漏らし、背負っていた荷物を下ろす。


「やっぱり」


 なんとなく予想はしてたけど、カバンの中身が違う。本来入っているものがなく、ほとんど石ばかり。あるとすれば、ちょっとした保存食ぐらいだろうか。

 入れ替えられていた。おそらくほとんどの荷物はユーラの収納空間の中だろう。これも最近知ったことだ。収納魔法があるというのに、荷物持ちを雇っているあたり相当性格が悪い。


「あれから、三十分は経つけど……ま、戻ってこないよね」


 最初から期待なんてしてなかった。今頃、三人は僕がなにも知らず、健気に待っている頃かな? とか笑い話にしているかもしれない。


「それじゃ、僕も行動に移りますか」


 僕は、ポーチに入る程度の荷物を持ち、大きなカバンをその場に放置する。ごめんな相棒……本当は持っていきたいけど、あえてここに置いていく。

 これはなるべくあの三人に気づかれないようにするためだ。こうして置けば、僕がいつまで経っても戻ってこない三人を心配して探しにいったように見える。ここはダンジョンの最深部。さすがに大きな荷物を背負ったままでは身動きが取れない。少しでも身軽になれるようにと、捨てていったと思わせるんだ。


「本来の僕なら、ここの魔物は倒せないだろうけど……」


 懐からあの筒を取り出し、僕は自分の息子を入れる。あー、二回目だけどやっぱり恥ずかしいうえに、誰にも見せたくない。見せられない光景だ……!


「抜刀」


 刹那。

 僕は銀髪ツインテール幼女へと変身する。その場でとーん、とーん、と軽く跳ねてフードを被る。これはあの三人に出会った時に顔を見られないための処置だ。


「あの三人より先にここを攻略してやる!」


 それが僕の復讐となる。別に殺してやりたいとかそういうことは思っていない。あんな奴らなんてもうなんとも思っていない。けど、このまま何もしないわけではない。

 まあ、偶然三人がダンジョンを攻略中に謎の幼女に先を越されてしまった、てことになるだけだから。


「スタート!!」


 安全圏を出て、僕は走り出す。くっ! やっぱりこの姿は力がありすぎて制御が難しい。

 ステータスオールSなだけはある。


「ほっ!」


 壁にぶつかりそうになるも、そのまま壁を蹴って軌道修正。

 すると、さっそく魔物が出現した。

 相手は《レッドリザードマン》だ。二足歩行のトカゲのような姿。鱗は赤く、手には曲剣と盾を装備している。ここまで来るとレベルは四十以上が普通だ。通常の僕のレベルの約四倍。普通なら全速力で逃げるところだが。


「せやあっ!!」

「グギャッ!?」


 通り際にさっと両断する。《レッドリザードマン》の体は硬い鱗で覆われており、簡単には傷つかないうえ盾で防御するため、パーティーを組んでいても苦戦する魔物だ。

 更に火属性の魔法を得意としており、耐性もある。けど、あっさりと一撃で倒せた。まるで通り魔だなこれじゃあ。


「けど、大急ぎで攻略しないとね。三十分の遅れを取り戻すために!」


 その後、出現する魔物をスパスパと通り際に切り裂いていき、テンションが上がってきた。

 ナイフも短剣になっているが、そこのところはあまり気にせずにいる。罠も僕があまりにも速すぎたせいなのか発動が遅れて発動したり、発動しなかったものが多い。


「そろそろ見えてきてもおかしくないけど……居た」


 魔物を倒しながら移動して五分。

 呑気に移動をしている三人の姿を目にした。笑っている。ここがダンジョンの最深部だというのに。

 どうせ僕のことで笑っているんだろう。その余裕が命取りになる。


「ほっと」

「え? な、なになに!?」

「今、あたし達の頭上を」

「飛び越えた?」


 大分力の制御にも慣れてきた。もう少しで天井に頭をぶつけそうになったけど。


「嘘!? 私達の他にこの階層に人が居るわけが……!?」


 幼女化した僕の背中を見て声を上げるカトレア。僕は、人として扱われてなかったのか? それとももう僕はいないものとされているのか……。


「どっちでもいいか。今はこのままボスの間へ駆け足だ!」


 唖然としている三人を置いて僕は一人ボスの間へと急ぐ。ボスの間に近づけば近づくほど魔物の出現度もレベルも高くなる。

 本来の僕なら倒せないような《ブレードウルフ》や《ダガマスゴーレム》などを次々に撃退し、ついに。


「ここがボスの間」


 特に苦労することなくボスの間へと辿り着いた。

 見上げるほどに大きな扉。

 左右には守護者とでも言うのか。獣の像が飾られている。


「……うん。ここの挑戦者は僕が最初みたいだね」


 どういう仕組みなのかはわからないけど、ダンジョンの入り口やボスの間には挑戦回数を刻む石板がある。

 それを見て、自分は何回目の挑戦者なのかを知るのだ。で、ここのボスに挑戦するのは、僕が最初だからまだ数字はゼロのままだ。この中に入れば刻まれる。挑戦一回目と。


「いざ!」


 扉に触れると自動で開く。薄暗い空間の中に入ると、扉がまた自動で動く。

 閉ざされたことで視界が暗く何も見えない状態になるが、すぐ灯りが灯った。


「あれが」


 そして、僕の視界に入ったのは巨大な狼。大きさは、軽く二階建ての家ぐらいはあるだろうか。

 尻尾は二本。毛の色は銀。刃のような角を生やしており、そこからバチバチと火花が散っている。


「《バーンブレードウルフ》!」


 ダンジョンのボスは単騎で倒すのは余程の実力者でも無理だ。それほど強い。だからこそ、あえてボスの間へと入らず途中で帰還する者達も少なくはない。

 無謀にも挑戦して死ぬことがあるとわかっているからだ。そんな相手に僕は単騎で挑んでいる。馬鹿だよね……普通だったらありえない。ただ死ににいくようなものだ。


「でも……この姿だと、不思議と」


 ぐっと握る手に力を込める。


「余裕で倒せるって気になっちゃうんだよね!!」


 テンションを上げて突っ込んでいく。それに呼応して、長剣ぐらいの長さになった剣を一気に間合いを摘めて、横っ腹に叩き込む。


「グオオッ!?」


 ボスが反応しきれていない。すごい! ダメージはちゃんと入っている。倒せる……テンションが更に上がる!


「スキル」


 反撃を容易に回避し、僕は自分の小ささを利用して《バーンブレードウルフ》の腹の下に潜り込む。

 そして、刃に魔力を纏わせ発動する。


「〈ライトニングスラッシュ〉!!!」


 この世界にスキルというものがある。それは神々が与えし戦う力だと言われている。

 僕達はレベルが上がると、それに比例してステータス向上とスキルを獲得する。ステータスは毎回上がるけど、スキルは時々しか獲得できない。最初からひとつは覚えているのだが、僕の場合はちょっと切れ味が増すだけのものだった。


「おぉ……ダンジョンボスをこうもあっさり」


 雷を纏わせた刃の一撃にて《バーンブレードウルフ》は沈黙した。まさか、これほどの威力があるとは。使った僕自身が驚いている。

 なんとなく数多のスキルの中でもかっこいいなぁと思ったものを使ったんだけど。


「経験値がこんなに……やっぱりダンジョンボスともなれば、凄い量の経験値が入るんだ」


 倒したボスがマナとなって四散し、経験値として僕の中に入ってくる。わかる……格段にレベルが上がっているのが!

 ステータスを確認するのは後だ。今は、あの三人が来ない内にダンジョン攻略の証として、ここだけでしか手に入らない宝を入手しないと。


「えっと、あの先にあるんだよね?」


 先にあるのは人が入れる大きさしかない扉。ボスはあそこを守っていることになっている。

 僕は、その扉に触れる。


「あれが宝?」


 扉の向こうには外に出るための転移陣と、宙に浮いている謎の卵。ダンジョン攻略は一番がいいとされる。

 なぜなら、それだけ良い宝が手に入りやすいからだ。


「なんの卵だろ?」


 とりあえず卵を手に取ってみる。普通の卵ではないことは確かだ。紋様が刻まれているうえに、ここまで来て目玉焼きにどうぞ! なんてことはないはず。

 なにはともあれ、僕は卵をポーチにそっと入れて、転移陣へと向かう。どうやら他には宝がないようだな。もうちょっと金銀財宝とかあってもよかったのに……今回はよしとしよう。


「それじゃ、お先に」


 まだボスの間にも辿り着いていないであろう三人に届くはずのない言葉を言い残し、僕はダンジョンの外へと転移した。


「んー! なんて晴々とした気分なんだ!」


 これほど空気がうまいと感じたのは初めてかもしれない。いや、言い過ぎかな? でも、そう思えるほど僕は気分が良い。

 これからは、なるべく僕が生きていることを知られないためにしないと。特にあの三人には。


「さて、まだ余裕があるし、魔物退治にでも向かいますか」


 ダンジョンボスをあっさりと倒してしまった僕は、そのままのテンションで、草原を駆け抜けた。

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