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第二十五話 さすがに

新章開始です!

 ラルクは、ハーバでは死んだと広まっている。広まっていると言っても、僕はそこまで有名な人でもなかったので、ハーバに住む全員にではない。


 だけど、ハーバは僕の生まれ故郷だ。十六年間ずっと過ごしてきた街だ。だから、知り合いも多く居る。

 少なくとも、そんな昔馴染みや、ギルドには僕が死んだと広まっている。


 ラルクは、男として素晴らしい最後を遂げたと……。僕はさほど興味はなかったけど、毎日のように知り合いの様子を見に行くと聞いてしまう。

 どうやら、僕はあの三人を庇って死んだことになっているらしい。魔物からではなく、罠から庇って地の底へと落ちていったと。


 僕の遺品だとかで、ダンジョンの入り口にわざと置いてきたカバンが他のパーティーによって回収。

 今は、一番お世話になったダッドおじさんのところにある。


 そんな僕ですが、ずっとライカとして活動していたけど……まあ、さすがにあれだけの活躍をすれば目をつけられるだろうと、ハーバの領主が住む屋敷前に立ち尽くしていた。

 むしろ遅すぎるぐらいだと思っている。


「主様」

「……行こう」


 ずっと、門を開けて待っていた兵士達に一礼して、僕は足を踏み入れる。

 

「はわわわ……こ、こんな立派なところに入っちゃって良いんでしょうか? 私」


 パーティーメンバーとして、ミィヤとレンも当然同行している。レンは、いつものように凛としているが、ミィヤは自分は場違いなんじゃないかと、びくびくしている。


「大丈夫だよ。ミィヤは、むしろどこかのお嬢様だったって言っても僕は疑わないよ?」

「ええっ!? そそそそんな! それは言い過ぎですよ!!」


 本当のことを言ったつもりなんだけど……。けど、少しは緊張が解れたようだ。最初は恥ずかしかったようだが、今は嬉しそうにしている。


「お待ちしておりました。ライカ様、ミィヤ様、レン様」


 屋敷の入り口まで近づくと、初老の執事が姿を現す。藍色の髪の毛は、邪魔にならないように整え、しわひとつ、染みひとつない燕尾服を着用し、黒渕の眼鏡をかけている。


「失礼ですが、今日はどのようなご用で? 手紙には領主様から話があるとしか書かれていませんでしたが」

「ご用件につきましては、領主様からお話致します」


 まあ、そうなるよね。

 わかりました、と伝え僕達は執事さんの後をついていく。そして、二階へと上がり、また廊下をしばらく進むととある部屋の前で止まる。


「アルサール様。ライカ様ご一行をお連れ致しました」


 と、ドアにノックをして伝える。


「入ってくれ」


 中からは、男の声が響き、執事さんは失礼しますと言って、ドアを開け、僕達を入れてくれる。


「失礼します」

「し、失礼します」

「失礼します」


 中に入ると、豪華な木製の机に領主にしては若いと思ってしまうほどの人物が座っていた。

 けど、僕は知っている。彼は、今年で三十二歳になる。名前は。


「初めまして。ライカくん。そして、お仲間のミィヤくんにレンくん。俺の名は、アルサール。まず、話をする前にかけてくれ」


 僕がソファーに座ると、ミィヤは右隣に。レンは立ったままだったけど、手招きして左隣に座らせる。

 それを確認したアルサールさんは、話を始める。


「君達を呼び出したのは、先日の女性誘拐事件に加え、これまでの活躍を称えて、俺自ら報酬を与えようと思ってな」


 赤い髪の毛をオールバックにし、左目には深い切り傷。服の上からでもわかるほどの筋肉。冒険者や傭兵だと言っても疑われないほどの見た目通り、力強い物言いだ。


「そんな報酬だなんて。僕達は、当たり前のことをしただけですよ」

「ふん。聞いていた通り、働き者のわりには、控えめな性格をしているようだな。聞いたぞ? 自由掲示板で依頼した者が後になって報酬が少なくて提示した分を払えなくなった時があったようじゃないか?」


 あー、あったね、そんなこと。あれは、ミィヤと出会う直前にやった依頼だった。内容は食材を採取。

 とある料理屋が、猪肉の料理を出すとかで、手頃の猪一頭を狩っていったんだけど。そこで、息子さんの借金を肩代わりしてしまって、払える報酬が少なくなってしまったんだ。依頼者も、猪はいらない。それを報酬代わりに! と言ってきたんだけど。


 それにしても、ギルドの依頼じゃないから、こうやって普通に他人に広まっちゃうんだな。

 ギルドだと個人情報保護ということで、護られるんだけど。それに、相手は領主だ。ちょっと調べれば保護されていない情報なんてあっという間に集まるだろう。


「ええ。確かにそんなことがありました」

「それで、報酬はどうしたんだ?」

「……フライパンで手を打ちました」


 僕の答えに、隣に座っていたミィヤがあっと声を漏らす。おそらく気づいたんだろう。

 僕とミィヤが出会った時、使っていたフライパンのことだからね。

 それを聞いたアルサールさんは、くくくと静かに笑っていた。


「まさかフライパンとはな。普通は、猪を貰うところだろ?」

「でも、依頼者は料理人です。料理人にとってフライパンは、商売道具なので、元の報酬と比べれば同等……それ以上の報酬かと思いますが?」


 ちなみに、猪はそのまま置いてきた。報酬はちゃんと受け取ったし、猪を狩ってくるっていう依頼だったわけだしね。


「その後も、放置されていた依頼を次々に達成し、報酬は飴玉だったり、パン一個だったり。ひどいものだと、綺麗な石とかもあったんだって?」


 よく調べてらっしゃる。


「損をしているというのに、よくやるな。……まあだが、そんなお前だからこそ、当たり前のように短い期間でハーバの住民から信用を得られたんだろうな」

「僕は、人助けをしただけですよ。一人の人間として」


 僕の言葉を聞いたアルサールさんは、そうか……と頷き、窓から青い空を見上げる。

 

「……お前のような損をしているのに、人助けをする。そんな奴が一人居たんだ」

「え?」


 突然の言葉に、僕は思わず目を丸くする。

 それってまさか……いやでも。


「ラルク・ホーマースと言う奴でな。冒険者をしていた少年なんだ」


 勘違いじゃなかった。でも、どうしてアルサールさんが僕のことを……。


「本当に偶然だったんだが、俺が街の様子を確認するために、お忍びで出向いた時にな、丁度老夫婦から全力で感謝されていたラルクを見つけたんだ。最初は、どうしてあそこまで感謝されていたのかがわからなかったが、立ち去る時に老夫婦が言った言葉で全てを理解したんだ」


 老夫婦……いっぱい助けたことがあるけど、もしかして。


「こんなひどい報酬なのに、ごめんなさい。私達のためにありがとう、てな。んで、ラルクの手には老夫婦が育てたであろう野菜が何個かあったんだよ」


 やっぱりあの老夫婦だ。あれは確か、今から一ヶ月前だ。お婆さんが大事にしていたペンダントをがらの悪い連中に奪われてしまって、いち早く取り戻したいと思った老夫婦は、自由掲示板に依頼として出したんだ。


 でも、その老夫婦はギルドなどに出すような金を出す余裕がなく、最低限の金しか出せなかったせいで、なかなか依頼を請けてもらえなかった。そこで、僕が偶然困っているお婆さんを見つけて話を聞き、依頼を請けたんだ。


「ラルクは、大分ボロボロだった。どうやらチンピラどもと一人で戦って何とかお婆さんのペンダントを奪い返すことができたみたいなんだ」


 そう。相手は冒険者や傭兵のような強さはなかった。だから、多少は僕の実力でも戦えたけど、数が多くて、途中から袋叩きだったな……まあでも、うまく相手の目を盗んでペンダントは取り返すことができた。で、そのお礼として僕はお金じゃなくて、おいしい野菜を数個貰って帰ったんだ。


「確かに、進んで人助けをする奴はどこにだって居る。けど、ああいう奴は、そうは居ないだろうな」


 まさか、領主に見られていたと思わなかった……。


「だからよ。俺は、どうにかして応援してるぜ! って、伝えたかったんだ。だが、俺は領主だ。個人の感情で、個人に対して援助をすれば他の者に示しがつかない。どうしたものかと、悩んでいたら……」


 さっきまで明るく話していたアルサールさんの雰囲気が変わった。いや、理由はわかる。

 ここに居る誰よりも、僕が。


「知らないかもしれねぇから、話すが……あんなに良い奴が、とあるパーティーの荷物持ちとしてダンジョンに潜っていた時に、その仲間を庇って罠にかかり……死亡したらしい」


 ぐっと拳を握り締めるアルサールさん。ここからじゃ表情は見えないけど、悲しんでくれているのかな……。そこまで僕のことを……なんだか嬉しい半面申し訳ない気持ちだ。

 本当は生きていて、姿を変えてすぐ近くに居るのに、個人的な理由で真実を言えない……。

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