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第十九話 女性達が消えた理由

 ボーナスダンジョンらしき場所から出た僕達は一度ハーバへと戻り、そこで手に入れたスコップと黒い鉱石を鑑定してもらうため鑑定士のところへ急いだ。

 

 だが、そこでわかったのは黒い鉱石のことだけ。

 スコップについては、あまりいい鑑定結果ではなかった。どうやら、ハーバに居る鑑定士では完全な鑑定ができないほどの代物のようで、わかったことは普通のスコップではなく、製法も特殊なものということだけ。


 これ以上の正確な鑑定をするには、もっと上位の鑑定スキルが必要だと言われた。

 ちなみに、黒い鉱石についてだけど。どうやら【黒曜魔石】と呼ばれるもので、闇属性のスキルがより伝達し、威力を倍増させる効果があるようだ。これには、レンは大興奮。


「まるで主様のためにある鉱石ですね! さっそくそれで武器を作りましょう!!」


 と言い出す。

 僕もそれには賛成だが、大きさから考えてギリギリ短剣ぐらいしか作れない。

 まあ、僕の戦い方は相手を速度で撹乱し、切り裂く。なので、長い武器よりも短い方が相性がいいはずだ。


 だが、そこで問題が起こった。どうやら【黒曜魔石】を精錬できる職人は一年前に他界してしまい、このハーバで武器を作るのは不可能なんだそうだ。


 【黒曜魔石】は、普通の鉱石と違い魔力を流し込みながら形にしていく。その技法は普通の鍛冶屋がちょっとやそっと習ったぐらいでは、無理なほど難しいもの。


 じゃあ、しばらくは収納しておこうと思ったところで、レンが何か言いたそうにしていたので、聞いてみるとレンが武器を作ると提案したのだ。鍛冶としての知識や経験はないが、鋼属性スキルで僕のために最高の武器を作りたい! と言う。

 そんなレンに、僕は優しく笑みを浮かべながら【黒曜魔石】をしばらく預けることに。


「期待してるよ。レンが凄い武器を作るって」

「は、はい!! 主様のため、最高の武器を作らせていただきます! その時は」

「うん。大事に使うよ」


 こうして、やることがなくなった僕達は、しばらく街を散歩することにした。

 宿に帰るにはまだ早いし、夕食を食べるのも早い。思っていたより早くダンジョンを攻略してしまったからかな? 一応、あのダンジョンの情報は広めておいた。今頃、冒険者や傭兵達が、我先にと挑戦しに行っている頃だろうな。


「なあ、カトレア達遅くないか?」

「ん? どういうことだ? 帰ってこないのは、まだ依頼途中だからだろ?」

「いや、それがさ。俺も近くで他の依頼があったから偶然見かけたんだけどさ、もうとっくに戻ってきてもおかしくない時間帯なんだよ。もう依頼対象の魔物を倒していたみたいだったし」


 丁度旅商人の露店で、ミィヤが何か珍しいものがないかと立ち止まっている時だった。

 隣にある他の露店で、買い物をしていた冒険者達の会話が聞こえた。どうやら、あの三人は依頼が終わっているのにまだハーバに帰ってきていないようだ。

 まあ、どうせどこかで寄り道でもしているんだろう。


「ミィヤ? 良いものはあった?」

「この食器。猫さんの模様が刻まれていて可愛いんですよ!」

「それは、白猫族が作った皿なんだよ、お嬢ちゃん。私も可愛いと思ってね。何枚か買い取ったんだよ。どうだい? 気に入ったのなら、三枚セットで五百ウルムで売るよ」


 一枚二百ウルムだから、百ウルム得することになる。素人目から見てもかなりの作り込みってことはわかる。

 だから、それなりに高いというのは納得だ。それをセットで買えば百ウルムも安くなる。これは……。


「はい! 買います!!」


 ミィヤは迷いがなく三枚セットで猫の模様が刻まれた皿を購入した。そして、これからはこの皿を仲良く使いましょう! と満面な笑顔で僕達に言った。



・・・・・



「おい! そろそろ帰ろうぜ! これ以上は何も見つからねぇって!」


 大剣を背負った大男の冒険者が、青年冒険者へと叫ぶがまるで聞こえていないかのように必死に周囲を探している。

 茂みをかき分け、髪の毛に葉がつこうとも、頬が傷つこうともお構いなしに。

 そんな青年の気持ちがわかる大剣使いと数人の冒険者も頭をかく。


「気持ちはわかるけどよ。これだけ探しても見つからねぇんだ。日もそろそろ沈んでくる。後は明日に」

「だめだ。早く……早く見つけてやらないと! もう三日なんだ!!」


 青年達が探しているのは、青年の幼馴染みであり、パーティーメンバーの少女だ。

 今から三日前に、依頼で薬草を採取に来ていたのだが、効率を考えて分かれて採取することにした。この辺りには差ほど強い魔物を出現しないため、幼馴染みの少女も了承した。


 そして、目的数を採取したため少女を探したのだが……どこにも見当たらない。大声で叫んでも、答えてくれない。青年よりも彼女の方が強いため、そう簡単には魔物にやられることはないと思っていた青年だったが。


「くそっ!」


 ぎゅっと右手に握りしめられている少女がつけていたリボンが無造作に落ちていたことから、青年は焦った。

 日が暮れるまで探した。だが見つからない。そんな中で出会ったのが今、一緒に探してくれている冒険者達だった。事情を聞いた冒険者達は、ギリギリまで探したがどこにも少女の姿はなく、一日目が終了した。それから二日が経っているが、手掛かりすら見つからない状態だ。


「ねぇ、もしかしてあの噂が関係しているんじゃないかしら?」


 と、そこで弓使いの女性がぼそっと呟く。


「噂話って……まさかあの女性ばかりが行方不明になっているっていう、あれか?」


 魔法使いの男が続けて、話すと青年はぴくりと体が反応する。


「そういえば、ちょっと前から女性。しかも冒険者や傭兵ばかりが行方不明になっているって街で広まっていたな……」

「……どこだ! どこに居るんだ!」


 それを聞いた青年はより一層焦りを見せる。余計なことを言ってしまった三人は反省しつつ、また手分けして探すことになった。

 すると。


「何しやがる!!!」


 突然大剣使いの声が森中に響き渡った。何事かと、青年と魔法使いの男が走る。

 そこで見たのは、弓使いの女性を庇いながら大剣を抜いた大男の後ろ姿と……。


「こいつは……《ゴブリン》!?」


 三体の《ゴブリン》が死体となって転がっている光景だった。死体はすぐマナとなって四散する。

 

「おい! 何があったんだ?」

 

 魔法使いの男が大剣使いに聞く。どうやら弓使いの女性は気絶、いや何か意識が朦朧としているようで、目が虚ろの状態だ。


「わからねぇ。だが、魔物の気配を感じてこっちに来てみりゃあ、《ゴブリン》どもがこいつを連れ去ろうとしてたんだよ」

「じゃあ、女性の行方不明事件の犯人は《ゴブリン》だっていうのか?」


 確かに《ゴブリン》は、繁殖するために村や旅人など。女性ばかりを襲い、無理矢理犯すのは常識だ。

 だが、今回襲われた弓使いは気配察知能力ならばこの中ではトップクラス。そして、遠距離職とはいえ近接戦闘もそれなりにできる。《ゴブリン》が三体襲ってこようとも負けないはずだとパーティーメンバーの二人は知っている。


「それはわからねぇ。だが、無関係ってことはねぇだろうな」

「それに、この状態も気になる……まるで幻術にでもあったかのような状態だ」


 《ゴブリン》の中には術を使う《ゴブリンメイジ》や《ゴブリンシャーマン》が存在する。だが、大剣使いは駆けつけた時にそんな奴は居なかったと断言。

 

「とりあえず、こいつが正気に戻ったら何かがわかるかもしれねぇ。捜索はそれからでいいか?」


 と、大剣使いが青年に問うと。


「……わかり、ました」


 今すぐにでも再開したい気持ちを抑え込みながら返事をした。

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