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第一話 絶望から希望へ

 宿に戻るといつものように受付のおばさんが挨拶をしてくれる。けど、それすら反応ができない。

 部屋に入り、すぐベッドへと倒れた。


「……じいちゃん。僕が今までしてきたことって、何だったんだろう」


 死ぬ間際に授けられた不思議な筒を手に呟く。

 剣の柄に見えなくもないが、それにしては軽すぎる代物だ。すごく大事なものだって昔から言い聞かせられていたんだけど、正直どういうものなのかはさっぱりだ。


「思いたくないけど、女が怖くなったよ僕。あれが、女の本性ってやつなのかな……」


 これからどうすればいい? このまま午後まで待ってもダンジョンの最深部に取り残されるだけだ。

 どんな方法でくるのかはわからないけど、確実に言えるのは僕の命がこのままでは危ないということ。


「……あっ、そういえば」


 そこで、僕はじいちゃんが筒を渡す時に言い残した言葉を思い出す。なにか困った時、どうしようもなくなった時は、この筒の中身を見ろって言ってたんだった。


「筒の中身って言っても……ここかな?」


 蓋のような部分をいじっていると、くるっと回った。そのままくるくると蓋を回し、筒の中身を確認する。


「紙?」


 入っていたのは一枚の紙だった。どうやら手紙のようだけど……なになに?


「この筒に息子を入れて抜け」


 ……意味がわからない。それでどうやってこの状況が変わるっていうんだ、じいちゃん。それに、僕はそういう変な性癖はないよ。

 しかし、今の僕は若干おかしくなってしまっていた。誰もいない部屋で紙に書かれていることを実行する。


「えっと、これでそのまま筒を抜けば、いいんだよね?」


 まったく意味がわからないが、じいちゃんが言ったことに今ままで嘘なんてなかったし、かなりおかしいことをやっているけど……。 


「そーっと」


 一気に抜くのは怖かったので、ゆっくり筒を動かす。

 そして、少し動いた刹那。


「うわ!?」


 股間から眩い光が溢れ出す。直視していた僕は驚きのあまり目を瞑ったまま勢いよく筒を引き抜いてしまった。


「……なにがーーーえっ!?」


 光はすぐに収まったので目を開ける。

 するとそこで目にしたのは……ナイフほどの刃が生えた筒だった。


「え? ちょ、なにが……なに、が……」


 あれ? というか声がかなり高くなっているような。それに、視線の高さも若干低いし、ニーソ? スカート? ……ま、まさか!

 嫌な予感がした僕は、慌てて部屋にあった鏡で自分の姿を確認する。


「えぇー……」


 そこに映っていたのは、見慣れた僕の姿ではなく……銀髪ツインテールの幼女だった。

 くりっした赤い眼に、ぷにっとした頬。赤いリボンが胸元についた白いシャツに袖がぶかぶかなフードつきの上着。髪の毛を留めている部分には……金色の玉が左右にひとつずつ。

 これが今の僕、なのか? 


「い、いやいやない。ないでしょ。性別が変わるなんてそんな」


 しかもそのなり方がおかしい。僕の予想が正しければ、あの筒に僕の息子を入れることで、刃と化す。息子がなくなったということで、僕の性別は女に。


 あ、ありえない。こんなこと絶対ありえない。じいちゃんがこれを作ったのか? それともどこからかの掘り出し物? どちらにしろ、落ち着かない。

 それになんだろう……体から沸き上がるこの感覚は。


「……ふう」


 どうも落ち着かない僕は、街の外に出た。

 宿から出ていく時も、街を移動している時も視線が集まって恥ずかしかった。別に自分が女になったのがばれたわけではないのだろうが、どうにも注目されるのに慣れていないのでそわそわしてしまったのだ。


「この感覚、もしかしたら」


 沸き上がる感覚の正体を確かめるため、僕は魔物を探す。街から少し離れた北側の平原。そこの魔物はさほど強くなく初心者でも危なげなく倒れる。

 戦いの才能がない僕にだって。


「いた」


 探し出して数十秒ほどで魔物を発見する。《スライム》だ。液体化状の体で、攻撃力も低く、動きもそれなりに鈍いので、魔物との戦闘に慣れるにはもってこいの相手だ。

 普段でも一撃で倒せるけど……よし。


「ーーーえ?」


 軽く。そう軽く踏み込んだだけだった。それなのに、対象から大きく離れた場所にいつの間にか移動していた。本当だったら近づいて切りかかる予定だったのに。


「も、もう一度!」


 今度はゆっくり近づいていく。そして、気づいた《スライム》が飛びかかってくるのを利用して……切り裂く。

 《スライム》はあっさりと倒され、マナとなって消えていく。やっぱりこれぐらいじゃ実感が湧かない。もう少し強めの敵を探そう。


「あれは」


 そんなこんなでまた魔物を探すと今度は《ウルフ》を発見する。普段の僕だったら結構被弾して、やっと倒せるほどだけど。


「いぃっ!?」


 また軽く踏み込んだだけで、かなりの距離を移動する。しかも今回は《ウルフ》へと突撃してしまっているではないか。このままではぶつかってしまう。

 僕は咄嗟にナイフを振りかざし、まったく僕に気づいていない《ウルフ》へと振り下ろした。


「へぶっ!?」


 勢い余ってころころと転がるも、すぐに立ち上がる。切った感覚がなかった。もしかして、攻撃が外れた? 

 ……いや違う。切った感覚がないほど切れ味が凄まじかったのだ。《ウルフ》が居た場所を見ると、今まさにマナとなって四散しようとしていた。


「やっぱり僕……強くなってる?」


 さっきまで僕が居た場所を確認すると、どれだけ強い踏み込みだったのかがわかるほど地面が抉れている。

 そして、手に持っているナイフも凄まじい切れ味だ。


「はは」


 自然と笑みが零れる。まだだ……まだやれる。試したい。時間は二時間もあるんだ。

 僕は駆ける。ナイフを片手に銀髪ツインテール幼女の姿で。


「はあ!」


 次々に魔物を切り裂いていくと、僕のテンションも上がっていく。


「うわ!? や、刃が伸びた?」


 すると、ナイフぐらいだった刃が短剣ぐらいまで伸びたじゃないか。ど、どういうことだ? あっ、そういえばこれについている刃って……。


「……せいやあ!!」


 考えるのを止めた。正直なんで伸びたのかは理解できたけど、なんか言葉にしたくない。

 僕が興奮すると伸びる刃。元々があれだったわけで、まあ言わずもがなってやつだ。そんなことよりも、今は魔物を一人で倒せる高揚感を味わいたい。切って、切って、切りまくって……小一時間経ったけど、まったく疲れていない。


「刃こぼれも全然してない……というか、血がまったく付着していない」


 なんだか長剣ぐらいまで刃が伸びてるし。何なんだこの剣、というか筒? いや力か?

 僕にこんな力があったなんて……もしかして、じいちゃんは知ってた? だからあんな筒と手紙を残したのか? それにしたって、あんな力の解放の仕方じゃなくても……。

 それになんで幼女なんかに。色々と謎が残ってるけど、今はよしとしよう。


「さて、結構倒したしステータスを……なっ!?」


 一息ついたところで、自分のステータスを確認したらまたもや衝撃が襲う。なんと、ステータスがオールSだったのだ。

 体力、筋力、防御、魔法、俊敏、さまざまなステータスがSになっている。僕のステータスは元々がEやFばっかりだった。ぎりぎり筋力がDだったけど。今のステータスは異常だ。

 現在世界最強である神聖騎士の三つが最高なので、こんなステータスは異常としか言いようがない。


「僕、やっぱりおかしくなっちゃったのかな?」


 このステータスを、誰かに知られたらどうなってしまうか。そもそも男が幼女になっている時点でおかしいっていうのに。

 更にそのなりかたがなぁ……絶対人には言えないぞ。

 いろんな意味で。


「それにしても」


 僕は自分の姿を再度見詰める。


「どうやって元に戻るんだろ?」


 それである。このままでは、時間になってしまう。正直行きたくないけど、彼女達は僕にあのことがばれてないと思っているようだし。


「……これを戻せばいいのかな?」


 と、僕は刃がナイフぐらいまで戻ったそれを見詰めながら、股間へと近づける。

 が。


「無理! 無理無理!! こんなの刺したら死んじゃうって!!」


 怖くなった。だって考えてみてよ! 刃物を刺すんだよ? そりゃあ、誰だって怖くなるって。

 けど、これしか方法がないんだよなぁ……。


「だ、大丈夫。大丈夫……! 怖くない……怖くない……!」


 僕は恐怖と戦いながら、ナイフを恐る恐る股間へと近づけていく。これ、他人から見たら幼女がナイフを自分で股間に刺そうとしているようにしか見えないよな絶対。

 まあその通りなんだけどさ。


「うっ!」


 スカートの上からナイフの先っちょが触れた瞬間。


「ひゃっ!?」


 あの時と同じく眩い光が放出される。思わず可愛い声を出してしまったのは忘れよう。


「……おぉ」


 元に戻っていた。手には刃が消えた筒が握られていた。ステータスも一応確認する。

 ……よかった。いつもの、というわけじゃないな。さっきの姿で魔物を倒しまくったから、経験値が入ってレベルが上がったんだ。ステータスも俊敏がDに上がっている。


 これは中々いいレベル上げ方法かもしれない。オールSの姿で魔物を倒してレベルを上げれば、こっちの姿でも大分楽に戦える。それに戦闘の経験だって多く積める。


「これで、いつ置いていかれても大丈夫、だよね?」


 僕は、息子が露出されていないかを確認してから、街へと戻っていく。

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