第十五話 主様のために
「いらっしゃいませ! 団体様ですね?」
僕は今、接客をしている。
しかも、元の姿ではなく幼女の姿でだ。ミィヤも、レンもそれぞれ厨房や接客と仕事に勤しんでいる。
なぜこんなことになったのか。
それは、今から一時間前のことだ。レンが仲間になって、より楽しい日々が続いていた昼時。
今回は料理店で食べようと言うことになり、ある店に入ったのだ。
僕が五歳の時から営業しているところで、豚肉料理が美味しい。
肉の味付けに使うソースは、店長秘伝のものを使っているらしく、少し匂いが強いけど、癖になる味でじいちゃんと一緒によく来店していた。
じいちゃんが死んでからは、まったく来なかったので、本当に久しぶりだ。
店に入ってから、あのソースの匂いが鼻にきて、顔に出さないようにしているけど、うきうきしていた。そして、三人一緒に同じ料理を注文し、さあ食べよう! といつもならふーどを被ったまま食べていた僕だったが、テンションが上がっていたせいか、フードを脱いでしまったのだ。
正直、僕的には全然気にしないことだったが、ウェイトレスをしていたお姉さんが、僕を見て硬直したのだ。
ウェイトレスのお姉さんは、フードを脱ぐ前から僕達を見ていたのだが、フードを脱いだ瞬間、行動に入った。
「お、お願い!! 今日、人が足りないの! お給金はちゃんと出すから手伝って!!」
と、客として来ていた僕達に頭を下げてきた。話を聞くと、どうやら今日のシフトだったはずの三人が奇跡的に体調不良で働けなくなったそうなのだ。
これから、店が混むというのに、厨房に二人、接客は一人と圧倒的に足りない。しかも、今日は工事を終えた大勢の男達が肉を食いにやってくるんだそうだ。数にして、軽く二十を越えるそうで……。
確かに料理も接客もできなくはないけど、なぜ自分達なんだ? と、お姉さんに問うと肉体労働を終えた男達に癒しを与えるべく、店で雇っている中でも可愛い子達で、接客をすることになっていたらしい。そこで、僕達が適任だと思ったそうで……店長まで頭を下げる始末。
しかも店長は、どうやらこの前依頼で手伝ったことのある料理人から、たまたま僕達の話を聞いたらしく……素人ではないから任せられる! と豪語した。
僕としては困っている人を放っておけない。それに馴染みがある店ということもあり、まず二人に確認をしてから、今現在働いている。
僕とミィヤは、接客を。レンは厨房を担当することになった。厨房には店長も居るので問題はない。
「お待たせしました。豚肉のグーステーキ三つです。お熱いので、火傷に気をつけてお食べください」
「おっしゃあ! きたきたぁ!!」
「お嬢ちゃん可愛いね。小さいのに働き者とは!」
「クールなところと、銀髪がいい! 服も可愛いし、癒されるぜぇ……!」
「あ、ありがとうございます」
普通に接客するなら良いんだけど、この姿では接客するのは慣れてないからちょっと緊張する。
ちなみに、この姿で着替えができるのか? という疑問は、すでに試してあるので、問題なくウェイトレスの衣装に着替えている。とはいえ、やっぱり女の子の服は落ち着かない。
「ご注文がお決まりでしょうか?」
「おう! 当然豚肉のグーステーキを貰うぜ!」
「大急ぎで頼むぜ! 青髪の嬢ちゃん!!」
「はい! 少々お待ちください! 豚肉のグーステーキ二つ! ご注文入りましたー!」
ミィヤも、こういうことには慣れているのか。テキパキ働いている。僕も頑張らないとな。
「主様! ステーキが焼き上がりました!!」
「わかった!」
そういえば、レンのことだけど。僕の記憶の集合体ということもあり、料理の腕もかなりのもの。
一度もやったことがなかったはずなのに、店長に褒められるほどの腕だ。焼きが大事な料理なので、慣れていなければ焼きすぎたり、生すぎたりで、大変になるのだ。
「やっぱり私の目に狂いはなかった……!」
僕達の働きに、勧誘したウェイトレスのお姉さんが感動しているけど……できれば、感動してないで働いてほしいんですが。
それから、大所帯を捌ききった僕達は感謝の言葉と働いた分の給金を貰って店を後にする。
「まさか、食べに行っただけなのに、こんなことになるなんて……ごめんね? 二人とも。巻き込んじゃって」
「いえ! これも生きるための経験だと思えば、どうってことはありません! それにああいった仕事は私に向いていますから、楽しかったですよ? 制服も可愛かったですし」
「主様のお役に立つ。それが私の最高の喜び。謝る必要などありません!!」
本当、二人は僕なんかには勿体ないぐらい優しい子達だ。それに、ミィヤの場合は、自分でも言っていたようにああいう安全で、人との触れ合いがある仕事の方が向いている。
荷物持ちとして雇っているけど……今、ミィヤは幸せなんだろうかと、つい考えてしまうことがある。
「あっ! レンちゃん! あそこを見て!!」
「あそこ?」
大通りへと出たところで、ミィヤが突然叫び出す。どうやら、レンに見てほしいものがあるようだ。
この辺りに何かレンの興味を引くものや店があっただろうか?
僕も気になって視線を送ると……それを見たレンは静かに殺意を向けていた。その理由は、明白。
大通りにあったのは、居たのはあの三人だった。
どうやらこれから何かの依頼のために外へ向かう様子。まるで、英雄の出立かのように、人々は三人を見送っていた。
「レンちゃんは、こうして見るのは初めてですよね? ライカさんの記憶があるから知っているとは思いますが、あの人達がこのハーバでも大人気の美少女パーティーです! いくつもの難しい依頼を三人だけで達成していて、先日三人同時に冒険者ランクがBに上がったそうなんですよ!!」
ミィヤの興奮具合を見ればどれだけ彼女達に憧れているのかがわかる。けど、そんな中レンは、僕にしかわからないような静かな殺意を出しつつも、短くそうですか……と、答える。
三人の姿が見えなくなった後、ちょっとした休憩も兼ねて僕達は宿へと戻っていく。
ミィヤと分かれ、レンと二人で部屋に入った僕は、しばらくの沈黙の後、重く閉ざされた口を開く。
「レン。僕はずっと聞こうかどうか、悩んでいたんだけど……さっきの殺意で理解したよ」
レンと視線を合わせ、僕は問う。
「君は、元の姿の僕の記憶も知っているんだね?」
「はい」
即答だった。こんなにもあっさり答えられると、今までも悩んでいた僕はなんだったのかと思ってしまう。
けど、それと同時になんだか安堵している。
僕は、レンの答えを聞いて元の姿に戻った。
「じゃあ、僕が本当は弱い存在だってわかっていて忠義を尽くしてくれてたの?」
「主様は弱い存在などではありません」
いや、僕は……元の僕は弱い。レベルが上がってもステータスがあまり変わらないし、新しいスキルだって全然と言っていいほど覚えない。幼女の姿になれなくなった時のために、元の姿でも努力はしている。しているけど……それに精神的にも。レンは、僕が産み出した存在だ。だから、僕がこんなにも慕ってくれる存在を心のどこかで欲していたのかもしれない。
「例え、主様がご自分を弱い存在だと肯定したとしても、私は主様のために働き、主様のお側にずっと居ます。それが私の存在意義なのですから」
この笑顔も、言葉も、僕の願望がそうさせているのかもしれない。
「……」
そんなレンにどうしてそこまで? と問おうとした。けど、彼女の真っ直ぐな目を見て、言葉を飲み込む。
そして、凛とした姿のレンに近づき僕は。
「ありがとう、レン」
「わふっ!?」
感謝の言葉と共に、抱きついた。
僕自身、力を手に入れてから、まだ全然理解していない。もしかしたら、僕はこの世界にとっての驚異になるかも知れない存在かもしれないのに……。
それを理解したうえで、レンは僕の側に居てくれると断言してくれた。僕の記憶を持っているため、より一層理解してくれているのかもしれない。ずっと僕が不安を胸に生きていたことを……。
「あ、主様ぁ……!」
嬉しさのあまり、数分ほど抱き締めていた。レンもずっと僕のことを受け入れてくれていたようだけど、ついに堪えきれず絞り足すように声を発する。
ハッと我に返って僕は慌ててレンから離れる。
「ご、ごめん。つい嬉しくなって……だ、大丈夫?」
「は、はいぃ……大丈夫、れす……」
余程恥ずかしかったのか。顔を真っ赤にして、腰が抜けた感じに座り込むレン。
その姿を見て、僕も急に恥ずかしくなり、ミィヤが訪ねてくるまで、無言の空気が続いた。




