第十四話 忠実なる下僕
「それで、色々と聞きたいんだけど……まずは、レンって何者なの?」
「はい! 私は主様の忠実なる下僕! 主様がこれまで取得した経験値と記憶の集合体でございます!!」
ダンジョンで手に入れた謎の卵から生まれた女の子レン。とりあえずミィヤの替えの服を着させて、話を聞くことにした。
どうやら、僕がこれまで獲得してきた経験値、それに記憶が卵へと吸収されていたらしく、その集合体とのこと。卵の中は、最初から決まった形はなく、最初に手に入れた者の行動によって善にも悪にもなるらしい。
「まさか、そんなに凄い卵だったなんて……」
「つまりレンちゃんは、ライカさんの子供、みたいな存在なんでしょうか?」
この歳で、十代ぐらいの子供はさすがに……というか、今までの経験値と記憶か。
まさかとは思うけど、元の姿の記憶とかも反映してないよね? 凄く気になるけど、今はよそう。
「それで、レンはこれからどうするつもり?」
「もちろん主様と行動を共にします!」
「仲間が増えますよ! ライカさん!!」
「まあ、拒否する理由もないしね。じゃあ、これから一緒に行動するにあたってレンの適正属性やスキルを教えてくれるかな?」
「はい! 私の全てをお教え致します!!
レンの適正属性は世にも珍しい鋼属性だと言う。鋼は、僕の雷属性よりも適正者が極端に少ない属性のひとつ。
その特性として、体を鋼の強度にしたり、触れたものも鋼と化すことができる。それだけではなく、一瞬にして武器や防具などを作ることもできる。つまるところ職人泣かせの属性だ。鉄や鉱石など苦労して精錬している間に、スキルひとつで生成してしまうんだからなぁ……僕も鋼属性の適正者に会うのは初めてだ。
しかも、鋼属性だけでも珍しいのに、次に告げた属性なんて聞いたこともない属性だった。
獄炎属性。
レンの説明によると、地獄の炎を操る属性だという。通常の炎よりも火力が尋常なものではなく、触れただけで全身が燃え、そう簡単に鎮火できないんだそうだ。
確かに、地獄の炎は罪人の罪と魂を燃やし尽くすためのものだってこの世界では伝わっているほどだけど。
そんな炎を操る属性とは……本当に規格外な存在だ。
本当に僕の経験値と記憶の集合体なんだろうかと疑問に思ってしまうほどに。
「よし。それじゃあ、レンの実力を知るために街の外に出よう」
「必ずや主様のご期待に応えてみせます!」
「張り切りすぎて、周りに迷惑をかけないようにね?」
「はい!!」
返事は良いけど……だ、大丈夫かな?
「おや? ライカちゃんにミィヤちゃん。今日も朝早くから仕事かな?」
階段を下りると、この宿の主であるダッドおじさんが話しかけてくる。小太りな体型で、ちょっと毛深い笑顔が似合う人だ。
実際優しい人で、親戚のおばさんであるナーサさんと一緒に細々と宿を経営している。
「はい。今日も生活のために稼ぎに」
「小さいの凄いねぇ……おや? 後ろの子は」
「この子は、今日から新しく僕達と行動を共にすることになった」
「レンと言います」
そうそう。レンの身長だけど、生まれる時に僕の身長を越えないような大きさに調整したんだそうだ。
レンの内に溜まっているマナ量だと、もっと大きな姿になれたそうだけど……レン曰く、主を見下すわけにはいきません! なんだそうだ。
「もしかして、獣人の子かい? これまた小さなお仲間さんが増えたね、ライカちゃん」
ミィヤは、歳とドワーフ族ってことで仕方ないけど。僕にいたってはどうしてこんな小さな体になってしまったのか、未だにわからないままなんだよね……。
レンは、生まれたばかりだし、僕より小さいのは当たり前、なのかな? 他人から見たら、絶対子供の集団にしか見えないよね。
「今日はどんな依頼があるかな」
宿から離れた僕達は、一度自由掲示板へと向かい、依頼書の確認していた。
そんな時だ。気になる話が耳に入ってきた。
「おい、まただぞ。これで四人目だ!」
「マジかよ。一人目だってまだ見つかってないんだろ? マジでどうなってるんだ……」
なんだろう? 誘拐事件でも起きてるのだろうか?
話していたのは、どちらもギルドで見たことのある冒険者達だった。
「しかも、今回消えたのは俺のパーティーメンバーだ。ちょっと別行動をしている間に……!」
「女ばかりが誘拐される……けど、四人とも女って言っても冒険者や傭兵だ。そう簡単に誘拐されるはずがねぇよ」
「けど、現に誘拐されてるじゃねぇか? たく! ギルドは何をしてんだ! もう報告はされてるはずなのによ!」
「お、おい。落ち着けって」
どうやら、女ばかりが最近何者かに誘拐されているようだ。それも、ただの女ではない。
冒険者や傭兵。
戦える女達ばかりだそうだけど……それほど強い奴が誘拐しているのか、それとももっと別の。
「ライカさん? どうかしましたか?」
「ちょっとね。さて、今日は朝にできる依頼はないようだし。昼間まで外で体を動かそうか。レンの実力を知る予定だったし」
さっきの話は気になるけど、まだ情報が少ない状態じゃ動きようがない。ギルドもそう思って情報を集めている最中なんだろう。
最低限の物を持って、僕達は街の南へと向かう。
レンの実力を見るには森などは危険だ。
獄炎属性のスキルがどれほどの威力なのかが不明なうえに、森が焼けてしまう。
なので、何もない平地が広がる南に訪れた。
「んー? 魔物は……見当たらないね」
いつも魔物が居るわけではないので仕方ないんだけど。
そのためちょっとしてピクニックになっている。気分が良いから、このままでも良いんだけどね。
「主様。魔物が居ません! このままでは主様に私の実力が見せられません! ど、どうしましょう!?」
どうにかして僕に自分の実力を示したいのか。ひどく慌てている。凄く可愛いから、しばらくはこのままにしておきたいけど。
今回の目的はレンの実力を見ることだ。
このまま魔物が出ないとなると……うん。
「じゃあ、僕と戦おうか」
「そそそんな! 恐れ多いです!! 嬉しいお誘いですが……あぁでも主様に反旗を翻すことになってしまう! でも、主様と戦うなんて……!」
「か、可愛い……!!」
うん、確かに可愛い。レンとしては、僕と戦うのは下僕として恐れ多いと思っているようだ。しかし、それと同時に本当は戦いたい。でも、恐れ多い。けど、これは主に反抗することになるのでは?
今、レンの頭の中では、そんなことがぐるぐると渦巻いているのだろう。真面目に悩んでいるところ悪いんだけど、僕とミィヤはそんなレンの姿を見て、ほっこりとした気持ちになっていた。
なぜかって? 彼女の表情がころころと変わったり、それに同調して耳や尻尾が動いているからだ。
「はっ!? この気配は魔物!!」
しばらくレンの可愛い姿を見守っていると、魔物の気配を感知したレンがこれは好機と笑みを浮かべる。
「主様! 特とご覧ください!! 私の実力を!!」
「うん。ちゃんと見てるから、慌てなくてもいいよ」
まるで、覚えたてのものを親に早く見せたい子供かのように、キラキラした目で魔物が居る方向へと走り出そうとするレン。
これには、僕もミィヤも微笑ましくなってしまう。
「あれは《ロックビースト》だね」
視界に映ったのは、ころころと転がっている獣。
岩のように硬い体を持ち、小さな体を丸めて転がりながら攻撃してくる魔物だ。
岩場やこういった平地などによく生息している。
「《ロックビースト》ですね。あの魔物は結構硬いですから、レンちゃんの鋼属性のスキルを見るには丁度いいんじゃないですか?」
《ロックビースト》は、僕もかなり苦労した記憶がある。あの頃の僕は攻撃したのにも関わらず、逆に吹き飛ばされたんだよなぁ……。で、結局倒せず、刃をボロボロにした挙げ句に体まで傷だらけになって……。
「主様! 今からあの魔物を一刀にて両断して見せます!!」
「お手並み拝見」
僕の期待に応えるべく、レンは一人走り出す。
レンの接近に気づいた《ロックビースト》は、丸くなって攻撃を仕掛けてきた。
「〈獄炎刃〉!」
一閃。
黒き炎が刃と化し、飛びかかってきた《ロックビースト》を本当に一刀にて両断した。
両断された《ロックビースト》は天にまで上るんじゃないかと思うほどの黒炎に焼かれ、消滅した。強い。これが獄炎属性のスキルか。確かに強いけど……。
「主様! 主様!! どうでしたでしょうか!? 私の強さは!!」
まるで褒めてほしいかのように、近づいてくるレン。まあ実際尻尾を大きく左右に振っているから、そうなんだろう。
「凄いよ、レン。これなら僕も安心して戦闘を任せられるよ」
と、頭を撫でると。
「か、感謝の極み!!!」
恥ずかしそうだが、本当に嬉しそうに尻尾を振る。
「か、可愛い……!!」
その可愛さにミィヤも思わず声に出てしまう。可愛い、うん可愛いけど……。
(自重を覚えるように教えないと、かな?)
未だに火柱が立っているのを見て、僕は決意するのだった。




