第十一話 特異スライム
「ここは街の外だ。何があってもおかしくねぇ」
「つまり、僕達は魔物にでもやられて怪我をしたとでも言うつもり?」
「ああ。つーわけだ。今回は容赦なく行かせてもらうぜ!!」
男の指示で周囲の男達が一斉に飛びかかってくる。人数はざっと数えて十人。
もっとも目視できる範囲で、だけど。〈生命探知〉で、他六人ほどが身を隠しながら移動しているのがわかる。こっちで相手にしている間に、背後でもとろうと言う魂胆なんだろう。
「ミィヤ。そこから動かないように」
「はい! 頑張ってください! ライカさん!!」
ミィヤのことは金の玉達が護ってくれる。だから、僕は目の前の相手に集中だ。
「おらあ!!」
まず切り込んできたのは、斧を持った丸刈りの男。かなり大振りだったので、余裕で回避し、軽く横っ腹を蹴り飛ばす。
「ぐあっ!?」
「この!!」
攻撃した後がチャンスだと思ったのか。間髪いれず、剣を持った短髪の男が切りかかってきた。
「残念賞」
「ぎゃっ!?」
「はい、君も」
「うぎゃあ!?」
「そっちの彼も」
「いでぇ!?」
次々に襲ってきた男達を一撃で撃退していくと、背後に回り込んでいた六人が僕のことを健気に応援してくれていたミィヤへと襲いかかろうとする。
「隙だらけだぜ!!」
何が隙だらけなものか。
「ぐあっ!?」
「ふごおっ!?」
最初にミィヤへと飛びかかった二人を金の玉達が容易に吹き飛ばした。人だった場合は死なない程度に攻撃せよと命じてあるので、茂みの中へと突っ込み、そのまま気絶した。
「な、なんだあの金玉は!?」
「あのフードが動かしているのか? けど、あいつは今、あっちに集中してるし……どうなってんだ?」
ただの自動迎撃する金の玉です。
「人質にでも取ろうとしていたみたいだけど、残念だったね」
更に二人ほどを蹴り飛ばし、高みの見物を決めている槍使いの男へと言う。そういえば、名前なんて言うんだろ?
「お、おい! ガルマ!! やっぱりこいつ強いぜ!! 俺達じゃ敵う相手じゃねぇよ!!」
あっ、ガルマって言うんだね。まったく歯が立たないのを理解したのか、腹部がふっくらと膨らんでいる棍棒を持った男が叫んだ。
それを聞いた槍使いの男ガルマは、舌打ちをする。
「うるせぇ! てめぇら、揃いも揃って情けねぇ……」
イライラしているようで、槍を肩にとんとんと弾ませ、僕を再び睨む。
「俺もやる。てめぇら! その青髪の女に構うな!! 四方八方からフード野郎に攻撃だ!!」
ついにガルマも戦いに参加するようだ。ミィヤを狙っていた男達も、ガルマの指示にミィヤを無視して、僕を取り囲む。
「さあ、動けねぇように、足の一本でも切り落としてやんよ!」
そんなことをしたら、出血多量で、下手したら死んじゃうことになるんだけど。
目的を忘れていないよね? あの人。
「やれぇ!!!」
逃げ道がないほどの包囲網だ。普段の僕だったら、死を覚悟している状況だけど……。
「〈ライジングステップ〉」
一人、また一人と常人では考えられない速度で攻撃を回避しながら、雷を纏った打撃を与えていく。
それは一瞬の出来事に見えるだろう。
「なっ!?」
そして、最後にガルマへと急接近して立ち止まると、一斉に男達が倒れる。
「後は、君だけだよ」
「この! 化け物がぁ!!」
槍では距離が近すぎる。そのため、懐に潜ませていた短剣を僕へと振り下ろしてきた。
「ごはっ!?」
が、それよりも早く強烈な蹴りを腹部へと与える。ガルマは姿が見えなくなるほど吹き飛び、僕は息を漏らす。
「さて、この人達の処理どうしようかな?」
周囲を見渡せば、倒れた男達がちらほらと。襲ってきたとはいえ、このまま放置しておくのは、後味が悪い。
放置をすれば、《スライム》などの魔物の餌になること間違いなし。
とりあえず首謀者であるガルマを拘束してから考えるか。
「ら、ライカさん。この後は、どうするんですか? ハーバの警備兵さん達に、このことを伝えますか?」
「そのつもりだけど、まずはさっき吹き飛ばしたガルマって男を」
「ぎゃああああっ!?」
なんだ? この尋常じゃない叫び声は。
吹き飛ばされた方向……ガルマの声だ。〈生命探知〉で確かめたところ、大きな反応があった。
これは魔物? まさか吹き飛ばされた方向に丁度よく大型の魔物が居たなんて……けど、なんですぐ気づかなかったんだ? もしかして、身を潜めていた? まあともかく、助けることになるけど行かないわけにはいかないよね。
「さっきの人ですよね? な、なにか遭ったんでしょうか?」
「大きな生命反応があるから、魔物に襲われたんだと思う。行こう、ミィヤ」
「はい!」
ガルマが吹き飛ばされた方向へと移動をすると……とんでもないものを目にした。
まず、目に入ったのは透明な体。
ただ透明なというわけではない。まるで硬化しているかのような角張があり、見上げるほどの大きさ。
「魔物? 見たことがない奴だ……」
《スライム》に見えなくもないけど。こんな《スライム》は見たことがない。いや、《スライム》はどんな環境にも適用し、日々新種が増え続けていると言われる魔物だ。
そう考えると、目の前にいる《スライム》は新種なのか?
「あ、あの《スライム》はまさか……!?」
「ミィヤ? 知ってるの? あの《スライム》のこと」
どうやら、ミィヤは知っているようだ。しかも、かなりの驚きようだ。それほど珍しい《スライム》なんだろう。
「まだ里に居た時なんですけど、そこにあった魔物図鑑で見たんです。あれは《クリスタルスライム》! 純度の高いマナが溜まった鉱石ばかりを補食することで生まれる特異体です!!」
特異体。
通常の進化と違い、その魔物からはありえない進化を遂げた個体のことを示す。
確かに、液体の体である《スライム》から考えると、あんなに角張った体は珍しい。さっき倒した《シェルタースライム》だって、液体の体を鱗や甲羅なんかで護っているので、目の前に居る《クリスタルスライム》は、特異体と言ってもいいかもしれない。
「あらゆる状態異常が効かないうえに、体もかなり硬いそうです!」
「なるほど。情報ありがとう、ミィヤ。で、これから僕はこいつの相手をするからミィヤは……」
ちらっと、視線を横にやると、ガルマが倒れていた。しかも、右足に穴が開いており、《クリスタルスライム》が飛ばしたであろう物体が地面に突き刺さっている。
「彼の治療を頼んだよ」
「わ、わかりました!」
僕の指示にミィヤは、痛みで気絶したのであろうガルマへと近づき、穴が開いた右足に手をかざす。
「〈アクアヒール〉!」
青い光が放出され、怪我を癒していく。〈アクアヒール〉は、通常の〈ヒール〉よりも回復力が高い水属性スキルだ。
より属性値が高いほど、水の精霊に愛されるほど効果が高くなる。
「さて、こっちはどう対処しようかな」
相手は、特異体の魔物。
特異体とは一度も戦ったことがないので、どういう動きをするのかがわからない。
レベルは……三十八か。《バーサクモンキー》よりも高い。
けど、やれない相手じゃない。信じるんだ……ステータスオールSの体を。この身体能力とスキルを駆使して、倒すんだ。
特異体を倒せば、それだけいい経験になる。
僕の成長のために。
「いくよ! 《クリスタルスライム!》!」
いざ、討伐開始だ。




