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第十話 あれから

「お待たせしましたぁ! 今日は先ほど狩った猪のお肉を使った炒め物です! 野菜は市場で買ったものと山菜を使いました!!」

「わぁ、おいしそうだね。お肉はちょっと大きいけど」

「えへへ。あれだけ大きいからつい」

「まあ、ここの主かと思うほどの大きさだからね。自分達の分を残して、残ったのは料理屋とかに売りにいこうか」


 幼女の姿となり、ミィヤと共に行動するようになって五日が経った。薬草や山菜、その他の動物達の知識も順調に覚えていき、いつ旅にでも良いように、野宿も始めている。


 今日は、野宿初日。

 夕飯は、森の探索中に遭遇した巨大な猪の肉を使ったものだ。ミィヤの料理もこれまで何度か食してきたけど、本当にうまい。

 僕もそれなりにできると思っていたけど、これはぼやぼやしているとあっという間に置いていかれそうだ。

 まあ、ミィヤの場合は戦闘以外で役立とうっていう努力の表れなんだろう。それに、本当に楽しそうに料理をする。


「そういえば、ずっと気になっていたんですけど」


 すでに半分以上の炒め物を食べていたミィヤが、視線を右斜めへと向ける。

 そこにあるのは、僕の顔ほど大きくなったあの卵だ。


「その卵って、何の卵なんですか?」


 ダンジョンで手に入れた謎の卵。当然専門の鑑定士に鑑定してもらったのだが、どうもよくわからないと言うんだ。

 ダンジョンで手に入るものは、謎が多く、上位なものになればなるほど鑑定が難しくなるようだ。


「たぶん、魔物の卵だと思う。ダンジョンで手に入れたからね」

「魔物の卵ですか……私、初めてみましたけど。なんだか昨日より遥かに大きくなってませんか? 魔物の卵ってこんなにも成長が早いんですかね?」


 先日までは、まだポーチにぎりぎり収まるぐらいの大きさだった。しかし、今日になって急に成長したのだ。

 昨日と違うところと言えば、戦闘の数だろうか?

 今日は昨日よりも多く魔物と戦闘を行い、さっきの猪からも結構な量の経験値を獲得した。


「もしかすると、僕が獲得した経験値をそのまま吸収しているのかもしれないね」

「ほー、ということは経験値を得れば得るほど、卵さんも成長せるってことですね?」

「たぶんね。けど、もう生まれてもいいぐらいの大きさだと思うんだけどな」


 魔物の生態にそこまで詳しくないから強くは言えない。魔物は大体が自然に生まれる。

 なので、こうした卵から生まれるのは珍しい部類だ。


「ですね。赤ちゃんぐらいの大きさだと思いますから。……さすがに、食用じゃないですよね?」

「あはは。これだけ大きいと食べ応えのある目玉焼きになりそうだけど」


 さすがに、ダンジョンにあった部屋で取れたのが、ただの食用じゃないと……思いたい。

 でもまあ、成長する食用卵っていうのも珍しいと言えば珍しいかな?


「もしかすると、未確認の魔物の卵かもしれません!」

「可能性としてはあるかもね」

「生まれてくるのが楽しみですねぇ」


 楽しみ半分不安半分だけどね。予想としては、ボスが《バーンブレードウルフ》だったから、その赤ちゃんかな?

 小さな狼……もふもふ……ちょっといいかも。



・・・・・



「これで終わりっと」


 今日は大量発生したと言われている《スライム》を狩っている。これは冒険者達への緊急依頼として出ているが、数がわからないため傭兵などの戦える者達にも依頼が出ている。

 持ってきた魔石の数だけ、報酬が出る。


 なので、僕もそれに参加することになった。《スライム》は、初心者でも簡単に倒せる弱い魔物で、数が多い。

 分離したり、なんでも食べてしまう。

 ちなみに魔石やドロップする素材は、そこまで高い値段じゃないため、今回の依頼は参加人数が少ないようだ。


 《スライム》なんて倒しても獲得経験値なんてたかが知れている。ただ数が多いだけで、金にもならない。

 今、参加しているのは金に困っている新人や献身的な人達だけ。


「《スライム》から手に入るゼリーって、美味しいんですかね?」

「大体は、罠や錆びたものを滑りやすくするために使われるようだけど……どうなんだろうね」


 念のため《スライム》からドロップしたゼリーを瓶に詰めている。売るとしたら、数ではなく重さで値段が決まる。

 今のところは、適度にゼリーがドロップしているけど、お金には困っていないし、売るよりもなにかに使えないか考えてみるのもいいかもしれない。


「他の人達は、魔石だけ回収して、ゼリーは放置してるみたいですね」

「僕達みたいに、金には困っていない人達なのかもね。新人達は、ひとつ残らず回収しているみたいだけど」


 移動しているだけで、どれだけ《スライム》が大量に居るのかがわかる。僕もここまで軽く四十体は倒してきた。

 けど、耳を済ませばまだ戦っている音が聞こえる。


「もしかすると、ボスが居るのかもね」

「ボスってことは、大きな《スライム》ってことですか?」

「うん。ボススライムは、自分の体を分離されることで《スライム》を生む。そして、その《スライム》が分離して、また《スライム》が。この大量発生を見る限り、可能性としては高いと思うよ」


 たかが《スライム》と思ってはいけない。やつらは、どこにでも現れ、どんな環境にも対応できる。

 そのため、魔物の中でも多くの種類が存在する。


「あっ! あれは《リーフスライム》ですね!」


 探索をしていると、緑色の《スライム》が茂みの中から現れた。《リーフスライム》は、植物などを体内に取り込むことで生まれるスライムだ。

 普通の《スライム》と差ほど強さは変わらないし、ドロップする素材も植物の匂いがするゼリーだ。


「普通の《スライム》の魔石よりは値段が高いし、とりあえず狩っておこう」


 《リーフスライム》はそこまで珍しい魔物ではない。

 とはいえ、《スライム》は《スライム》だ。

 倒して、魔石を手に入れればそれだけで報酬が増える。その後、多種の《スライム》が次々に現れた。


 毒草などを補食することで生まれる《ポイズンスライム》や、甲羅や鱗など補食することで生まれる《シェルタースライム》など。

 よく見る《スライム》から珍しい《スライム》まで。


「……おかしい」

「え? なにがですか? 確かにこんなに《スライム》が出現するのはおかしいと思いますが」


 《シェルタースライム》からドロップした魔石を回収したミィヤが僕の言葉に首を傾げる。


「いやそうじゃないよ、ミィヤ。さっきから普通の《スライム》が現れていないでしょ? ギルドの提示した情報だと普通の《スライム》が大量に発生したってことだったけど」

「確かに、さっきから変質した《スライム》ばかりを相手にしていますね」


 この辺りには《スライムが》多くの出現するのは、昔から変わらない。でも、それは普通の《スライム》だ。

 こんなにも派生系の《スライム》と遭遇するのは珍しいことだ。

 なんだか嫌な予感がする。


「はあ……」

「ど、どうしたんですか?」

「いや、こんな忙しい時に来なくてもなぁってさ」


 僕は、うんざりとした表情で、移動してきた道へと目をやる。すると、ミィヤへ向けて一本の矢が飛んできた。

 が、護衛としてつけている金の玉が容易に防いだ。


「え? え?」

「言ったよね……次会ったら容赦しないって」


 睨み付ける方向から、一本の槍を持った男が姿を現す。あの時、僕のことを追跡してきた男だ。

 それだけじゃない。周囲には、剣や斧、弓、杖などを持った男達が複数。街じゃないから、いつでも襲えますよという雰囲気だ。


「言ったな。だが、わかったなんて言った覚えはねぇぜ?」


 確かにそうだけど……そんなのただの屁理屈だ。それに、そのやる気をスライム討伐に向けてほしいよ……。

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