プロローグ
お待たせしました。連載版です。短編から連載にするにあたり、誤字脱字の修正や加筆した部分があります。今後は張り切って更新するのでご愛読よろしくお願い致します!
最後に注意を。
この作品には物語の都合上、汚い表現や過激な表現がちょくちょく出てくることがあります。なるべくやんわりとした表現にするつもりですが、それを理解したうえでお読みください。
では、本編へどうぞ!!
僕には戦う力がない。
才能というやつだろう。いくら頑張っても強くなれないし、スキルだって全然会得できない。
だけど、僕はどうしても冒険者として生きていきたかった。
子供の頃、早くに両親を亡くした僕を育ててくれたじいちゃんが、冒険者だった時のことをよく話してくれた。
僕には衝撃の連続だった。僕もいつかそんな生き方をしてみたい。まだ見ぬ未知に遭遇してみたいと。
だから、ボロボロになるほど特訓をしたんだ。
したんだけど……どうやっても強くなれない。じいちゃんは、諦めるな! お前なら強くなれる! と励ましてくれたけど……。
そのじいちゃんも、僕が十二歳の時に死んでしまった。それからは、知り合いを頼りながら暮らし、十五歳となった僕は冒険者として、日々依頼を達成している。
けど、僕は薬草採取やどぶさらいなどの依頼しか達成できていない。でも、それでも頑張れば強くなれる。
素敵な出会いだってあるはずだ。そう自分に言い聞かせて、冒険者となり半月が過ぎた頃だ。
素敵な出会いがあった。なんと僕が拠点としているハーバの街で、知らない人はいないほど有名な美少女パーティーに荷物持ちとしてだけど、パーティーに入らないか? と誘われたのだ!
嬉しかった。荷物持ちとはいえ、美少女ばかりのパーティーに入れるんだ。男としてこれほど嬉しいことはない。
パーティーリーダーのカトレアは、正義感の強い金髪ポニーテール美少女剣士。
魔法使いのユーラは、体は小さいが魔法ならば上級まで扱える才能をもつ赤髪ツインテールの美少女。
そして、一番年上の治癒術士であるマリアンは、清楚だが色気のある栗色のストレートヘアー美少女だ。
実力も、容姿も、街の評判もいい理想の美少女パーティー。
そんなパーティーに男は僕だけ!
周りの男達も、なんであいつなんだ! と羨ましそうに睨んでいた。僕の実力なら、荷物持ちが妥当だろうけど、それでもそこから生まれる絆や……その恋愛とかもあるんじゃないかと、期待してしまっている。いつか、彼女達と並べれるぐらい。いや、頼られるぐらい強くなるまで、荷物持ちとして頑張ろうと決意した。
……けど、僕は思い知らされる。
所詮理想は理想。現実は非情だということを。荷物持ちとして、僕は必死に彼女達についていった。
転んだり、罠にかかったり、魔物に囲まれたりと迷惑をかけることが度々あったけど、それでも彼女達は僕のことを見捨てなかった。
頑張れ! もう少しだ! と美少女の笑顔と言葉に癒され続け二週間。午前は自由行動となり、僕は久しぶりに喫茶店でのんびりしようかと立ち寄った。
一番奥の壁際の席。
そこに座った僕はコーヒーとサンドイッチを注文し、荷物持ちで溜まっていた疲労を癒す。
すると、僕の後ろの席に複数の客が座った。きゃっきゃっと、楽しそうに会話をしている。あれ? この声って。
聞き覚えのある声に僕はサンドイッチを持っていた手が止まる。
「それでさ? 今度のダンジョン探索なんだけど」
やっぱりカトレアの声だ。ということは、一緒に居るのはユーラにマリアンかな?
もしかして、僕が居ることに気づいていないんだろうか? まあ、僕ってそこまで目立たないし、影が薄いってよく言われるから、今更気にしてないけど……うん。
声をかけようと思ったけど、三人の時にどんな話をしているのか気になった僕はあえて声をかけなかった。けど、それが僕が絶望する分岐点だったとは、この時は思いもしなかった。
「あ! そういえば、そろそろ最深部だったわね」
カトレアの言葉にユーラが答える。そう、現在僕達はハーバから遠く離れたダンジョンに挑んでいるのだが、そろそろ最深部を攻略することになりそうだったので、一度ハーバに戻って準備をしてから挑む予定になっていた。
「最深部となると、道中の敵も今までより強くなります。当然ダンジョンボスも現れるはず」
マリアンが冷静に語る。ダンジョンには、それぞれ階層というものがあり、進めば進むほど敵も強くなるし、最深部へ行けばダンジョンボスと言われる敵が待ち受けている。
尋常じゃない強さだが、倒せば経験値も道中の敵とは比べものにならないぐらい手に入るうえに、ダンジョンを攻略した証として、そこでしか手に入らない宝がある。ダンジョンを攻略することは、かなりの功績となり、それだけで周りから評価される。
「いつも以上に気を付けないとね。罠の確認も忘れずにしないと」
やはり凄腕のパーティーだ。女だけだからと言って馬鹿にできない。
「ところでさ、話は変わるんだけど。荷物持ちとして入った」
僕の話題? なんだか急にドキドキしてきた。いったいどんなことを話すんだろうと、つい耳を澄ませてしまう。
「あー、確かラルクだっけ?」
そう。僕はラルク。ラルク・ホーマースだ。
「あの時のこけかた面白かったよねぇ」
ん? 面白かった? 確かにこの前のダンジョン攻略の時、転んでしまったけど。面白かった、かな?
「確かにそうですね。カトレアも人が悪い。気づかれないように転ばすなんて」
……は? 今、なんて言ったんだ? ちょっと声が小さすぎてよく聞こえなかったな。
「それを言うなら、ユーラも余程だよ? わざと魔物を誘導したんだからさ」
わざと? 誘導した? 魔物を? え? でもあの時はユーラが助けて。
「私だけなにもしてませんって顔をしてるけど、マリアンもでしょ? 罠があるってわかっているのにそこに彼を誘導したじゃない」
た、確かにあの時はマリアンがこの辺りには罠があるから気をつけてついてくるようにって言っていたけど……そんな、でも。
どうなっているんだ? どうしてこんな会話を。
幻聴だ。今聞こえているのは、全て幻聴なんだ。僕は、彼女達から絶対出てこないであろう言葉の数々を信じようとせずコーヒーを一気に飲み干す。
けど、落ち着かない……落ち着かない……!
「ただの暇潰しですよ。必死に荷物を背負ってついてくる彼が罠にかかったら、どんな反応をするのか見てみたかったんです。二人もそうでしょ?」
嘘だ。嘘だ……こんなの嘘に決まっている。そうだよ。あんまり重い荷物を持ってダンジョンに潜り続けたから、予想以上に疲労が溜まっていて、それで。
「まあねー。ほんと、笑っちゃうよね。あの必死な顔」
「絶対僕はハーレムだ! とか思ってる顔だったわね」
「ただの暇潰しに選ばれただけなのに」
こんな現実……!
「あっ、そうだ。そろそろ解雇しちゃおうか? けど、普通に解雇しちゃうなんて面白くないよねー」
「では、どうするつもりですか?」
やめてくれ。もう、それ以上。
「そうだねー……あっ! ダンジョンの最深部に取り残すっていうのはどう?」
僕は……!
「えげつないこと考えるわね、カトレアは。正義感溢れる美少女剣士さんの言葉とは思えないわ」
「ばれなければいいのよ。だって所詮はほとんど活躍もできなかった影の薄い冒険者だったんでしょ? ダンジョン攻略中に私達の役に立つために行動した結果、死んでしまったってことにすればいいのよ」
壊れていく。僕がずっと憧れていたものが……。
「まあ、あたしはどっちでも良いけど。十分楽しめたし」
「私も。また次の荷物持ちを誘えば良いだけですしね」
「だね。私達美少女パーティーが誘えばモテない男達なんて、ほいほいついてきちゃうんだからね」
「……」
その後、彼女達は食事を済ませて、僕に気づかず去っていく。僕は、もうなにも考えられない状態で放心していた。
今までの自分の頑張りはなんだったのか。あれが、皆が憧れた美少女パーティーの本性? まさか、あんなことを……僕のような奴が他にも居たのか? いや、それだったらもっと噂が立っていてもおかしくはない。今まで、三人で活躍していたから。男なんて入る余地がなかったから、僕は喜んだし、周りも羨ましがっていたんだ。
「……宿に戻ろう」
午後のダンジョン攻略まで、まだ二時間はある。これから色々と準備をしなくちゃならないけど、やる気が起きない。魂が抜けたかのような状態で会計をした僕を店員さんは心配していたけど、僕はなにも答えずに喫茶店を出ていった。