私と意地悪天使と憎めない悪魔
1話 人ならざる者
「いってきます!」
主人公の台詞で始まる物語はよくある。この物語もそんな中の一つではあるが読み進めて欲しい。
彼女は石川サヤカ。華の女子高生である。母親に見送られ家を出た彼女はいつものように小走りで学校へ向かっていた。
ひょいっと角を曲がり、暗がりの道へ入る。学校への近道となるその道は彼女にとって慣れ親しんだ道であった。
今日この日を迎える前は。
漫画は友達に進められて少女漫画を数作読んだ位。アニメも最近はさっぱりだ。だが、サヤカは思った。
これは二次元では…?
建物の影になる所に、人が、いや、人ならざるものが浮いている。背には大きく広げた漆黒の翼。手には大鎌を携えている。俯いているから表情は分からない。サヤカはあり得ないこの状況とその人物が纏うオーラに圧倒されていた。
「あなたが、石川サヤカさんですね?」
えらく丁寧に聞かれ、見た目のギャップに面食らいながらもサヤカは答えた。
「だ、だったらどうなんですか」
サヤカは恐怖で声を震わせる。浮いている男(という表現でいいのかは分からないが)は身動ぎ一つせずにそこに浮かんでいる。
「あなたは今日ここでお亡くなりになることとなっております。」
男はとんでもないことを言い出した。あまりにも突拍子が無さすぎてサヤカの震えが止まるほどだ。
「そ、そんなことあるわけ」
「そう決まっているのです。」
男は地上に降りると、一歩ずつサヤカに近づいてくる。サヤカはそれに合わせて後退するが、すぐ壁にぶつかる。もう逃げ場はない。
「し、死因は工事現場の資材の落下事故にまき、巻き込まれることによる、即死、です。」
男との距離が近づいてきて分かったことがある。
この男、超震えてるんですけど…!
しかも言動も段々と可笑しくなってきている。台詞はカミカミ、額には冷や汗、そして長めの前髪から覗く素顔は非常に整った顔立ちの青年だった。何だかサヤカは、これから死ぬことになっているのにその男が不憫でならなかった。
「や、やだよ!まだ死にたくない!」
男に懇願するが男は聞く耳を持たない。というより聞く余裕がない様だ。
「お願いですから、抵抗せずに死んでください!」
大鎌を振りかぶる男にサヤカは思わず突っ込む。
「そんなん無理に決まってるじゃん!」
そんなとき、袋小路のはずのこの場所に強い風が吹いた。
「何だか面白いことになってんな」
つんとした声の主はサヤカの頭上にいた。純白の翼を持ち、白いベールのような服を着ている。パーマがかかったようなふわふわした金髪にまるで見世物を観ているような表情が差し迫るサヤカには少し腹立たしかった。
「て、天使!」
大鎌を構えたまま男は怯えたように叫んだ。
「天使が悪魔の仕事に介入するのはルール違反のはずです!」
男は大鎌の矛先を天使と呼ばれた男に向けた。
「別に邪魔しにきたんじゃねーよ。俺はただここからすげー願いのオーラが出てたから誘われて来ただけ。」
そう言いながら天使は地面に降りると、大鎌の男とサヤカとの間に割って入った。
「俺は天使。名はハヤテ。お前の願い事はなんだ?」
もうここまで非現実的なことが起こると感覚が麻痺してくるのか、ハヤテと名乗る男の言葉がスムーズに理解できた。
願い事…。
「死にたくない」
サヤカがそう答えると、ハヤテの金髪がざわっと逆立ち顔は高揚した。
「いいだろう、その願い叶えてやる。」
ハヤテは手に持っていたステッキでコツンとサヤカの頭を軽く叩いた。すると地面が光りだし、風が吹いた。
「じゃ、邪魔をしないでください!」
大鎌の男は最早涙を溜めている。
「お前、悪魔に向いてねーよ。」
ハヤテがからかう様に笑う。
「さっさと諦めて帰んな。」
そして棒立ちのサヤカをひょいっと抱き抱えるとハヤテは翼を羽ばたかせ空中に舞い上がった。
「うわぁ!」
サヤカは思わず恐怖でハヤテの首にすがる。
「ど、どうするつもり?!」
パニックになったサヤカにハヤテは笑いながら言った。
「学校行くんだろ?」
「忘れてた!遅刻しちゃう!」
そんな二人を後から大鎌の男が追いかける。
「ま、待ってください!」
サヤカの初めての空の旅は決して楽しいものではなかった。