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69話 襲撃

5/28 書籍発売となります。

今読んでる部分を書籍で読みたいと思っていただけましたら、ぜひ1巻をよろしくお願いいたします。

 新たに回復した兵も戦列に加え、レンオアム公は兵を進めた。砦正面に派手に展開し気勢を上げている。

「良いか! 我が領内を荒らす愚か者に鉄槌を下さん!」

「「うおおおおおおおお!」」

「我らが女神に貴様らの武勇を示すのだ!」

「「「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」

 

 ここで女神呼ばわりされているのが我が娘である。別にそれは良い。可愛いし、かわいいし、将来は間違いなく美人になる。なぜならナージャにそっくりだからだ!

「ア、アレク……」

 真っ赤な顔をしたナージャが俺の裾をつまんで見上げてきた。

「ん? どうしたの?」

「いつものことなんだけど、言葉に出てたよ?」

「……まあ、ほんとのことだし」

「うー、さすがに恥ずかしい」

 周囲を見ると、うつろな目でひたすら地面を掘る者や、木に向けて木剣を振る者、なぜか殴り合いを始めるものなど様々だが、彼らの思念は一致して伝わってきた。

「「「爆ぜろ!!」」」

 そういえば、エイルを見て一瞬で陥落したレンオアム公爵がいて、何やらファンクラブを作ったらしい。「会員番号1は儂じゃ!」などと宣言していたらしい。


「おお、ここにおられたか」

「ああ、ロレンスさん」

「ん? なにかありましたかな?」

「いえ、とくには」

「ならばよいのですが……」

「ああ、出発の時間ですか」

 周囲を見渡すとさっきまで奇行に走っていた者たちも平静を取り戻し、身支度を整え始めている。切り替えというか、変わり身の早さも冒険者の資質なんだろう。


「アレク殿。拙者が物見を仕る」

「え? いや、俺の知覚範囲内だから大丈夫」

 ちなみに、この冒険者部隊は五十名ほどで構成されている。そのくらいの集団なら、十分にカバー可能だ。

「む……まさか!?」

「ああ、気づいた?」

 俺の魔力を張り巡らせた知覚網に気付いたようだ。なかなかやるね。

「……龍王とはこれほどの高みにいるものですか」

 なんか感心しているが、俺自身いきなり力を流し込まれたからなあ。研鑽を経て、みたいな身に着け方じゃないだけに感心されても、と思う。

「違うよ? アレクは冒険者のころ、いろいろ努力していたでしょ?」

「え?」

「入ってくるものはあくまでもただの情報。それを見分けて判断するのはアレクの能力だよ」

「……なるほど。俺がやってきたことは間違ってなかったんだな」

「そう。だから胸を張って、わたしの龍王様」

「ありがとう」

 胸がいっぱいになって思わず抱きしめた。ふんわりとした甘い香り。温かい体温、すべてが俺を癒してくれる。

「うおっほん!」

 ロレンスさんが咳払いをして、思わずあたりを見渡すと……砂糖を吐きそうな顔をしたミズチと、ほんのり潤んだ眼をしている女性の皆さんと、さらにその女性の皆さんを口説こうとしている男性陣がいた。

 あ、リーダーっぽい剣士が、パーティの魔法使いの女性に言い寄られてる。あっちは……ごつい重戦士が、ヒーラーの女性に話しかけていて……あ、土下座した。女性の口元が少し緩んでいる。もう一押し、だな。


 冒険者パーティがいきなり婚活パーティになった瞬間だった。


「えーっと、みなさん」

 俺が声をかけるとみんなが俺に注目してくる。そういえば、メインはレンオアムの冒険者か。見知った顔もいる。

「大事な人を守ろうとすると、力が湧いてくるんだ。だから、生きて帰ろう!」

「あ、ケガした人はわたしのところに来てねー!」

 エイルの一言に冒険者たちのテンションが上がる。

「お義父さん! 娘さんをくだ……ヒィァ!?」

 血迷った男をひとにらみして黙らせる。俺と目を合わせられない程度の実力でうちの娘を守れると思っているんだろうか。


「やれやれ、ですなあ」

 ロレンスさんが肩をすくめ、ミズチは少し遠い目をしていた。

「仕方ありませんな。アレク殿ですし」

「……どういう意味かな?」

「はっはっは」


 さて、こっちの部隊の目的は強襲だ。正面に敵の主力を引き付け、側面から砦に奇襲をかける。

 亜人たちが合流していることもあり、戦力は増強されている。おそらく亜人たちが出撃し、本隊に攻撃を仕掛けるだろう。そこでこっちの部隊の出番というわけだ。

 目を閉じ、飛ばした魔力の知覚で砦を視る。バタバタと人間が走り回り、城門の前に集結していた……ん?

「アレク殿、どうされました?」

「ミズチさん、砦には亜人たちがいない」

「まさか?」

「ナージャ!」

「うん!」

 俺の言いたいことを理解したナージャが周囲に防壁を張る。

 移動しながら俺の知覚網の端にゴブリンとかが引っかかってはいた。ただ、数は単独で、レベルも高くないため脅威とは思っていなかったのだ。

 ただ、それが俺の知覚範囲を探るための行動だったら?


呪文詠唱多重起動スペルドライブクアドラブルエナジーボルト・レイン!」

 ナージャが上空に手をかざして魔法を発動させた。真上に放たれた魔力の球体から、無数の魔力弾が放たれる。

 近くの網を広げて視ると、オーガが大量の岩をこちらに投げ込んでいた。

 ナージャの操る魔力弾がその岩を的確に打ち砕く。

 ゴブリン兵の放った矢が飛来するが、ナージャの張った防壁に阻まれた。時間差で無数の火球が飛んでくるがこれもはじき返された。

「GYUOOOOOOOONN!!」

 聞き覚えのある咆哮が聞こえた。キング種、それもいつぞやのような成り立てではなく、永い時を生きた上位種の気配だ。

 冒険者たちも奇襲で動揺しているが、すべての攻撃を防いだことで落ち着きを取り戻し始めている。

 しかし周囲を取り巻く無数の亜人種の気配に、俺は気を引き締め直していた。

読んでいただき、ありがとうございます。

感想やレビュー、ポイント評価は執筆の原動力です。

応援ありがとうございます!

また5/28発売の1巻もよろしくお願いいたします!

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