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63話 村の仲間と来訪者

 さて、セタンタ少年はそのまま村に迎え入れられた。というか、うちの両親が帰ってきて、しかも姿を消してからほぼ年を取っていないことで大騒ぎになった。

 ギルドは腕利きであったジュリアンとレナの復帰に沸き立ち、昔世話になったとか名乗る人々でにぎわっていた。

 知らせを受けて王都から祖父がやってきて涙の対面……になるはずだったのが、「儂も若返らせろおおおお!!」と叫ぶ爺ちゃんに、いろいろと台無しになった。

 セタンタ少年は持ち前の性格とその腕っぷしで、村の若者たちをすでに従えていた。ジーク爺さんもなぜかセタンタと一緒に槍を振るっている。


「儂が知らぬ槍術を知っておるとは、この年になって新たな技を覚えるのもまた良い」


 シリウス卿の配下の兵もここで訓練をしている。影の国は戦いに明け暮れていたから実戦的な戦い方をしていた。そして、今は講和が結ばれていると言ってもここは対帝国の最前線である。

 仮に帝国が攻めてきても俺一人で過剰な戦力であることはとりあえず伏せておこう……。 


 爺ちゃんとニーズヘッグが何やら密談をしていた。


「我の力を分け与えるかね?」

「むむ、しかし……」

「何、我はアレクの眷属故その力の源泉は主たるアレクとなる」

「ということは?」

「もともと、龍は眷属に力を分け与え、その身を護るための存在としてきた。それが龍の騎士、ということじゃな。我がアレクを騎士としたのは、我が娘を守り通す存在としたかったゆえである」

「そうか、理由はどうあれ孫の命を救ってもらったこと、感謝しておる」

「ふん、我にとってはナージャこそが全てだったからな。礼を言われる筋合いではないぞ」

「それでもじゃ。……それにだ、エイルたんがおるからのう」

「……だな」

 彼らの目線の先には、村の子供たちと駆け回るエイルの姿があった。……うん、手加減がうまくなったな。ダッシュするたびに足元に穴をあけていたころから見れば、力の制御が格段に上手くなっている。

 冒険者ごっこと称して、棒切れを振り回す姿は実に微笑ましい。


「うふふ。可愛いよね」

「ああ。子供は宝だよな」

「ふふ、わたし幸せだよ。アレクがいて、エイルが生まれてきて、お父さんも……」

 スッとナージャが寄り添ってくる。俺は無意識に彼女の身体を抱きとめた。物陰からは独り身の連中の怨嗟に満ちた視線がぶつけられるが、気にしている暇などない。

 ナージャとくっついて過ごす時間は貴重なのだ。


 村の真ん中の広場では、なぜかゴンザレスさんとセタンタ少年の一騎打ちが始まっていた。

「小僧、口のきき方ってもんを教えてやる」

「ハッ、能書きはいいからとっととかかってきな、おっさん」

 さすがに手にしている武器は練習用の刃引きしてある剣と槍だった。その殺気は実戦さながらで、というかゴンザレスさんがあそこまで本気の表情を見せるとか珍しいな。


「なんか、セタンタ君にくっついてる少年が、ゴンちゃんとこの冒険者に喧嘩売ったらしいよ?」

 唐突に表れたチコさんが俺に事情を説明してくれた。

「なるほど。それで、ですか」

「うん。しかしあれねー。ゴンちゃんの筋肉もイイ感じになっちゃってまあ……」

 何か隣からじゅるりという乙女の口元から聞こえてはいけないような音がしたが、そこに踏み込んでも誰も幸せにならない。

 俺は目線を二人に戻すのだった。


「ぬおりゃあああああああああああああ!」

 大剣を振りかぶり、大上段から振り下ろす。その重い一撃をセタンタ少年はバックステップして避ける。そしてそのまま鋭く中段突きが放たれるが、こんどはゴンザレスさんがサイドステップでよける。

「ふん、やるなオッサン」

「何を若造が!」

 そうして互いに武器を打ち合わせる。その勢いはすさまじく、駆け出しの冒険者からすればいい教材になるだろう。

 そう、おかしいのだ。ゴンザレスさんは弱くはない。強者といっても差し支えない。ただし一般人レベルだ。

 セタンタ少年は、どっちかというとこっち寄りで、人外レベルである。

 そうしてしばらく、まるで演武のような打ち合いが続き、セタンタ少年が振り抜いた横薙ぎでゴンザレスさんの手から剣が弾き飛ばされた。


「うわはははは、強いな!」

「はっはっはっは。おっさんもいい腕してるぜ!」

「ふん、涼しい顔しやがって」

「そうでもないぞ? 少なくとも影の国の戦士となら十分に渡り合えるさ」

「んで、てめえはその影の国とやらでなにやってたんだ?」

「おう、戦士長だ」

「強いわけだな!」

「女王スカサハ直伝の槍だぜ」

「スカサハって……あのおとぎ話の?」

「へ?」

「影の国には女王がいて、見どころのある子供をさらって自らの戦士にしている、らしい」

「お、おう……身に覚えがあるな」

 ゴンザレスさんは無言でセタンタ少年の肩を叩いた。なにやら、喧嘩のもとになった少年が冒険者に軽くあしらわれている。そりゃそうだ。実戦経験のありと無しはそれほどまでに違うものだ。


「そうそう、アレク君にお客様が来てるよ? なんか見慣れない服装だったわね」

「へ? そうなんですか?」


 こうしてまた少し変わった俺の日常は、再びドタバタに巻き込まれるのだった。

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