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62話 王の旅立ち

あけましておめでとうございます。

年末年始デスマ進行が落ち着き、改稿もひと段落着いたので更新再開です。

「え? ちょ? まって!?」

 はっきりと承諾した後に事態に気付いたセタンタ少年が泡を食っている。

 それを見た騎士コンラがダメ押しをすべく周囲の兵や騎士、戦士たちを煽り始めた。

「我らが新たなる王、セタンタ殿をたたえよ!」

「「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」

 影の国の戦士たちが大音声で応える。

「「「セタンタ! セタンタ! セタンタ!」」」

 天井知らずに上がっていく戦士たちの熱狂に、セタンタ少年がこちらを見てすがるような目で見て来た。

 どうしろと……。


「アレク、あの子呪いに縛られてる」

「へ? ナージャ、どういうこと?」

「予言の類だけどね、英雄の祝福と短命の呪詛が同時にかかってる」

「誰だそんなことするやつは……?」

「んー、セタンタ君の婚約者のお父さん? 娘をとられてなるものかーってなってるんじゃないかな?」

「お、おう、そうか……」

 そうして俺自身もセタンタ少年にかかっている、主に呪い部分を解析しようとしたところ、ナージャに後頭部をはたかれた。

「アレク、ダメよ?」

「ん? なんのことだ?」

「エイルが見つけてきた相手ならきっと大丈夫」

 うん、ものすごく見透かされていた。にっこり笑うナージャに、かなわないなあと思う。世界最強になってしまったけど、俺はナージャにずっと頭が上がらないんだろう。けどそんな自分がとても誇らしい思いだ。


 とりあえずセタンタ少年を呼び寄せた。

「……ってナージャが言ってるんだけど、心当たりは?」

「あー……俺、成人の儀式のときに会場向かってると占い師に呼び止められたんですよ。で、占ってもらったら、英雄になるが短命に終わるって言われたんですよね」

「うん、間違いないね。言霊が感じ取れる」

「ナージャさん、マジっすか!?」

「もともと君は才能があったんだろうけどね。その才能が発揮されると困る人がいるんだろうねえ……」

「うっわめんどくせえ」

 セタンタ少年はげんなりしている。ま、気持ちはわかるがね。

「んで、俺、どうしましょう。王様なんか無理ですよ。俺は槍を振るう以外に能がないし」

「ま、そこは有能な補佐役がいれば……って王様になるの前提に話してどうする!?」

「アレク……」

 ナージャのジト目を受け流しつつ、こう言うときに一番役に立ちそうな相手に声をかけた。すなわち、一番長生きしているニーズヘッグだ。


「ふむ? 問題の先送りで良いなら手がなくもない」

「ほんとうですか!」

「ふむ、我に任せるか?」

「はい、お願いします!」

「クク、小気味よいがまず相手の話を聞くことじゃ。あのコンラという若造も油断ならぬぞ?」

「え? 俺がこの国に来てからよくしてくれているんですけど……」

「人が無償で好意を向けるなどとは考えぬことじゃ。お主の才と武勇を利用しようとしているかもしれぬ」

「そういうもんですか……」

「相手の言うことを鵜呑みにするは良くないが、人の話を聞くことは良いことじゃ。まず相手の言っていることを聞き、そのうえで判断するのじゃな」

「はい、ありがとうございます!」

「でな、こういうやり方はどうじゃ……」

「……ええ!? うーん、たしかに……」

「これでよいな?」

「はい!」

 何となく不安は残るけど、悪いようにはしないだろう。たぶん。


「聞け! 影の国の戦士たちよ!」

 セタンタ少年が上げた声に、いつの間にか酒盛りを始めていた兵や騎士が何事だと振り向く。

「俺のことを王に選んでくれたこと、誠にありがたく思う。だから俺の秘を明かそう。俺は英雄の予言と、短命の呪いを受けている」

 その言葉に場がどよめく。

「短命な王は無力だ。その呪いは俺にどのように降りかかるかわからぬ」

 そこで一度黙る。セタンタ少年の言葉がしみこむように伝わっていく。

「なればこそ、俺はその呪いを打ち破るために旅に出ようと思う。俺はまだ未熟だ。ありていに言えば、人よりうまく槍を振るえるだけのガキに過ぎない」

 どよめきがさらに加速する。騎士コンラは無表情だ。聞いてみたところ、酒とかの宴会の用意はこいつがしていたらしい。

 気が利く。王の補佐には彼が相応しい、などの評判が出てくるあたり、狙ってたんだろうな。

「俺はいつの日か、王にふさわしい力を身に着け帰ってくる。ここに誓おう。だから俺が戻ってくるまで、我が師たるスカサハにこの国を統べていただく。補佐としてはオイフェ殿に」

 この言葉にコンラの顔がわずかにゆがんだ。……討つか? と思ったあたりでニーズヘッグに止められる。

「よい、人が集まればああいう輩は一定数混じる。あ奴を除いたとて、また同じようなものが現れる。そういうものじゃ」

「わかりました。ま、父さんたちも見つけたし、帰りますかね」

「うむ、帰ったら我も旅に出るかのう……」

 そういって背中にべったりとくっついているチコさんを振り向く。背中にすりすりとくっついて広背筋とかつぶやいていた。


「くっ、あんたに任されたらあたしはここから離れられない……」

 ハンカチを噛んで引っ張りそうな表情でスカサハが俺を睨んでくる。謀ったのはニーズヘッグだからね?

 オイフェはフェルグスにべったりとくっついていた。フェルグスのすがるような目つきは助けを求めているようだ。

 コンラは昨日の晩に姿を消したらしい。影ながらセタンタに付き従うためだとか噂になっているが、真意はわからない。


 戦士たちの歓呼に見送られ、俺たちは郊外にある洞窟に入った。そしてしばらく進むと空気が変わった感じがする。

 そして見えてくる光がどんどん大きくなり、外に出ると……いつもの北の森の風景が広がっていた。そして、後ろを振り向くと洞窟の入り口は跡形もなく、ただの大きな岩がでーんと鎮座しているのだった。

読んでいただき、ありがとうございます。

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