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59話 二人の女王

「くっ、殺せ!」

「うっさいわこのアホ師匠!」

「何を言うかこの馬鹿弟子! 駄犬!」

「犬っていうなこのヒキコモリ!」

「引きこもってて何が悪い!」

「クッソ、開き直りやがった!? フェルグス! フェルグスはどこに行きやがった!」


 なんかいきなり喧嘩を始めた。影の国の女王スカサハは武芸に長け、魔術も使いこなすと言われていた。実際、この言い争いの最中にもこちらに対する警戒は切らせていない。


「フェルグスは今援軍を呼びに行ってるよ! っていうかなんだい!? あんな化け物みたいなのをぞろぞろと引き連れてきて!」

 うん、化け物呼ばわりされた。見たところスカサハの力は強い。ニーズヘッグといい勝負だろう。逆に言えば魔法の打ち合いになればナージャに分がある。

 そして彼女の攻撃力では、エイルの結界は抜けない。そしてその3人を合わせたよりも上の力があるのが俺になる。

 ということは、彼女がおびえているのは俺に対してか。


「アレク殿はそんなことはしないぞ!?」

「あんたが誰かを名前で呼ぶとはね。しかも敬称付きか……」

 セタンタ少年の受け答えに、少しスカサハが考え込むそぶりを見せた。

「何があった? あんたのことだ。どうせケンカを売って返り討ちにあったんだろう?」

「真正面から挑んで真っ向から跳ね返された。敬意を表して何が悪い?」

 セタンタの返答にスカサハは目を見開いた。

「そうかい。とんでもないね。わたしにも無理だよ、そんな真似は」

 それまでのバカ騒ぎが嘘のように落ち着いた口調で話し始める。その姿はまさに女王と呼ぶにふさわしいものだった。

「って、それができるんなら最初からやりやがれ!」

「うっさいわね! わたしが緊急事態に弱いってあんたが一番知ってるでしょうが!」

 前言撤回。だめだこりゃ。


 とりあえず、収拾がつかないのでハリセンを振り下ろした。

「おおぅ、目にも止まらぬハリセンさばきです!」

 チコさんが目を輝かせている。

「えーと、今のどこにチコさんのツボが?」

「鋭い動きを実現させた上腕二頭筋と広背筋、ですかね」

「ああ、そう……」

 何となくげんなりして会話を打ち切るのだった。


「なんという体さばき、わたしの及ぶところではない……くっ、殺せ」

「師匠、その口癖やめようぜ?」

「女武芸者は追いつめられたらこう言うのが決まりなのだ!」

「いやいやいやいや、仮にも女王がそれはまずいだろ」

「セタンタ。王様になってみたくない?」

「ほう、それは良いな……だが断る」

「くっ、師匠の言うことを聞かんとはなんという馬鹿弟子だ!」

「アホ師匠にそれを言う資格はねえ!」

「師匠をアホっていう馬鹿弟子の方がアホなんですぅ―!」

 また喧嘩が始まった。そしてふと思いついた疑問を口にする。

「そういえば、聞きたいんだけども」

「う?」「はい?」

 間の抜けた表情でこちらを見てくる。

「フェルグスって誰? あと援軍とかって何の話?」

「……師匠、フェルグスをどこに向かわせた?」

「え……オイフェのところ」

「まてや、それ援軍呼び込んだらうちが乗っ取られるパターンじゃねえか?」

 セタンタ少年が言うには、影の国は二人の女王がいる。スカサハとオイフェだ。彼女たちは双子であるが互いに仲が悪く、国同士は常に戦争状態にあった。

「すまん、アレク殿。いろいろと迷惑かけまくってるところ申し訳ない。助けてくれ……」

 その時兵の一人が駆け込んで来た。

「オイフェの軍が国境沿いに展開しています!」

「うわちゃあ」と顔を手で覆い、ぼやくセタンタ少年の姿がいっそ哀れだった。


「キャハハハハハハ!」

 陣頭で高笑いを上げる女王オイフェ。革で作った体にぴったりくっついた鎧をまとい、傍らには簀巻きにされた少年が「むぐー! むぐー!」とわめいている。

「てめえ、フェルグスを離しやがれ!」

「なんでえ? というかあんたもまとめてあたしの手下になりな!」

「ほう、そうなったら何があるんだ?」

「好きなだけ戦わせてやるよ。あたしはスカサハみたいにぬるいことは言わないからねえ。影の国を手に入れたら龍の国へ行くのさ!」

 何か凄い目つきでいい放った。

「龍の国ってやっぱり?」

「ああ、多分アレクさんたちの世界だと思う。こっちの世界で管理してるダンジョンは世界を繋いでるみたいでね」

「こっちから向こうにも行ける?」

「……師匠がやれば、だな。俺はまだそこまでのルーンを扱えねえ」

「んじゃとりあえずあいつら叩きのめしてスカサハさんに恩を売っておくとしようか」

「さらっととんでもないこと言うな……」

 スカサハ少年は肩をすくめ、「やれやれ」と苦笑いを浮かべる。


「んじゃ行きますかね」

 抑えていた魔力を開放する。そもそもダンジョンから出てからはみんな魔力を押さえていた。

 背後でも三つの力が解放される。その圧を受けてオイフェの軍勢が文字通り後ずさった。


「んあっ!?」

 自分に匹敵かそれ以上の力が四つ、うち一人は明らかに自分を大きく超える。その事実に一瞬だが硬直した。そして俺たちにはその一瞬で十分だった。


「フェイ!」

「はっ!」

 上空から一直線に急降下し、風の力を操って軍勢に叩きつける。それによって巻き上がる砂塵に彼らは視界を奪われた。

「うわっ!」「なんだ!?」「ばかな、女王と同格以上の力が多数いるだと!?」

 軍勢は大混乱に陥っている。同格ってわかる時点で大したもんだ。力の差が開きすぎているとそれすら判別できないからな。

 フェイは混乱を縫ってフェルグス? を回収する。混乱する軍勢にニーズヘッグが突貫し、槍を振るって当たるを幸いと敵兵をなぎ倒す。

 そして、ナージャが魔力弾の雨を降らせた。

「わたしとアレクの平穏な生活を乱す奴は許さない!」

 あ、オイフェが魔力弾を防いでる。大したもんだ。

「ナージャ、埒があかんから俺が行く」

「あ、はーい。お願いね」

 うん、首をこてんと傾げて笑顔を浮かべるナージャが可愛い。ただ一応戦場なので頭を撫でるだけにとどめる。

「はふう……」

 うっとりと目を細めるその顔を見て、ナージャを守るという誓いを新たにする。背後でチコさんが砂糖でも吐きそうな顔をしていた。

「誰かあたしに強いお酒をちょうだいーーー!」

 馬鹿め、龍にとって酒は鬼門だ。そんなものを持っているはずがないだろう!


 俺は足に魔力を集中して、一気にオイフェに向けて突進したのだった。

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