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52話 ダンジョンの奥へ

 階段を降りる俺たちになぜかチコさんもついてきた。そのまま進むと、突き当りは少し大きめの広間になっている。しかしそこで行き止まりになっていて、何の仕掛けも見当たらない。壁を叩いてみるが空洞があるわけでもなく、地面の下も同様だ。

 チコさんはうろうろとしていたが、しばらくすると俺たちのそばに戻ってきた。


「うーん、何の変哲もないな」

「そう、ですよねえ。わたしにもそう見えます」

 チコさんがつぶやく。どうもシーフ系のスキル持ちらしい。

「アレク。魔力の流れがちょっとおかしい」

「どんな風に?」

「行き止まりのはずなのに、どこからか魔力が吹き出してる」

 この中で一番魔力の操作がうまいのはナージャだ。彼女にそのまま探査を任せることにした。

「ううん……たぶん、ここ」

 ナージャが掌に魔力を集め、解き放った。

 カッと閃光が走り、突き当りの壁がなくなっている。その先には再び階段が現れていた。

「うん、今のって壁をぶち破ったわけじゃないですね」

「どういうこと?」

「後ろを見てください」

 背後にあったはずの階段がなくなっている。ということは……?

「転移装置ということでしょう」

「アレク、魔力のほころびが消えてる。たぶん戻れない。転移系の魔法も使えないと思う」

「進むしかないってことか」

 わずかに緊張感が走るが、そもそも世界最強クラスのメンバーだ。一応使い魔を派遣して、ティルの村にはリンドブルムかベフィモスが滞在してくれているはずである。


「行こう」

 俺の呼びかけにみんなが頷いた。エイルは……ニーズヘッグの肩の上でぐでーんと寝ている。その寝顔を横目で見てニーズヘッグの顔はだらしなく緩んでいた。

 ただ、完全に気を抜いているわけではないので、ひとまず置いておく。

 俺を先頭に、真ん中にナージャ、チコさん。そして最後尾にニーズヘッグだ。ひとまずエイルも起こすことにした。

「うゆー……ここどこ?」

「ダンジョンの中だよ」

「ふええ、なんか別の世界みたいだねー」

 その一言にぎょっとする。ふとナージャを振り向くと、彼女も首を縦に振っている。

「転移ができない理由が多分そう。元の世界から切り離されてる……確信は持てなかったけど」

「エイルはすごいのう」

「えっへん!」

 ふんぞり返っているエイルが無限大に可愛い。そして、この子の才能にナージャは少し表情が曇る。

「エイル。あなたはすごい子。けど、その力は人に見せてはいけない」

「んー、わかったー」

「ん、ママとの約束、ね」

「はーい!」

 その光景に俺とニーズヘッグとついでにチコさんが悶絶する。

「クッ……殺せ」

 悶絶するニーズヘッグ。

「筋肉と同じくらい尊い者って、あるのね……」

 顔の下半分をハンカチで覆うチコさん。

「ナージャもエイルも可愛い、可愛い……はふう」

 そして萌えている俺。

 親子そろって同じ角度で首をかしげて上目遣いはやめてくれ。俺の理性が持たない……。


 さて、階段を下りた先は、通路が伸びていた。しばらく行くと分かれ道があり、お約束のように片方は行き止まりだ。

 チコさんは手元の紙にマッピングをしていく。

「ふんふふーん」

 この人なんで受付嬢しているんだろうと思うくらい、正確な地図が描かれていた。

「んー? ああ、昔色々とありまして」

 スッと差し出される右腕には傷跡が見える。

「それは……」

「油断しちゃってね。このせいで武器を持てないのね。ペンとかはもてるんだけど」

 笑顔の奥には何も見て取れなかった。悔恨も絶望も。ただ、事実を受け入れ、そのうえで前に進む強い意志があった。

「そう、ですか」

「ふふ、気にしちゃダメよ。わたしが戦えない分は、みなさんよろしくね」

「うにょにょにょにょ……にゅるる……ひーる!」

 しんみりとした空気を吹き飛ばすようにエイルが呪文を唱え、そして、最も簡易的な治癒魔法である「ヒール」をかける。

 ただし、リザレクションより長い詠唱を行っていた。込める魔力か、詠唱を長くすることで呪文の効果を上げることができる。ただし、それは効率の低下であったり、制御の難易度を桁違いに上げるものだったりする。

 ここでヒールを選んだ理由は一つ。かけたい部位を選ぶからだ。腕を負傷したなら腕に、足を怪我したら足に。そうやってかけるのがヒールである。

 リザレクションは全身に作用する。全身を同時進行で癒すわけだ。


 さて、前置きが長くなったが、リザレクションに使うほどの魔力を一部位につぎ込んだわけで……チコさんの傷跡は綺麗さっぱりなくなっていた。

 ボキッと音が響く。彼女が持っていたペンは真っ二つに折れていた。

「ふぇ!?」

「エイル……さっき自重しろって言われてたよなあ……」

「うにゅ? お姉ちゃん痛そうだったからなおしたの」

「ああ、お前はそういう子だよねえ」

「エイル……ママとお約束したのに、したのに……」

 というあたりでジジバカが割り込む。

「まあ良いではないか。いいことをしたわけだし。そもそもここには人目はないからな」

「ふぇ? あれ? ええええええ!?」

 チコさんは混乱している。その混乱に付け込んで、他言無用を要求した。代価はニーズヘッグの上腕二頭筋だった。

 曲げた腕にぶら下がりたいという要望を聞く羽目になったニーズヘッグは苦虫を嚙み潰したような表情で、それでも「孫のため、孫のため」とつぶやくのだった。


 さて、強い魔法を避けた理由はほかにもある。ダンジョンでは魔力や生命力に反応して襲ってくるモンスターがいるのだ。

 具体的には……目の前の広間はかなり広く作られており、そこにデーンと鎮座する巨大なゴーレムとか、ね。


 エイルの魔法に反応したためか、ゴーレムの双眸がカッと輝く。胸の前に宝石がはめ込まれていて、そこにとんでもない量の魔力が集まっていった。

「散開!」

 俺の叫び声と共に、戦いが始まった。

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