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46話 名誉騎士

 王都のメインストリートは大手門から王城まで伸びている。それ以外にも大規模な支道があって、円形の城壁を一回りできるようになっていた。

 平地のど真ん中のさらに街道を押さえる形で発展した王都だが、三重の城壁の中心に本城がある立地である。

「ミドガルズオルムの螺旋を取り込んだのだ」

 と、以前シグルド殿下がドヤ顔で説明してくれたことがある。単純な円形ではなく、城門を閉ざすことで市街地が迷路のようになり、敵兵の侵攻を阻む。同時に集中射撃の的にできるらしい。

 ただ、それは一般的な軍勢を相手にした場合で、龍王クラスの攻撃を防ぐのは難しいらしい。


 さて、話がそれた。群衆の熱狂を一身に浴びながらパレードは進む。子供が出てきてベフィモスの足にしがみつくとかのトラブルはあったが、概ね問題なく進んだ。

「幼子よ、そなたはこの国の未来である。そなたの前途に幸あらんことを」

 なんぞとベフィモスがやらかしてくれたせいで、祝福を求める群衆に取り囲まれた。

 三龍王がアドリブで、セリフを王都の民よと言い換えてそれっぽく宣言し、レヴィアタンが霧雨を降らせ、リンドブルムが風でそれを散らすことで虹をかけた。

 更にベフィモスが地面に魔力を流すと、街路樹が季節外れの花を咲かせる。薄桃色の花びらが風に舞い踊り、空を見上げれば虹がかかる光景は幻想的で、龍王の祝福を得たこの国の前途を嘉しているようだ。

 ナージャが興に乗ったのか、ティルの村に伝わる歌を口ずさむ。リンドブルムがその声を周囲に響かせると、周囲の光景とあわせて市民たちは夢見心地になっていた。

 この国の未来は明るい。市民たちはそう信じ、その立役者となったシグルド殿下への忠誠を新たにするのだった。


「はっはっは、まさかあのようなことが起きるとはな」

 シグルド殿下は上機嫌だ。

「言葉だけで魔力も何も込めてないから、祝福効果も何もないんだけどね」

 リンドブルムがさらっと市民に聞かれたらまずそうなことを言うが、そもそも祝福とは龍の力を分け与えることに他ならない。

 ごくわずかの力であっても、本体の龍はその分の力を落とすことになる。ということであれば、なかなか与えられるものではないというわけだ。


 王城に戻って隊列を解散すると、改めて諸侯の参列を受けることになる。ふと見るといつぞやの戦場で帝国の旗幟を掲げていた連中もいた。

 彼らは王国に帰参を願い出て来たらしい。


「まあ、あれだ。転封と当主の首のすげ替え、だな。未開拓地へ放り込んでくれよう」

 目が笑っていない笑顔でシグルド殿下は俺に言ってくるが、そんなこと聞かされても、なあ。


「そうそう、一応帝国との国境付近だが、戦場になっていた陣地にそのまま砦を築くぞ」

「お、おう。とりあえず和睦したんでしょう?」

「口約束では、な。通商の関門とか、治安維持のためとか理由付けはどうとでもする。今までは北の森があったが、そこを大軍で踏破してきた以上、防備は必要だ」

「んじゃ、例の裏切った連中に罰金でも出させて費用に充てたら?」

「それだ!」

 うん、なんかやっちまったとは思うが、今更だ。あの時裏切らずに防衛軍に合流していなければこんなことにならなかったのにねと、結果論で言うのも簡単ではある。

 貴族は家名を残すことにすべてを傾ける。それゆえにこういった場面で両方の勢力を天秤にかけることもよくある。

 賭けに勝てばよし、負ければ悲惨だ。そして、龍王の介入という普通はあり得ない要素が無ければ国境は突破され、北部辺境は蹂躙されていたことは疑いない。

 そして俺の故郷はその北部辺境にあるわけで、ある意味俺の立場って言うのは義勇兵と同じなわけだ。


「そうそう、褒賞の件だが……」

 もう何度話しあっても結論が出ない話題だった。形だけ受け取るにしても、土地とかどうしろと。

「不要、というわけには行かないんですよね?」

「お前は今回の戦で最大の功績をあげている。お前に褒賞なしとなっては、ほかの誰も褒美を受け取れぬ」

「うーん……それはわかるんですが」

「本来なら爵位を与えて貴族位につけ、王家から嫁が出るところだ」

「どっちもいりません。間に合ってます」

「だよなあ……」

 と、以前から話しあうたびにループする話題を改めてしていたところで、龍王たちが口をはさんで来た。

「ふむ、なれば名誉を与えるがよいのではないか?」

「そうだねー。一代限りの、王国の歴史で一人だけとかそれっぽい肩書にして」

「あとは、あれだ。俺が力を与えたグラムとか言う剣。あれは王家の重宝であろうが。それを下賜すればよい」

 三連続のツッコミにシグルド殿下は天を仰いだ。

「なんというか、このお三方にも王家に協力を願いたいものだ。古老の賢者を上回る叡智よ」

「何年生きてると思っている?」

 ベフィモスがニヤリと笑みを浮かべる。

「女性に年を聞くとは無粋じゃぞ?」

「いや、ボク少年だし」

 とりあえず俺はグラムをシグルド殿下に渡した。もはや俺と契約状態になっており、俺以外に扱うことができない。具体的には鞘から抜けない。

 その事実に元持ち主は若干がっくり来ていたようだが、すぐに気を取り直して部下を呼び手配を命じている。

 セレモニーの開始時間が迫っていた。


 そういえば、王様は数年前から病に伏せっているらしい。それゆえにシグルド殿下が今回名代として取り仕切ることになった。

 そもそも、間に合わなかったにしろ、前線に出て陣頭に立とうとしていたことには賛否がある。批判に対しては一言で斬り捨てていた。「王国が負ければこの首もない。俺が戦死すれば、その首で降伏ができるだろうよ」と。


「此度の国難を乗り切れたのは皆の働きがあってこそだ。特に功重きはリンドブルム公爵アウグスト。一代限りではあるが大公の名乗りを許す。さらに改めて北部領域の統轄を任せる」

「ははっ! ありがたく拝領いたします」

「義父殿よ。これからも私の助けになってくれることを望むぞ」

「身命に替えましても」

「それはいかん。義父殿に孫を抱かせるまでは長生きしていただかんとな」

 その一言に会場の諸侯からも笑いが漏れる。笑っていないのは帰参組くらいか。


 次いで、戦いで功績のあったものが呼ばれ褒賞を受け取る。金貨であったり称号であったり、領土であったりと内容は様々だ。

 ゴンザレスさんが呼び出されたときは、がちがちに固まっていて、思わず吹き出しそうになった。

 

「最後に、龍王を従えし、帝国軍を破った英雄」

 ここで一度言葉を切る。芝居がかってはいるが、場の緊張感が高まっていった。

「我が友、アレク!」

 我が友って……まあ本音ではあるんだろうけどずいぶんと芝居がかっているな。

「はっ!」

 俺は進み出てシグルド殿下の前に立つ。これも事前の打ち合わせ通りだ。龍王が膝を着けば逆に権威が失われる、らしい。ついでに、俺は王国で暮らす身ではあるが、王家に仕えているわけではない。それゆえに、龍王が対等に認める友としての立場を強調したいとのことだった。

「アレクよ、お主の望みを聞きたい。我が国はお主に返しきれぬほどの恩を受けた」

「我が住処は王国にある。俺はその住処を守っただけの事」

「それは理由であって結果ではない。重ねて問う。お主に報いるに何をもってすればよい?」

「であればこれ以上の固辞はかえって無礼に当たるだろう。貴殿の心のままに受け取ろう」

 諸侯は固唾をのんで見守っていた。少し間をおいてシグルド殿下が口を開く。

「されば……名誉騎士の称号を授与する。そして、その称号にふさわしき剣を授与しよう」

「ありがたきお言葉。名誉騎士とはいかなるものでしょうか?」

「たった今決めた。国難を救う働きを見せた者に授ける称号をとする」

 その理屈で言えばアクセル爺ちゃんも当てはまるんじゃないかなーと思ったが、国に仕えているものとは立場が違うということになったそうだ。

「お受けしましょう」

「名誉騎士の佩剣としてグラムを授ける」

 この言葉には会場がどよめいた。王家の重宝で、王位継承者にしか持つことを許されていないからだ。

「拝領いたします」

 資格を持つものにしか抜けないとされる剣だが、もともとは一定以上の魔力と、龍の血をひくものにしか扱えないということだった。

 そして俺は受け取った剣を抜き放ち、掲げて見せる。

 どよめきは歓声にかわり、万雷の拍手が会場を満たした。

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