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44話 帝国からの使者

 かくして、強大な帝国は龍王の加護を得た勇者によって敗れ、王国は平穏を取り戻した。めでたしめでたし、だったら楽なんだけどな。


「アレク殿、衣装の採寸をいたします!」

 なんか、いつぞやのメイドさんたちに囲まれた。ナージャはほかのメイドさんと楽しげに話しており、さらになぜかエルフの女性の皆さんがエイルの世話をしている。

 傍から見たらどっかの貴族の奥様である。立場上は王族より上らしいけど……。


 なにやらきらびやかなドレスを見て目を輝かせている。うん、実によい光景だ。旅に出るときにシグルド殿下からもらった装備品のローブも良かった。白を基調として、飾りがついている。普段服装にはあまりこだわらないナージャもすごくいい笑顔をしていたので、頑張って稼いでいい服を着れるようにしてやろうと思ったものだ。


「まあ、お似合いですわ!」

 黒を基調とした礼服に、儀礼用の宝剣を佩く。グラムは収納袋の中に入れておいた。パレードは二週間後を予定している。メインストリートの警備体制や清掃などが行われている。

 特に清掃については市民から志願者が殺到しているらしい。曰く「龍王様が顕現なさって、我が国を守ってくれた」とのことらしい。

 はっきりと言えば、ものすごく個人的な理由でやったことの結果に過ぎない。だから何となく罪悪感があった。

「気にすることではあるまいよ。結果が全てだ」

「そういうものですか」

「ああ、良かれとやったことでも人に害をなすこともある。とある国では、作物を食い荒らす鳥を駆逐しようとした。すると、その鳥がエサにしていた虫が大量に発生して農作物の被害はより拡大したそうだ」

「なるほど。鳥の駆除を命じた者は良かれと思たわけですね」

「そうだ。まあ、世の中やってみなければわからんこともあるがね。我ら為政者は常に結果を示さねばならん」

「ですね。俺には無理です」

「どうかな? 意外とうまくやりそうではあるけどな?」

「買い被りですよ。それに、俺が何かしようとすればそれは全て力づくになる。山火事を消し止めたりとかならともかく」

「それができるだけでも垂涎の力ではあるがな。しかも世界を統べる力を持っていておぼれておらぬ」

「ああ、そんなの簡単です。ナージャがいるから、ですよ」

 少し怪訝な表情をするシグルド殿下に俺はさらに言葉を重ねた。

「男には、こいつの前だけでは格好つけたいってことがあるじゃないですか」

 目線がふと逸れる。ああ、ヒルダ嬢の方を見たのか。

「よくわかる。うむ、俺もヒルダにふさわしい男になるために人には言えぬような努力をだな……」

「でしょう? ではそんな女の前で無様を晒すくらいなら?」

「憤死するな」

「そう、力におぼれて人に害をなすくらいならナージャに討たれる。あいつの前で格好つけることに命を懸けてるんですよ。俺はね」

「愛だな」

「愛です」

 互いにガシッと手を握り合う。

「ふふ、こうして本音を語り合える相手ができるとはな。王者とは孤独なものでな、栄華も独り占めだが責も一人で負わねばならん」

「けれど、見守ってくれる相手がいれば……」

「ああ、どこまででも駆け抜けよう」

 周囲のメイドさんたちがなぜか熱い吐息を漏らしている。「ああ、これが男同士の……」「尊い、尊いですわあああ!」「美しひ……」

 怖気に負けて、俺たちはひとまず部屋の外に出ることにした。なぜかねばつくような視線を背後に感じたが、気のせいということにした。

 

「殿下、帝国から使者が……」

 伝令の兵が、シグルド殿下に報告を上げた。俺は席を外そうとしたのだが、縋られて一緒に報告を聞いた。

 皇太子自らが使者としてやってきたという。護衛はわずか百騎というあたり、帝国としての体面かそれともよほど豪胆なのか。


 俺はシグルド殿下に付いて応接室に連行された。面倒ごとになりそうなので正直気が進まなかったが。シリウス卿のすがるような目つきに負けたともいう。ちなみに再びこのやり取りを目にしたメイドさんたちが騒いでいた。「王子とシリウス卿とアレク様……ああ、組み合わせどうしましょう!?」「決まってるじゃないの! アレク様とシリウス様で王子を……」

 うん、何の話だろうか。知ったらいろいろとまずい気がするので、俺は聴覚を閉ざすのだった。


「はるばるよくいらした。歓迎しよう」

 席についてまずシグルド殿下が切り出した。

「いや、修辞は不要。先日のことについて、まずはお話したい」

 皇太子グンナルは即座に立ち上がってそう告げた。国同士の交渉となれば、普通は腹の探り合いから始まる。それだけにいきなり要件に入ったことでいぶかしむ。

「ほう? 賠償の話ですかな?」

 牽制のつもりで軽口を叩いたつもりだったのだろうが、相手の返答にむしろ唖然とする羽目になった。

「そうだ。我が国は敗戦した。それもこの上もなく明確に、な」

 ほぼ降伏宣言と言っていい内容だったのだ。

 

 先の戦いでは、ほぼ全軍が敗走した。途中事故死する兵もいただろうが、そこまではこちらもどうしようもない。問題は、巨大なドラゴンに追われたため、かなりの数が戦闘員として使い物にならなくなっている。

 そしてその恐怖がほかの兵にも伝わって、王国に攻め入ると龍に喰われるとの風説が流布しているわけだ。

「いや、人間とかまずいから食わないし」「うむ、たいてい変なもんがくっついていて喉に引っかかるのじゃ」「好んで食いたくはないよね」

 好き放題言っている三龍王だ。ちなみに、眷属というか、端末を部屋に置いてもらっている。鳥かごの中とか天井裏とか、あと、俺の足元の大型犬とか。

 会話は念話だが、シグルド殿下にも伝わるようにした。龍たちのセリフを聞いて微妙に頬が引きつっている。


「それゆえに、我が国の主力部隊は少なくとも王国相手には使い物にならぬ。同時に奴らの中にはそれなりの身分の者が居ってな、王国に寝返ろうとする動きもある始末じゃ」

「……そこまで手の内を晒す理由は?」

「……平和のためだ」

「その言葉を信じろと?」

「ああ、私が貴殿の立場なら同じくそう言うであろうよ。だがな、ここで偽りを言う利益は何がある?」

「ふむ、担保を求めればよい、か」

「そうだ。私の身を質とすればよい」

「事実上、帝国は王国に降ることになるぞ?」

「国土の併合などはできないであろう? そこまでの余力はあるまい?」

「見透かしているのはお互い様か。いいだろう。グンナル殿を我が盟友として迎え入れよう」

 そして手を握る二人。面倒ごとはごめんなんだけどなと思っていたら、やはり後日この会盟が厄介ごとの発端となるのだった。

 まあ、無くても厄介ごとは起きていたんだけどな。

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