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41話 作戦会議

 その日の夜、俺たちは戦場にたどり着いた。月も雲に隠れ、篝火だけが互いの明かりとなっている。さすがに夜戦を行うつもりはないのか、両軍ともに兵は陣営に収まっていた。


 幸いなことに、黒煙は防御施設の一つが炎上していただけだった。上空から見ると、王国軍はあらかじめ用意してあった陣に立て籠もり、何とかしのいでいる。

 ほぼ真北に帝国軍の先鋒が位置しているが、そこには軍装の異なる小部隊が見受けられた。おそらく裏切った小領主の兵だろう。

 さらに東西に兵を配置し徐々に包囲網を広げている。兵の厚みは簡単に分断できるものではなく、徐々に王国軍は追い詰められていた。半包囲状態で圧力をかけられれば潰走は免れない。現在は攻勢は止まっているようだが、いつ攻撃が開始されるのかわからない情勢は王国軍に更なる消耗を強いるだろう。

 

 裏切った小領主の兵は互いに隣接しないように分断され、間に帝国の部隊が挟まっている。そして常に最前線に押しやられるように配置されているあたりが実に嫌らしい。

 帝国軍の損害を減らしつつ、王国軍の損耗を増やそうという意図が見えた。


「アレク、ああいうのは常套手段だ。帝国側からしても、裏切り者は扱いづらい。帝国のために犠牲を払った後で初めて認められる……っていうお題目だな」

 ベフィモスが憮然とした表情で説明してきた。というか、真っ先に敵に突撃しそうな性格だと思っていたが、意外に冷静だ。

「意外そうに見るな。これでも龍になる前は人間でな。一応王様というのをやっていたんだよ」

「……龍は生まれつき龍だったのでは?」

「ああ、そう言うのもいる。けどな、龍というかドラゴンの定義はなんだ?」

「人間には手に負えない強い生き物、ですか」

「そういうこった。そういう意味じゃアレクは人型のドラゴンってわけだな」

 すごく複雑な気分だが、そう言われると納得する。

「あとはだ、得た力を具現化すればその属性にふさわしい姿に変身する。お前の場合は……なんなんだろうねえ?」

「わかりません。ただ、俺の力のルーツは……たぶん怒りです。お義父さん、ニーズヘッグと同じく」

「ああ、だからあいつの眼の力を従えたってんだな。わからんでもない」


 ふと背後を見ると、エルフたちは一様に硬い表情をしていた。帝国軍の雲霞とも見える大軍を見て、さすがにわずかながらの動揺があるのだろう。

 ドラゴンたちは涼しげな表情だ。上位種たる「龍」へと至った彼らには、それこそ同じ龍にしか傷つけることはできない。

 それこそ人間の軍勢は一万だろうが百万だろうが変わりはないというわけだ。


「さて、わが主よ。どのように行くかね? 俺の力で局所的に地震を起こし、奴らを生き埋めにしてもいい。リンドブルムの力で、奴らの吸う空気をなくして窒息させてもいいな。いい感じにもがき苦しむぜ?」

「ほう、なればわらわはあ奴らを深海の底に送り込んで見せようか。窒息する暇もなく押しつぶされるであろうよ」

 うん、なんか怖いこと言いだした。背後のエルフたちはドン引きだ。

「……うん、あんたら俺を一体何だと思ってるんですかねえ?」

 ぎろっと睨むと、リンドブルム辺りは少し首をすくめた。「ボク何も言ってないのに……」

 ふっと息を吐くと威圧感を緩める。そして、少し考えをまとめると口を開く。


「ヒルダ嬢。まずは陣営に降りて、俺たちが来たことをお父上に伝えてほしい」

「ええ、わかりましたわ。あ、けど、お父様に紹介って……わたくしにはシグルドという人が……」

「誰もそういう意味では言ってねえ!」

「あ、あれ? 申し訳ありません。早合点を……」

「ああ、もういいです。とりあえず、段取りを伝えてください。北からはベフィモス、東からはレヴィアタン、西からはリンドブルムが圧力をかけます。あと明け方位にエルフの部隊を陣に迎え入れてください」

「え、ええ……伝説の龍王が三方向から攻撃を仕掛けて来るとか、悪夢だったらましなお話ですわね……」

「あと、エルフの部隊は爺ちゃんに任せます」

「お、おお。任せておけ!」「おじーちゃんがんばってー!」

 爺ちゃんはエイルと遊んでいたので、返答が若干遅れる。さらにエイルの応援を受けて再び目じりがガッツリ下がる。そしてハンカチを噛んでぐぬぬとなっているお義父さん。あんたら何やってんだ。

「婿殿、我もアクセルと共に戦おうぞ。なに、五十年前の戦に比べれば奴ら等ちり芥よ」

「あー、うん、威圧だけにしておいてくださいねー。あと他の三人もね」

「なぜだ? 徹底的に殲滅すれば良かろう。さすれば、二度と奴らは王国の地を踏みはするまい」

 ベフィモスが問い返してくる。ただ口元には笑みが浮かんでいるあたり、俺を試そうとしているのだろう。

「それで、生き残りがいなければ帝国は再び軍を送り込んできますよね?」

「都度倒せばよい」

「めんどくさいです。とりあえずここにいる帝国軍二万の、心をへし折ります」

「ほう?」

「二万の目撃者がいれば、さすがに全部の口をふさぐのって無理ですよね。それに二万の中には兵だけじゃなくてそれなりの立場の者もいるはず」

「……そういうことか。面白い」


 この説明で何となくわかってもらえたようだ。さんざん帝国兵を叩き切った後で言うのもなんだが、人死にを少なくすることで、帝国を窮鼠にしないようにする。

 大きな損害を与えればいいのかもしれないが、その場合だと講和が難しくなるだろう。というか、一介の村人だったはずなのになんで俺はこんな政治とか考えてるんだろう……?


「それはだな、我らの力とともにお主に知識を分け与えたから、じゃな」

 レヴィアタンがいつもの笑みを浮かべて俺にしなだれかかってきた。反射的に避けると、待機していたナージャがガシッとしがみついてくる。

 避ける方向まで読んで待ってるとか、この嫁最高です。


 というわけでひとまずの段取りはできた。威圧の方法は任せることにしたが、多分ドラゴンの姿で出てくるだけで恐慌状態になるんだろうなあ。

 そして最後の一押しの方法が考え付かないまま、白々と夜が明け始めるのだった。

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