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36話 帝国の反撃

「しまった!? だれだ!?」

 意識が薄れて行く中で、俺は爺ちゃんの叫びを聞いた気がした。


 目が覚めると臨戦態勢のナージャが周囲を睥睨していた。ゴゴゴと音がしそうなほどの雰囲気をまき散らし、周囲のエルフたちが固まっている。

 俺が意識を失っていたのはほんの1時間ほどらしい。しかし、前後不覚になっていて、防御力がほぼ0になっていたそうで、知識としては知っていたが、ドラゴンをしとめるには酒という意味を実感とともに理解した。

 ちなみに頭の中では、お義父さんことニーズヘッグの罵倒の嵐が吹き荒れていた。

(このタワケがああああああああああああああああ!!!!)

 うん、わかったけどとてもうるさい。そして無言で涙目で抱き着いてくるナージャ可愛い。胸に顔をうずめてすりすりしてくる。うん、あれだ、ふと「エイルに妹とか弟ってどうだろうか?」と思っただけなのだが、ガツッと足を踏まれた。ドラゴン同士なので攻撃が通ってしまう。痛い……。

 そしてそんな俺たちをエイルはにこにこしながら見ていた。パパとママは仲良しさんと無垢な笑顔で見ていたのだ。(大事なことなので繰り返した)

 とりあえず、この騒ぎの後、ドラゴン一家の周辺での飲酒や酒の保管は固く禁じられた。最初は禁酒令が出るという話だったが、別に人が飲んでいるのを見るのは問題なく、俺が酒が好きというわけではなかったので、そういう話にしてもらったのだ。


 そして数日が過ぎた。エイルのドラゴン形態は、エルフのお姉さま方の心をがっしりと鷲掴みにしているようだ。今日も奇麗なお姉さんの膝の上でブラッシングされている。

「うゆー」

 よくわからん声を上げて伸びきっている。うん、かわいい。

「うふふ。エイルがすっかりなじんじゃって、あの子のブラッシングはわたしが、わたしが……」

 うん、ナージャ、少し抑えよう。なんかいつぞやのように黒いオーラが出てる。

 そして、エイルが目線だけでナージャを浄化した。ふんわりと目を細めた顔でこっちを向いただけなんだけどなにあの可愛い子。

 そして背後で爺ちゃんが悶絶していた。エイルはお爺ちゃんと呼んでいるが、実際にはひい爺さんに当たるんだよな。まあ、細かいことなので気にしないことにした。


 そうこうして日々を過ごす。迷いの森には多くの凶悪なモンスターが潜んでいるが、エルフたちはそれらをうまく避け、共生関係を築いていた。そこに至るまでには多くの互いに犠牲があったというが、とりあえず今が良ければ結果オーライだろう。


 帝国軍陣地は、戦闘の翌日にガッツリ破壊しておいた。これで再び拠点を構築するのには相当の人員や資材を必要とするはずで、エルフの攻撃をはねのけつつの構築は不可能ではないだろうが、その破壊を成した俺たちがいることで相当の抑止力にはなっているはずだ。

 などとのんきに構えていた日もありました。


 帝国軍の大部隊が迷いの森に侵攻。後方支援の人員を入れれば千名を超える兵力を投入してきたらしい。

 定期的にフェイが周囲を上空から偵察してくれていた結果判明したことだ。

 

「おそらく竜殺し部隊の総力を挙げているものと思われますな」

「で、あるか。ただ、残りの3人が死力を振り絞ったとしても、アレクに毛筋一つの傷もつけられんぞ?」

「そなの?」

「ああ、わしと互角程度の腕だからな。わしが10人おっても同じであろうよ」

 人類最強とされる龍騎士アクセルと同程度の腕の兵を3人抱える帝国もすげえなと思いつつ、話を聞く。

「戦闘員は300ほどだが、先日までの駐屯していた兵力が100ほどであったことを考えると、総攻撃といっても差し支えなさそうじゃな」

 ちなみにエルフの村の人口は500ほどで、白兵戦に耐えうるのは30人ほど、弓兵として戦えるのは200名ほどだ。女性は基本的に戦場には立たない。森の魔力を転化して、治癒魔法を使えるので後方支援を担っている。

 地の利はあるが、正面戦力は10倍。エルフたちだけであれば、損害を考えない総攻撃を受ければひとたまりもないだろう。

 しかし、ざわめきはするが絶望感はない。それほどまでにドラゴンの加護を信じているのだろう。


「我らにはニーズヘッグの一族がついている。皆の者! 森と、世界樹を守るのじゃ!」

 長老の激にエルフたちは雄たけびで応えた。世界樹を傷つければ、守護者が現れ、世界を滅ぼすと言われている。

 それを迷信だと笑うのは簡単だが、俺の龍の感覚は世界樹の根元に強大な力が眠っていることを感じ取っていた。それこそ、龍王ですら及ばないほどの力だ。

 敵対はしないだろうが、あれほどの力を持つものが目覚めれば予想もできないほどの余波が出るだろう。ナージャも俺の意見に賛成してくれていた。だからあらかじめ告げなければいけない。龍の力を大きく開放はできないということを。

 

「聞いてくれ。世界樹の守護者らしき存在がある」

 唐突な俺の言葉に場がざわめいた。そのざわめきを無視して俺は言葉を継ぐ。

「ものすごく強大な存在だ。龍王すら及ばないほどの。だからなるべくそれを刺激したくない」

「どういうことじゃ、アレク」

「力を全力で振るえばすぐにでも全滅させられるけど、守護者が目覚めてしまうかもしれない。だから、力を抑えて戦う」

「…‥仕方あるまい。皆もそれでよいか?」

 若干不満げな者もいたが、龍王を超える存在というと、龍神しか考えられない。そんなものが目覚めればどういうことになるのか誰も想像がつかなかった。無論、俺も。

 ちなみに、最初の戦いは奇襲のため力をそれほど使っていない。1割程度だ。大体そのあたりを目安に使うことになるだろう。そして、1割の力で敵軍をほぼ壊滅させた俺の力に、エルフたちは再び士気を盛り上げた。


 偵察に出たエルフの弓兵が状況を確認してきた。大盾を持った兵が前面に並び、隙間を狙って矢を射込むことはできるが、面の制圧は難しい。そのままじわじわと押し込まれてしまう可能性が高いとのことだった。

 盾は竜の鱗を使っており、魔法攻撃も防ぐであろうことだ。無論普通の矢は通らない。

 その背後では着々と拠点の修復が進んでいる。少なくとも、この場所に大兵力がとどまることができる状況が完成してしまえばエルフたちの制圧は時間の問題だろう。

 俺は爺ちゃんと共に出撃の準備を整えるのだった。

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