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35話 エルフの村にて

 エルフの村は森の奥にあった。入り口も偽装されており、認識障害の結界がかかっている。

 爺ちゃんが手をかざすと、草むらがいきなり開いて道が現れた、ように見えているんだろう。残念ながら龍の眼の加護を持つ俺には効いていない。

 俺の目線からそれを感じ取ったのだろう。爺ちゃんが苦笑いを浮かべる。


「龍の眼、じゃな?」

「ああ、視覚を遮る結界は俺には効かない」

「ふふ、お前が味方で良かったわい」

 そのやり取りを聞いたエルフの一人が身震いしている。それはそうだろう。一般兵ならともかく、竜殺しの兵と真正面からはとても渡り合えない。

 相手の認識を阻害し、意識の外から射抜く。こうやって徐々に損害を与えてきたのだが、今日の戦いはかなり危なかった。

 爺ちゃん一人が孤立し、敵の切り札がぶつけられていた。更に退路を断たれる。俺たちが駆けつけなければ、かなり危機的な状況だっただろう。現実には切り札は俺に叩き斬られ、竜殺し部隊も壊滅した。

 一般兵はナージャの範囲攻撃魔法で全滅だ。これでしばらくは攻めてこれないだろうとも思うのだが……。


「実はだな、彼の剣士は竜殺し四天王の中でも一番の小者よ」

 俺の疑問を表情から読み取ったのだろう、謎のドヤ顔で爺ちゃんが告げた。

「まだ3人もいるのか……」

「うむ、というかじゃな、次の攻勢には残り3人が一気に投入されるじゃろうな」

「あれよりも強い?」

 エルフの射手10人で一斉射撃しても倒せなかった相手を「あれ」呼ばわりしているあたりで、エルフたちの表情が引きつっている。

「ふむ、まあのう。わしも一対一ならともかく、束になってこられたら厄介だな」

「前衛は俺がやる。爺ちゃんは遊撃で。ナージャが後方から支援して、エイルが回復」

「まて、なんでエイルちゃんが普通にメンバーに入っておる!?」

「いや、そのエイルの魔法で命が助かったよね?」

「そこはそれ、これはこれ。こんなかわいい子を戦場に立たせるとかお前は鬼か!」

「いや、ドラゴン族だからね? 普通に身体能力は爺ちゃんより強いからね?」

「ぐぬ! であってもこのような幼い子を……まて、この子はいくつじゃ?」

「えーっと……そろそろ一か月?」

 振り向いてナージャに確認すると、「そうだね」と返答があった。

 爺ちゃんとエルフたちはもう絶句である。ドラゴンという生き物の非常識さについては、俺はもう慣れた。ちなみにフェイは黒龍戦争の後の生まれではあるらしい。


 とかなんとか言っているうちに、村の中についた。

 一見すれば俺たちは人間だが、内包する魔力がすでに人間の域を超えている。

 五体投地しているエルフもいて、歓迎というか、出迎えの様相はかなり混沌としていた。


「アクセル殿、ご無事で何より……?」

 爺ちゃんの鎧は胴をばっさりと薙ぎ払われた跡がある。そのくせ無傷だ。そこに違和感を抱いたのだろう。

「うむ、ちと危なかったな。だが、わしの子供たちに救われたのだ」

「おお、この方々はアクセル殿の身内の方か! 人間じゃないっぽいですが」

 さっくりと本音が出ている。この人たちと爺ちゃんの関係が見て取れた。

「ああ、まずはこれはアレク。孫じゃ」

「おお!」

「そして、孫の嫁のナージャだな。すでにわしの孫がおるからな。モーションかけても無駄じゃぞ?」

 その一言にナージャがくねくねし始め、さらに地面を転がって悔しさを表現しているエルフの男ども。焼き払ってやろうか?

 少し何かが漏れ出したようだ。その魔力の波動に少し年かさのエルフたちががくがくと震えている。


「ちょっと待たれよ……その魔力の波動は覚えがある。ま、まさか……?」

「ああ、アレクはニーズヘッグの眼を取り込み、更にはそれを我が物としている」

 声にならない悲鳴が場を満たした。龍の血を浴びるなどで、その力の一端を手にすることはできる。だが、同意があって譲られた力であっても、人の身には過ぎた力だ。

 受け入れ、使いこなすには相当の精神力を必要とするし、肉体的に頑強でなくてはいけない。

 だから高レベルの冒険者か、それに準じる者だけが竜の装備を与えられていた。装備品の持つ魔力に捲けてしまうと、正気を失ったり、場合によってはそのまま精神が死に至る。

 それゆえに、ニーズヘッグの眼を受け入れ、その力をねじ伏せている。さらにそのことによって精神が引きずられていない。この時点で俺は人外なわけだ。

 さらに、目と心臓が竜の力の源となっている。単純計算で、俺はニーズヘッグの力の三割ほどを手にしていることになるわけだ。

 さらに、その眼を貫いてその力を奪った魔剣グラムによって、残る片目の力も操ることができる。

 ニーズヘッグの半分の力をその手にするとなると、並の人間ならばその力に酔って破壊を始めるとか世界征服に乗り出すとか、まあ色々な異常行動をし始める。

 もしくは逆に魔力に体を乗っ取られて、龍の本能のままに振る舞い始めるとかだ。

 龍の血を飲んだ者の一割も生き残らないのはそういうわけらしい。逆に生き残れれば、人外の力を得る。具体的にはAランクの危険度のモンスターをワンパンKOできるほどだ。


 彼らの表情には喜色が浮かび出す。件の四天王が3人束になったとしても、龍は倒せない。そして、龍と「龍王」の間にも越えられない壁がある。

 その龍王の力の半分を持つ、しかも理性を保っている戦士が味方に付いたわけである。


「宴じゃああああああああああああああああああああ!」

 長老っぽいエルフが叫んだ。わっと周囲のエルフたちが沸き立つ。緑色の帽子が乱舞していた。ちなみにこの帽子は世界樹の葉っぱの繊維をほぐして、糸にしたものを編んだ布を使っているそうだ。

 魔力増幅であったり、森の魔力が力を貸してくれる。ちなみに、魔力を通すとちょっとした金属冑よりも強度が上がるとか。

 うん、そりゃ帝国が狙うよね。世界樹の枝を使えば高性能な魔杖ができる。弓の素材にもできるだろう。これらを一部の精鋭に与えれば、うまくすれば下級の龍を狩ることができるかもしれない。


 とりあえず、出てきた料理を楽しむことにした。酒は断る。龍は酒に弱い。酒に酔って眠りこけた竜を討伐した逸話はそれなりに多い。

 彼らは歓迎の姿勢を見せてくれているが、どう転ぶかもわからない。用心に越したことは無いだろう。


 そう考えて手に持った器の液体を飲み干したあと……俺は意識を失った。

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