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29話 娘と遊んでみた

「アクセル殿の情報は王家の名において提供しよう。あとは、旅の準備だな。装備品を用意させている。ので、少し時間をくれないだろうか?」

「は、はあ……」

 なぜかはわからないが、シグルド殿下がやたら下手に出てくる。何か裏がありそうだ。

 ふと傍らのヒルダ嬢を見ると、あからさまに目線をそらされた。そらした先はうちの娘なので、不自然ではないように見せかけているが……。

 にぱっと笑ったエイルに手を伸ばして指先をワキワキさせている王太子妃と言うのは微妙に残念ではあるが、似たようなリアクションをしている村の女性は多い。冒険者の中で豪傑と名高い女戦士が頬を染めるシーンに撃沈している男どもも多かった。


「迷いの森の場所が問題なのだ。北の帝国領内にある」

「そういうことですか。と言うか最初からそう言ってくれればいいのに」

「彼の国はいま、竜を狩って力を伸ばしている。人の生活できる範囲を広め、開拓も進めていると聞く」

「ドラゴンの素材を使った武具ですか」

「そう、並の魔物では相手にもならんほどだな」

「竜とはいえ、普通に人の手に負えるものではないでしょう?」

「竜殺しの戦士は、それだけで貴族位が与えられる。当面一代限りだがな。功績をあげれば位は上がる。というか、それだけがほぼ成り上がることができる道になっているようでな」

「いくらでも希望者はやってくると。冒険者の育成にも力を注いでいるんじゃ?」

「そういうことだ。最終的には開拓よりもすでにできている土地を奪いに来るであろうよ」

「……先日のモンスターの襲撃も?」

「試しにやってみた程度の認識だろうがな。境目の領主を引き抜くのは良くある話だ。件の元子爵は父の跡を継いだばかりでな。モンスターの征伐に功績があったのだ」

「加増を望んでいたとかですか……」

「平たく言えばそういうことだ。切り取った領土を与えるとでも言われていたのであろうよ」

「お約束、ですねえ。ただ、そのためにこの村が狙われたのですか……クク、ククククク」

 笑いが漏れた俺をみて、周囲の人間が一歩後ずさる。

「あはは、いやだなあ。俺は守るべき人には手を出しませんよ?」

 おっと、いかん、いろいろ漏れていたようだ。ナージャが俺の後頭部をスパーンと叩いたことで気づいた。

「アレク、魔力もれてる」

「パパー、なんかすごいの。かっこいいのー」

 エイルがキラキラした目を向けてくる。うん、やっぱこの子もドラゴンなんだな。強い者に惹かれる。


「うむ、そういうことで、後は頼んだ」

 シグルド殿下は若干腰が抜けているヒルダ嬢をがばっと抱きかかえ、踵を返した。

「ちょ、やめなさい! 恥ずかしいですわ!」

「じゃあ、自分の足で立ってみろ。あんな高密度の殺気を浴びせられて意識があるだけすごいけどな」

「じゃあ貴方はどうなんですの?」

「お前の前で無様な姿をさらすくらいならどんなことにだって耐えて見せるわ!」

「うふ……意地っ張りなところは変わりませんわね。けど、わたくしだけの前なら弱いところを見せてもいいのよ?」

 と言うあたりでシリウス卿が咳払いをする。さすがだ、この甘ったるい空気を霧散させてくれた。と思いきや……


「自分で立てますわ!」「無理はいかん!」「貴方、単にこうしていたいだけでしょう!?」「惚れた女を抱き上げたくない男などいない!」


 即座に流れを戻しやがった。何となく白けた空気のまま、解散となった。


「パパー、遊んでー」

 ナージャから話を聞いていたエイルが懐いてきた。可愛いな。

「何して遊ぶ?」

「んー、鬼ごっこ?」

「そうか、じゃあ、俺が逃げるから捕まえてみるか?」

「わかったー」

 少し離れたところに立つ。ナージャがエイルに何か耳打ちしている。こくりと頷いた後、やたら楽しそうな笑顔で「いくよー」と宣言してきた。

「おいでー」

 思わず笑みがこぼれる。この子、まだ生後2日目なんだぜ? 信じられないくらい可愛いな。

「んーーーーー! てや!」

 力を込めた後、踏み込んだようだ。なぜ「ようだ」なのか。それは全力で踏み込んだせいで地面がえぐれたからだ。

 踏み出そうと力を込めた足はそのまま空を切り、そのままペタッと落下していた。

「うー、むずかしい」

 魔力で強化しすぎて、地面の強度以上の力を込めたようだ。

「もういっかい……へや!」

 可愛らしい掛け声と裏腹に、とんでもない速度で迫る愛娘。手が伸びてくる。可愛らしく握りこまれていた。なぜか俺の顔面に一直線に迫ってくる。

 ヘッドスリップでよける。頬をかすった。血が流れる感触がある。

(ほほう、さすが我が孫。見事な一撃だ)

 やたらのんきな声が脳裏に響く。これ直撃したら俺意識刈り取られないか?

 子供ゆえに一直線な攻撃だから避けるのはたやすい。というか、鬼ごっこってもっと平和的だよな?


「えい、やあ! とーーー!」

 真正面から繰り出される拳の弾幕。歴戦の格闘家よりも速く鋭い。手数も尋常ではない。リーチの短さが弱点だが、それも問題にならなさそうな威力だ。

「あははははははは!」

 楽しそうに攻撃を繰り出してくるエイル。生まれたときからバトルジャンキーってどんだけ? これが龍の血か!?


「うふふ、パパに遊んでもらえて楽しそうね」

 まさに慈母の微笑みを浮かべるナージャ。見とれていたら再び拳が顔をかすった。

「うー、当たらない」

 並の冒険者だったら束でも叩き伏せるだろう。

(我の血を引いているからな。龍王の戦闘経験を受け継いでいるんだな。こうして我が血脈と力は受け継がれるのだな。おお、なんという喜び!)

 あー、だから俺が力に目覚めたときどう動けばいいのか「わかった」のか。

「きゃはははははは!」

 いい笑顔を浮かべて拳を繰り出す。と、蹴りも加わった。ナージャが足をしきりに動かしていたせいか、閃いたようだ。

 と言うかスカートがめくれるからハイキックはやめなさいとナージャに目線でツッコミを入れる。

 ちょっと顔を赤くして黙り込んだ。かわいい。


「ふしゅー……」

 エイルは疲れたのか、座り込んだ。

「もうおしまいかい?」

「うん、つかれたの。けどパパつよい、かっこいい!」

 にぱっと笑う表情に癒し効果はばつぐんだ!

 こうして鬼ごっこと言う名前の戦闘訓練が日課に加わったのだった。

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