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18話 黒騎士との死闘

 なぜか兵たちの訓練スペースで俺とシリウス卿は向かい合っていた。後ろではナージャがフェイを膝の上にのせて、のんきに応援してくる。

 槍は本身だった。当たれば斬れる。突かれれば刺さる。当たれば、ね。

 俺も愛用の剣を右手に、バックラーは衛兵の備品を借りたものを左腕に装着した。


「行きます!」

 構えた槍先が瞬時に大きくなったように見えるほどの、正確かつ神速の突き。愛用の剣とは言え数打ちのナマクラのため、魔力を流して強化する。

 いわゆるパリィの技術で、槍の横に剣を入れ、力をくわえてずらす。同じことをバックラーでも行う。力任せに叩きつけても、こっちの武器を傷めるだけだ。

「はははははははは! すごい! 俺の突きをここまでかわすとはなあ!」

 おいおい、キャラ崩壊してるぞ? 口調がワイルドになっている。

 

 周囲の兵たちも驚いている。「シリウス卿が!」「まずい。治癒術師を呼びに行け!」

 あーうん、いつもの事なのね。

「爺さんに教わった基本のままの動きだ。それでいて洗練され無駄がない。……ククク」

 うん、貴公子然とした顔は狂喜に歪み、目がらんらんと輝いている。重度のバトルジャンキーだ。

「ジーク爺さんを若くしてパワフルにしたらこんな感じなのかねえ」

 お互いに自分の武術のルーツは同じだと確認した。と言うか、会話のさなかにも激しく打ち合っている。

「マジか……」「シリウスさんとこんなに長く打ち合えるやつは初めてだ!」「うん、結論、二人ともおかしい」

 なんか周囲の兵たちが好き放題なことを言っている。


「ふっ、ならば我が奥義にて決着をつけよう……」

 シリウス卿は一度退いて、呼吸を整えている。俺? 普段通りだしそもそも打ち合いと言っても相手の攻撃を捌き続けただけだ。

 そもそも間合いが違いすぎる。実戦なら逆に魔法を打ち込んで終わりだろう。といっても、お義父さんの性質上、属性魔法は使えない。同時に回復魔法も使えない。

 攻撃一辺倒の力だ。ただ、俺の使う魔法障壁はほぼ龍の鱗の防御力を再現する。人間の振るう技については、事実上の不可侵だ。


「はあああああああ! 受けよ! ヘキサスラスト!」

 ヘキサ(六紡星)の頂点を繋ぐ形で刺突が一呼吸のうちに繰り出される。その先端は魔力をまとい、虚空に簡易ながら陣が描かれる。

 そして、わずかな間をおいて陣の中心を撃ち抜くような刺突。陣の効果は……加速。速度はすなわち威力だ。軽い小石でも加速してぶつければ大きな威力をもたらす。

 ましてや、業物の槍の穂先がさらにえぐり込まれるようにらせんを描く。

 真っ向から受け止めることもできるが、それだと俺が人外だとばれる。体を開いてその刺突を受け流し、交差法の原理で、くるっと一回転して盾を叩きつけた。

 軽いバックラーとはいえ、体を回転させ、裏拳を叩き込むように放ったシールドバッシュだ。シリウス卿は脳を揺らされ、たたらを踏む。

「すげえ!」「どんな反応速度だよ!?」「シリウス卿の突きに交差法をかぶせるだと! 馬鹿な!?」

「「うおおおおおおおおおおお!!!」」


 兵たちの騒ぎはとどまるところを知らない。と言うかもはや歓声が上がっている。力こそ正義の風潮であるが、力ある者は同時に正しき行いをしなければならないとの不文律がある。

 俺はシリウス卿に近づき手を差し伸べ……スパーンと投げられた。すぐさま跳ね起きて剣を構える。

 若干ふらつくシリウス卿は追撃を放てる余力はなさそうだった。

「まだだ! まだ終わらんよ!」

 さらに刺突を繰り出そうとするが、最初の正確さは望むべくもない。

 電光のような突きは鳴りを潜め、槍を掴んで引き寄せると、再びシールドバッシュを叩き込むのだった。

 今度こそ確実に意識を刈り取った……はずだ。大の字になって伸びるシリウス卿に剣の切っ先を突き付けた。

「「「ぬおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」

 さすがに覆しようのないほどの決着に訓練場が沸いた。と言うかいつの間にやらすごい人数が集まっていた。


「見事!」

 その中にひときわ豪華な衣装を着た青年が現れる。

「我が配下の中でも最強と名高いシリウスを真正面から撃ち倒すとは見事! 名を聞こう!」

 すごく偉そうな人から名前を聞かれて、名乗るほどのもんじゃないですとフェードアウトする度胸はさすがになかった。シリウス卿の上司らしいし、とりあえず挨拶をしておく。

「ティルの村のアレクと申します」

「そうか、我はシグルドだ。よろしく頼む」

 ぼそっとシリウス卿のお付きの兵っぽい人が王子様だと教えてくれた。聞きたくねえ。

「そなたのような強者が我が国にいることを誇りに思うぞ!」

 王子様は気さくに握手を求めてきた。というかだ。だんだん偉い人に目をつけられている気がした。

 そして、俺がここに来た経緯を周辺の兵士から聞き出すと豪快に笑い始めた。

「ふむ、すでにヒルダが目をつけておると申すか。しかも、叔母上の形見を持たせるとは、さすがよな」

 え、なにそれ、なんでそんな大事なもの渡すの? 確かに命は救ったけどさ。

「ああ、アレクよ。一応確認だけはしておこう。ヒルダの求婚を受ける意思はあるのか?」

「へ? なんですとおおおおおおおおおおおおお!?」

「ふん、やはりか。と言うか、そちらで……美しい」

 ナージャに目を向けた王子は顔を真っ赤にしている。ベンチの上でフェイを抱き枕に眠っていたようだ。と言うかこの騒ぎでも目を覚まさないとか、我が妻ながら豪胆なことである。

「……アレク殿、彼の女性を紹介してはくれまいか?」

「ああ、私の「妻」のナージャです」

 あえて強い口調で「妻」と宣言した。相手が王子様だろうが何だろうが知ったことか。

「そうか……であれば仕方あるまい!」

 若干赤い顔はしているが、きっぱりと宣言した。中々に器のでかい方らしい。

「ご理解いただけたのですか?」

「ああ、おぬしほどの強者であればナージャ殿を守るに不足はあるまい。納得したぞ」

「……ありがとうございます」

「そう睨むな。あれほど美しい女性は初めて見た。しかし、我とは縁がなかった。そういうことであろう」

 本気で言っているようなので、少し威圧を緩めた。王子の背後にいた兵が決死の覚悟を決めつつあったこともある。

 王子は兵に命じてシリウス卿に水をぶっかけさせた。目覚めたシリウス卿は俺を見てすごくいい笑顔を浮かべる。

 俺とシリウス卿はともに王子様の私室に招かれることとなったのだった。

力ある者が貴ばれる。即ち脳筋最強な国なのです。


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