プロローグ
俺は今ベッドの上にいる。
体にモニターや人工呼吸器や点滴がつなげられていて、誰が見ても延命させられていると一目で分かるだろう。
心臓が血液を送り出す力が弱くなっていて、肺が上手く酸素を取り込めていない。
ああ、俺も人生も終わるんだな。
ここ数日さらに容体が悪くなっていくことには気づいていたし、死の足音がそこまで聞こえていたので覚悟は出来ているつもりだった。
それでも実際に死ぬのは怖い。
周囲の友人の中には今まで全く興味のなかった仏道に入り、足しげくお寺に通い説法を受けている者もいた。
死が近づくと何かにすがりたくなる。本当に宗教とは上手くできている。
死に対する勉強とでもいえばいいのかな。
一番の親友も晩年は山寺に通い説法を受けて、立派な戒名をもらっていた。
あの時に一緒についていけば何か今の心境が変わっていたのかもしれない。
それも既に時遅しなんだけどね。
本当に充実した人生だった。
無事に大学に行き、就職が嫌だとごねて大学院に行き、親の言うことを聞いて実家近くの優良企業と呼ばれていた会社に入社。
それからほどなくして、合コンで出会った女性と結婚、子どもが出来て、夢のマイホームを買い、上司のパワハラが原因で遠くに異動させられもした。
色々あったけど本当に楽しかった。
次回生まれ変われることが出来たとしたなら、同じように悔いのない人生にしたい。
そもそも生まれ変わるってなんだろう。
ああー、どんどん眠くなってきた。これはもう時間が残されてないな。
最後に頑張って周りでも見てみるとしよう。
最後の力を振り絞って瞼に力を入れる。
徐々に周囲が明るくなってきて、二人の息子とその孫達が目に涙を浮かべている。
トナカイのように鼻を真っ赤にしている子だっている。
そんなに泣くんじゃないよ。
逝きたくなくなるじゃないか。
これからはお前たちが息子に同じことをするんだぞ。
本当に子どもはいつまで経っても子どもだ。
5歳くらいから成長していないと思うほどに、親にとって子どもはどこまでいっても子どもだ。
それにしても、もう限界。俺にしては最後の最後で粘ったものだよ。
自然の摂理に従うように意識を手放していく。
さようなら、俺の人生。
さようなら、息子たち。
さようなら、この世界。