やさしい嘘
「あのさ、俺、東京に行って夢叶えるんだ」
その言葉は突然だった、そして聞きたくもない一言を私は聞いてしまったのだ
「遠距離恋愛、俺辛くてできない、だからさ…別れよう」
『…え?』
「ごめんな、さよなら」
『え、え、やだ、やだやだやだ、そんな、突然すぎるよ、なんで、どうして…?』
久々に取り乱した
私は今にも触れれば壊れそうなほどの、そんな表情で、君を見つめる
「…だって……たく…」
『…へ?』
聞き取れなかった、でも君の顔は寂しそうで、本気なんだなって、分かった
『じゃあ、私も一緒にい』「それはダメだ」
理解なんてできない
ただ
拒まれた
「ダメなんだよ、ごめんな。この夢は、1人で叶えなきゃ意味が無いんだ…だから…」
でも、受け入れるしかなかった
『…わかった、じゃあ、さよなら』
涙が出そうなのも堪えて
壊れてしまいそうな心を必死で取り繕って
私は笑った
『幸せだったよ』
すると君は、いつも通りの優しい笑顔で、返してくれた
「あぁ、俺も」
さよなら、私の愛した人…
またいつか
会える日まで…私、ずっと待ってるからね
そんな思いは、暑苦しいセミの鳴き声に掻き消された
それから数ヶ月
彼とは暫く連絡を取っていたが、気づくと返事が返ってこないようになっていた
何度も彼に連絡を取ろうと思ったけど
しつこくするのも嫌だったから、送信はせずに保存していた
そんなある日
彼の親から、一通の手紙が届いた
彼が病死した。という内容と、彼から言われたことだけが書かれていた
ガンで、私と別れた時にはもう余命が短かったそう、私には、絶対に伝えてはいけない、とだけ言われてたらしい
読み終わった手紙を、私は閉じて机に置いた
そして何も無かったかのように
彼へのメールを打ち込んだ
『嘘つきなんか、嫌い。だからもう君のことなんか待ってやんないもんね!σ(>д<*)べ-ッ
絶対君よりいい彼氏見つけてやるーっ!!(`・ω・´)』
そんなふうにふざけて君に送って
私はそっと、瞳を閉じた
その瞳からは、静かに雫が零れていた
こんな寂しい恋愛もあるんだろうなって