彼女から貰った眼鏡はある意味仕事をしてくれた。
後に有名作家として名を馳せる私が物心で最初に書いてみた短編です。
酷く稚拙ですが覚悟のある方だけお読み下さい。自分で言うのもナンですが本当に酷い文章です。(今も)
「いつも黙っていて気持ち悪いんだよ! クソが」
「うわ、こっち見てるんだけど、キモ」
「邪魔、お前生きる価値ないから」
なんだよコレ……。俺が楽しみにしていた高校生活と全然違うじゃねぇか。
普通にしていたんだ。普通でいたハズだったんだ!
――あの時からだ。
俺の名前は天道蒼士。
顔は中の下、頭の良さは中の下、運動においては最悪だった。
体育でバスケの時だった。極度の運動音痴だった俺は仲間にボールをパスするとき……
誤ってクラスのリーダっぽい奴の顔面に当ててしまった。そこからだ。初めはアイツも「大丈夫だ」と、許してくれたんだ。
まあ、そこからイジメまで時間は掛からなかったんだけどな。
クラスのリーダっぽい奴に続き、クラス全員が俺を苦しめたんだ。
掃除の時は、俺にゴミ袋を被せてきやがった。
俺はかぶせられた直後、アレルギーが酷くなり咳が止まらなくなった。
死にそうな位辛かったんだ。
学校が終わった。
俺は部活に入っていないので、このまま自宅に直行だ。
帰宅の途中――
「天道くんっ!」
聞き覚えのある声がした。
後ろを振り向くと、そこには可愛らしい子が立っていた。
その子は俺よりも若干背が低く、春風がその子の髪をなびかせていた。同時に、その子の良い匂いが俺を優しく包み込んでくれた。
「てん……し」
太陽が辺りを照らしてくれて、その子は天使そのものだった。
「えへへ、天使だなんて」
「あ、ごめん。つい可愛くて」
「冗談でも嬉しいよ、ありがとう」
その子は結城叶恋。同じクラスだが唯一俺をかばってくれた人物だ。俺は叶恋が居なければこの世にいなかったかも知れない。
なんで俺なんかをかばうのか分からない。でも俺は恩を感じている。
「今日、友達が用事があるんだ。一緒に帰ろう」
唯一の希望を、幸せを失うものか。
「――ああ」
それから俺は叶恋と帰ることが多くなった。
自分の趣味を聞いてくれたり、学校で辛かった事を叶恋は励ましてくれた。
「蒼士くんって音楽が好きなんだ! 私も好きだよ、どんなジャンルとか聞く?」
「大丈夫だった? 酷いよね啓汰くん。そんな言い方しなくてもいいのに」
いつの間にか下の名前で呼んでくれた時は嬉しくてたまらなかったな。
「なあ、叶恋。なんでこんな俺と仲良くしてくれるんだ?」
――ある日、俺は思いきって聞いてみた。
叶恋は頬を赤らめて、俺にそう告げた。
「――だって蒼士くんが虐められていて……ずっと一人でかわいそうだったし」
彼女は本当に優し――
「私、蒼士くんの事が好きだから!」
――一瞬、俺の中の時間が止まった。
おいおいちょっと待て、嘘だろ? これって告白!?
俺は胸が熱くなるのを感じた。俺は、叶恋を再度見る。
叶恋は恥ずかしそうに俯いていた。
俺は叶恋を本気で守りたいと心から思った。俺はどんなにイジメられてもいい。でも……叶恋は俺が守る。俺が幸せにするんだ。
――俺は叶恋の手を取りこう告げた。
「俺も好きだよ。叶恋」
そして、俺と叶恋の交際が始まった。
叶恋が欲しいものは全部買ってやった。
初めは叶恋は遠慮したんだ。
「高校生なのにそんなの悪い」と。
だが俺は誓ったんだ。叶恋を幸せにすると。そのためならお金なんてすぐに差し出す。
その日の午後には叶恋が、俺にと新しい眼鏡を買ってくれた。
一生の宝物を貰った気分だ。
いや、一生の宝物にするけど。
叶恋が辛いときは俺も気持ちを分かち合った。
今度は自分が励ますときだ。
叶恋が俺を励ましてくれた時の様に。
――そして叶恋との交際がしばらく経ったとき。
「ごめん、今日は一緒に帰れないんだ。また後でね!」
「ああ、分かった。じゃあな」
そして叶恋は友達の元へ行ってしまった。
最近、俺との付き合いが悪くなったような気がする。
叶恋も忙しいのだろう、と思っておいた。
その翌日のことだった。
教室で、叶恋がクラスの悪ガキに絡まれていた。
「おい、お前何で最近天道と仲良いんだよ!」
「え、いや……」
「あんな雑魚ほっといて俺と遊ぼうぜ」
「そんな事出来ないよ……! だって、私は蒼士くんを……」
「チッ! お前も、もうゴミだな」
「えっ……」
叶恋は、暴言を浴びせられその場に立ちすくんでいた。
身体が震えていた。
目に涙を浮かべていた。
――俺は両手を机に振り降ろした。
――バンッ!
教室内が一瞬で静かになった。
「俺を馬鹿にするのは構わないが……叶恋を馬鹿にするのはやめろッ!」
気がつくと、俺は悪ガキの目の前に立っていた。
「ああ? 天道。テメェ、誰に口聞いているんだよ」
俺よりも圧倒的に背が高く、俺をギロッと見下していた。
だが、そんなもの怖くない。
「お前みたいなクズが居るせいで、俺や……叶恋がどんな思いをしているか分かっているのか!」
「知らねーよ。てか、調子乗んなよ」
悪ガキが、俺のみぞおちを思い切り殴る。
「グハッ……」
元々、運動していないからだろうか。
俺はあまりにも強烈なパンチに、身をすくめる。
――だが、ここで引いたら駄目だ。
俺は拳を握り直すと、悪ガキの顔面めがけて全力で殴った。
「うっ……」
悪ガキがよろめく。
まだだ。まだ足りない。
すぐに体勢を整え、もう一度アイツを殴る。
今度は腹。お返しだ。
「ぐっ……!」
俺は殴り続けながら、こう言葉を放った。
「辛いだろ? 苦しいだろ? 俺は毎日こんなに、辛く苦しい目に遭ったんだ! テメェに気持ちが分かるかっ!?」
最後に、顔面の中央を本気で殴った。
――気が付くと悪ガキはボロボロだった。
こんな姿は初めてだ。俺はフッと、勝算の笑みを浮かべたのだった。
――叶恋が俺の元へ涙ぐんで近づいてきた。
「大丈夫か? 叶恋!」
叶恋は、何故か笑みを浮かべてこう告げた。
「私の演技で本気になるなんて馬鹿みたい」
え? なんだコレ? 何言ってんだ?
「なに黙ってんだよ。アンタのことだよ、天道くん?」
――また、一瞬俺の中の時間が止まった。
「ちょっ。何言ってんだよ叶恋」
「下の名前で呼ぶなよ、気持ち悪い」
は? ずっと今まで呼んでいただろ。
――でも、と叶恋は言って
「この絶望しきった顔、今まで我慢した甲斐があったわ」
確かに、俺は絶望に満ちた顔をしていただろう。
――本気で信じていた叶恋が、「ずっと」俺を騙していたのだから。
ただ、俺が絶望した顔を見るために。
アイツは、ここまで演じ続けてたんだ。
「なにずっと見てんの。文句あるの? アンタがクズでどうしようもない人間なのがいけないんでしょ?」
叶恋は俺をあざ笑いながらそう言葉を発した。
もう守るものが無くなった。
やっと解放されたんだ。
この束縛から。
「ふふっ……」
「は? 何笑ってんだよ豚」
もうどんな言葉も効かない。
「ふはははっ」
「……?」
もう、こんな世界はいらない。全部壊れてしまえ。
お前らは所詮ゴミだったか。どうしようもないクズだったか。
叶恋もゴミだったんだね。
「こんな腐っている世界、全部ぶっ殺してやるっ……!!」
ゴミは排除しないとね。
――怒りが俺を支配する。
――《キルシリーズを獲得しました》
怒りが俺を支配した。
俺の脳裏に言葉が浮かんだ。
『3秒後ニ後ロノ悪ガキガオ前ノ喉ニ刃物ヲ突キ刺ス』
は? 殺人かよ。
『右ニカガミアイツノ後ロニ回リ込メ』
また言葉が脳裏に……
すると、後ろで倒れ込んでいた悪ガキが何かを持って立ち上がった。
まさか本当に……
2……、1
「じゃあな、カス」
アイツは笑っていた。俺がもう後ろにいることも知らずに。
「おいおい、物騒な物を持ってんな」
「…………!?」
もう俺は悪ガキの後ろに立っている。
お前らのせいで俺の人生が狂わされたんだ。
お前がカスなんだよ。
「……お返し」
俺は握っていた何かを思いっきり悪ガキの頭上に振り下ろした。
――ゴスッ……
鈍い音が鳴った。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
頭から血が噴き出していた。
悪ガキは、鬱陶しいうめき声を上げ、血まみれで俺にすがりついてきた。
まだか、しぶといやつめ。
一回目より更に力を入れて悪ガキを眼鏡で殴った。
『グジャ……』
「ギャアアアアアアアアアアア!!!!」
悪ガキの顔は見るに堪えなかった。
俺の眼鏡も、使えないほどボロボロになっていた。
悪ガキはのたれまわった後、刃物を持ったまま動くことはなかった。
…………全部、この世界が悪いんだ。
――そして、俺の手には叶恋からもらった大切な眼鏡が握られていた。
叶恋は必死になって逃げていた。
今のアイツはヤバい――
私も同じような目に遭うかも知れない。
ただ怖い。ただただ恐ろしい。
あの狂気に満ちた顔。もう蒼士ではない。ただの、化け物だ。
自分がそうさせたのだ。
ただ、絶望する顔を見たかっただけなのに。
それを私達であざ笑いたいだけだったのに。
蒼士がいけないんだ。弱いお前がいけないんだよ。
皆に虐められるような弱いお前がいけないんだよ。
私は泣きたい気持ちをこらえて、こう呟いた。
「蒼士くんのっ……バカ……!」
読み切ったアナタは凄い。